「ヒーローショー」

ヒーローショー [DVD]

ヒーローショー [DVD]

昨年公開の邦画ではベスト級の評価がされているのを、あちこちのメディアで見聞きしており、ずっと気になっていた「ヒーローショー」のDVDをレンタル。
井筒和幸監督作品というのに偏見があり、ほんとに傑作なのか?と半信半疑だった。
実際公開時も賛否両論分かれたらしく、高く評価した人からも「すごい映画だと思うがもう二度と観たくない」とか「最高に後味の悪い傑作」といった声が聞かれ、決して愉快な話ではないんだろうなと、ある程度覚悟して観た。
お笑い芸人を目指してはいるが、明らかに見込みのなさそうな主人公ユウキ(ジャルジャル福徳の方)が、元・相方に誘われてヒーローショーの悪役のバイトを始める。気弱なこの男は何をするにも中途半端、他人に言われるがままに従ううちにトラブルに巻き込まれてしまう。
冒頭の数分で早くも不穏な空気が漂いはじめ、登場人物が空騒ぎをすればするほど空虚な心が露になっていく。「こういうイタイ奴いるよね〜」的な同意を観客に求める、なにげない日常のシーンがもうすでに怖いんだが、怖いもの見たさでどんどん話に引き込まれて行く。
ちょっとした粋がり、売り言葉に買い言葉、なめられたくないという安っぽい意地、ひとりでは何もできない臆病さ、手加減のできない自制心の無さ…ここで続いていく負の連鎖は、現代の若者の日常の延長線上にあるもので、かなりリアルだ。案の定というか、やがて事態は取り返しのつかない方へ…。
暴力性の描写に定評があるという井筒監督だが、確かに見事な演出。われわれの暮らすこの世界はこんなにもすぐそこに暴力の影が潜んでいるということを否応無しに思い出させてくれる。
もうひとりの主人公で同名のユウキ(ジャルジャル後藤の方)は、元自衛隊員でケンカの腕を買われてトラブルの渦中へ。事の発端とは無関係の奴同士が、理由のない暴力をふるい出したために、もう落としどころがなくなってしまう。このユウキは実は生真面目で男気があるだけに、もう行く所まで突っ走ってしまうのだった。こういう不毛さもすごく共感できる。争いが起こる場所が千葉県の勝浦という殺伐としたローカルの閉塞感もリアル。
後半はこのふたりのユウキが共に行動していくうちに、妙な友情のようなものが芽生えていくという、ちょっとロードムービー的な展開になっていくのだが、これは全く意外だった。本筋とはあまり関係ないエピソードが挿まれたり、意味ありげなふたりのやりとりがあり、しかもそれがだらだら長々と続くのだ。
観終わってみれば、それが行き場をなくした若者の虚ろな心情をよく表していたとも思えるのだが、自分は退屈で楽しめなかった。
このふたりにハッピーエンドが待っているわけもなく、ほんとに誰も得しないような状況をただ放り出して唐突にこの映画は終わる。
確かにいろいろ考えさせられる映画だし、今の若者の生き方に一石を投じる、観るべき価値のある映画だと思う。安易な予定調和に陥らなかったところなど、高く評価されているのは分かる気がする。
でも、自分はこの作品、好きになれなかった。前半もスリリングで引き込まれるところはあったが、そもそも暴力シーンって好きじゃないし。
そう。そもそも暴力って嫌いなのよ。なのにここ最近、暴力それも度を超えた暴力が満載の映画ばっかり観ている。なんなんだろうと自分でも思うが、やはり今の抑制されたテレビや新聞の報道や、ぬるいエンターテイメントに辟易していることへの反動が大きいんだろうね。なんか過剰でリアルなものを求めていくと、この世の暴力性や不条理性というのに行き着いてしまうんだな。…なんかこと映画に関してはマゾヒスティックな傾向のある自分に気付いてしまったのだった。
ここでこの映画のラストシーンに、悪意を込めて流されるエンディングテーマ、ピンクレディーの「SOS」がよみがえる…。ああ…怖い、ほんとに。