「SHAME」


セックス依存症といえば、俳優のマイケル・ダグラスが有名だが、この映画の主演はマイケルでもファスベンダーのほう。
過激な性描写で公開が危ぶまれるほどだったらしいが、各映画賞では高く評価された作品、「SHAME -シェイム-」をシネクイントで観た。
渋谷パルコ3の8Fにあるシネクイントに来たのは実は初めてだったが、座席の間隔が広く、スクリーンも大きく、高さもちょうど良いところにあって、すごく観やすい映画館だった。平日の昼間だからか、客は少なめ…まあ、カップルで観に行く映画じゃないからなあ。
内容はセックス依存症から抜け出せないブランドン(マイケル・ファスベンダー)の元に、キャリー・マリガン演じる妹のシシーが転がり込んできて、彼の気ままな独身生活が崩壊していくという話。
一日に何度も自慰行為をし、ネットでポルノ動画を収集し、ひたすら「性」に没頭するブランドンは、女性にもモテるため、最初は単なる好き者のように見えたが、その執着の強さが明らかになっていき、より強い刺激を求めて行動もエスカレートしていく様を見ていくうちに、何かの苦行でも行なっているんじゃないかと思わせる。
精神的に不安定になっていくのは、妹のシシーと同居し始めてからだし、またこの妹が恋愛依存体質で、ブランドンの職場の上司とも出会ったその日に寝てしまうというだらしなさ。そこでのブランドンの嫉妬ぶりは、兄としての感情を明らかに超えている。
…先日観た「ドライヴ」でも、笑顔のチャーミングな若い母親を演じていたキャリー・マリガンだが、こんなビッチ感溢れる役柄もこなすとは思わなかった。(しかもクラブで歌うシンガー役ということで、1曲まるまる歌うシーンがあるが、この歌が聴かせる!…いや、兄じゃなくてもホロリとくるほど、感情込めたいい歌いっぷりでさらに驚いた。)
ブランドンは娼婦相手なら平気でどんなプレイでも出来るくせに、自分に好意を寄せる職場の同僚が相手だと不能に陥ってしまう。そこで己のみじめさを思い知る。その後、自棄になって娼婦と3Pに耽るが、こんなに苦しそうで哀しそうな顔をしながら性交する男の顔を初めて見た。観ているこちらもいたたまれない気分になってくる。
タイトルの「shame(恥)」とは、何のことを指すのか。
淫らな行為に耽ることが恥なのか。それをやめられない怠惰さを恥じるべきなのか。何かを忘れたくて、孤独と向き合いたくなくて、セックスに逃げ込んでいることが恥なのか。その他人には知られたくない、隠したい何かこそが、恥なのか。
その答えははっきりとは示されない。
過去に何かがあったことを匂わせる兄と妹の複雑な関係…そこにお互いを縛り付ける秘密があるのは確かだが、その真相は最後まで明らかにされず、彼は結局セックス依存症から抜け出せるのかどうかもわからないまま、ラストを迎える。
この映画の冒頭で、電車の中で出会って色目を使ったが逃げられてしまった女と、ラストでは再び出会う。この前と違って、どうやら女はその気になっているようだ。…ブランドンはまた同じ過ちを繰り返してしまうのか?…
この後の彼の行動、ふたりの行く末は、観客の想像にゆだねられている。
全編性行為だらけで、「こんなもんはただのポルノだ!」と、怒り出す人も確かにいそうだ。映像は洗練されていて美しいが、やってることはかなりエグい。しかしそこに人生のリアルがあるのも確かだ。
登場人物にがっつり感情移入して観れたというわけではないが、印象的なシーンはたくさんあったし、いちいち考えさせるところもあり、かなり心に残る作品となった。

セックス依存症―その理解と回復・援助

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