「ティンブクトゥ」

ティンブクトゥ

ティンブクトゥ

今まで読んだ中で最も好きな小説はと尋ねられると、真っ先にポール・オースターの「ムーン・パレス」が思い浮かぶ。
主人公にすっかり感情移入できてしまって、いちいちグッとくることこの上ない。
どうも「本人は真剣だが、端から見たら愚かな行動をとらざるをえない」という状況に陥ってしまうダメ人間の話が大好きなようなのだ。
最近文庫化されたこの「ティンブクトゥ」にも、かなりクレイジーな自称・詩人のダメ人間が登場するが、この小説の主人公は彼ではなく、その飼い犬のミスター・ボーンズ。
実際に物語は彼(犬)から見た目線で語られていく。
犬は実は人間の言葉をすべて理解しているのではないかと思うことはよくあるが、実際にこのミスター・ボーンズは言葉を解し、人と同じように思考し、世界を認識している。
彼から見た、飼い主やその他の人物の描写が、もの悲しくも愛に溢れていて、グッときてしまう。
まもなく死を迎える飼い主をこよなく愛するこの犬の心情にどっぷり共感してしまい、この物語もまた、泣ける「心の一冊」となった。
人非人」とまで言われた薄情な自分だが、とうとう犬にまで感情移入できるようになったよ。これを魂の成長と呼んでもよいだろうか。