「愛のむきだし」

サーフィンに行くつもりだった朝、窓の外に降っているを見て急遽中止にしてもらった休日。
237分もある大作「愛のむきだし」を、「今日はもうひとり家に籠ってこれを観る!」と決意した。
DVDで上下巻に分かれる2枚組。長い映画というだけで観るのに躊躇する程度の映画ビギナーの自分だが、先週に劇場で観た「冷たい熱帯魚」の衝撃があまりにも強くて、一気に園子温監督に興味がそそられてしまい、ならばすぐにでもこの作品を観なければと思っていたのだった。
実話を元に作られたというが、観始めて早々に「あ、これはあくまでもベースに実際のエピソードがあるというだけなんだな」と思った。だって、いきなりむちゃくちゃな展開するんだもの。原作はコミックか?と思うほどにデフォルメされた演出と、早過ぎる展開のスピードに、映像的にまずぐいぐい引き込まれる。
「どんだけのトラウマ抱えてるんだ?」と不安になるほど、さまざまな抑圧の中で成長して来た主人公・ユウの生い立ちが語られる前半5分の1ぐらいで、もうこれで1本の映画になると思えるほどに詰め込まれたてんこ盛りのエピソード。その背景を踏まえてキャラクターが際立ちまくった主人公が、それに負けず劣らずのドラマチックな生き方をしてきたヒロイン・ヨーコとの運命的な出会いを果たすまでで、すでに約1時間…。なんとここにきて「愛のむきだし」のタイトルバック。…驚いた。
おいおい、この調子でここからさらに残り3時間って…どんな展開になるのか全く予想もつかないまま、作品世界の中に引き込まれていった。
事前に、園子温ワールドに陰と陽があるなら「愛のむきだし」はポップサイドの方だという評を読んでいたので、「冷たい熱帯魚」のような極度の緊張を強いられることはないと思って気軽に自宅鑑賞していたわけだが、実際に映像とかは普通のテレビドラマのような日常感が漂っていたりして、ちょっと拍子抜けして「うーん、どうかなこれ」と思いながら前半部分を観ていたところもあった。
しかし、やはり園作品に油断は禁物。望月峯太郎の「座敷女」をそのまま実写化したかのような妖し怖しな謎の女・コイケ(観終わった後に、演じる安藤サクラ奥田瑛二安藤和津の娘だと知って妙に納得。)が深く関わってくるにつれて、どんどん話はややこしい方向に転がっていき、主人公が半端無く追い詰められていくことになる。心の闇は暗く深いのに、とってしまう行動はバカバカしいことになってしまうという、いじましいストーリーは自分的にはかなりツボなので、観ていて面白おかしくも、せつなくて胸にぐっとくるものがあった。
(あえてストーリーの内容には触れないが)最終的にハッピーエンド?のような着地点を迎えることになるのだが、決して安易な邂逅は許さず、何度も何度も観ている側の期待を裏切り、なかなか安心させてはもらえない。それだけに観終えた後に爽快感がある。そして様々なシーンが記憶にしっかり刻まれる。4時間費やして観るべき価値のある映画だと納得した。
DVDを取り出して、部屋のカーテンを開けてみれば、薄暗い寒空の中を雪が降っていた朝の天気が嘘のように、陽の光が差し込んでくっきりとした青空が広がっていた。
…なんだこれだったらサーフィン行けたんじゃん…とも思ったが、それが惜しいと思えないほど充実した時間を過ごせたのだった。