「SR サイタマノラッパー」

SR サイタマノラッパー [DVD]

SR サイタマノラッパー [DVD]

SR サイタマノラッパー」は、ライムスター宇多丸氏のシネマランキング2009の年間ベスト1を獲得していたし、その時のハスリング(解説)も何度となく聞いて、いい映画なのかもしれないと思ってはいたが、いまだに観ていなかった。
それは、宇多丸氏がラッパーだからこその過剰な思い入れがあっての高評価であって、日本語ヒップホップ…音楽は好きだが、ヤンキー文化と結びついた日本独自のヒップホップカルチャーに抵抗がある自分のような人が観て楽しめるかどうか疑問に思っていたから。
しかも「自主制作」映画で「オフビートな」笑い…とか言われると、おそらく積極的に面白味を見いだそうという構えでないと、かなり退屈でキツイ感じになりそうだという、先入観による苦手意識もあった。
しかし、現在公開中のシリーズ完結編「SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」(「SR3」)の評判がかなり高く、Twitterで「我がカルチャー・エヴァンジェリスト」である水道橋博士が激賞コメントを多数投稿しているのを読んで、かなり興味を惹かれた。
その「SR3」の東京での公開(シネクイント)は、いよいよ6/15までということで、急に焦りが出てきた。「絶対劇場で観た方がいい」と言われてるし…。
なので、あわてて今さらシリーズ第一作をDVDで観たわけだが…。
…いや、ほんと、すいません!って感じ。今の今まで観てなくてすいません!
素直に感動した。素晴らしい作品でした。
観始めて、まずは映画としての体裁がすごく整っていることに安心した…と同時に、インディーズ作品舐めてました、すいません!という感じに。
色調や構図などに工夫を凝らすことによって、低予算映画でもルックでメジャー作品に見劣りしないクオリティの「絵」が作れるのだね。自分のような底の浅い映画ファンは、どうしても貧乏臭い絵ヅラや、録音が良くなくてセリフが聞き取りにくかったりすると、一気に観る気が失せてしまうのでね。…これは「サウダーヂ」を観る前に抱いていて、観始めた時には解消された危惧と同様だったのだが。
シーンの切り替えで長めのフェードアウトが多用されていたのは、正直テンポがあまり良くないと感じたが、抑制の効いたシナリオと構成で、説明過多になったりしていない。長回しが多いわりには、むしろクドさを感じない進行で、退屈はしなかった。
あくまでも日常と地続きのリアリティを保ちながら、イタイ・ダサイ様子をただみっともなく見せるのではなく、そこに批評的な視点を常に意識した見せ方。そして、そこに皮肉や嘲笑ではなく、撮る対象に対して大きな愛情を抱いていることも感じさせる。…ほんとにギリギリの、一歩間違えば目も当てられない作品になりそうな、難しいことにチャレンジしていて、結果的に大成功していると思う。確かにこれ一本で入江悠監督の才能が驚きを持って迎えられたことは納得できる。
なんといってもラストシーン。あの観ていていたたまれなく居心地の悪い思いをしながら、切実に迫るものがあり、胸を打たれずにはいられない、あの最後の長回し
唐突に終わるところが賛否分かれるそうだが、自分は絶妙のタイミングで終わったと思った。
なけなしの勇気、ギリギリの希望…そういったものが示されると、やはり弱い。参ったね、まったく。

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