「サマリア」

サマリア [DVD]

サマリア [DVD]

「絶対の愛」を観たら面白過ぎて、しかしラストのなんだかわかったようなわからないようなモヤモヤした気持ちにさせられて、いかんともしがたかったので、続けて二本目「サマリア」を観ることに。
ヨジンとチェヨンの二人の少女の物語で、ふたりは自然体のままで援助交際なんかに手を染めている。一瞬「ラブ&ポップ」みたいな話かと思ったが、そこはキム・ギドク監督、一筋縄ではいかない。
三部構成になっていて、一部の「パスミルダ」は、インドの伝説になった娼婦パスミルダに自分をなぞらえるチェヨンと、それを見守るヨジンの話。
この前半部で予想外の悲劇的な展開。
複雑な思いを抱いてヨジンがとった行動というのが、またとんでもない。
このヨジンの章に当たるのが「サマリア」。
そして第三部「ソナタ」は、ひとり娘が援助交際をしていると知って苦しむヨジンの父親の話。
小さなエピソードの積み重ねでヨジンとチェヨン、ヨジンと父親の関係性を簡潔にわからせる手腕は見事。少女にも父親にもすんなり感情移入してしまう。
ドラマとして、起こっていることは自殺あり殺人ありで激しいのだが、淡々としたテンポと静かなトーンで語っていくので、ちょっと北野武映画を連想させるところがある。
それでも思ってもみなかったところに感情を振ってしまわれて、物語の中にすっかりひきこまれてしまった。
感極まったのはラストの車のシーン。親離れ、子離れをあんなふうに走る車で表現するなんて、あのアイディアはやはり天才的。泣いて別れる父を映すわけでも、それを走って追いかける娘を映すわけでもなく、河原を蛇行しながらヨタヨタ走り、ぬかるみで動かなくなる車ですべてを表現するなんて…。それを空撮で上から俯瞰する絵が泣ける。
映像的にはひらめきとアイディアの積み重ねだが、語ろうとしていることは真に心の内側から湧き出したメッセージであり、それをリアルにそのまま表現するのではなく、現代の寓話として、一種のファンタジーとして語るところに、キム・ギドク監督作品の他の人には絶対に真似の出来ない魅力がある。
…やばい、ようやくキム・ギドクの凄さがわかってきた。これは全作品観るしかないね。
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