「ジャズと微分/積分、アフリカ的とインド的」

第59回の「粋な夜電波」の中で、菊地先生がサックスの生演奏を交えて「技術解説」をされた部分。「微分積分」「アフリカ的/インド的」などというキーワードも飛び出し、とても興味深い内容でした。
盤をかけながらの解説になったため、ポッドキャストに収録するのが難しいかもしれないと思いましたので、その部分をなんとかテキストに起こしてみました。
音で聞かないと伝わらない部分も多いと思いますが、キーワードだけでも記録しておければと、あえてチャレンジしてみました。(文中の音符記号などはダミーです。)

ええと…そうですね。今日はもう指弄ぶがままに…。技術解説する…なんっつってね、でっかく出ましたけども、技術解説って大げさですけどもね、これも何週か前か忘れちゃいましたけど、番組でコルトレーンのブルース聴いて、コルトレーンポリリズムで三連で割ってるからアフリカ的なんだっていう話しましたよね。覚えてらっしゃいますでしょうか。
あの…こう…4ビートがきて、4ビートがあってですな。(♫♫♫♫♫♫♩〜)…こうなる時に、1・2・3・4(ワン・ツー・スリー・フォー)、1・2・3・4…ってなる時に(♫♫♫♫♫♫♩〜)こういうふうに1・2・3・4に乗っかるんじゃなくて、1・2・3・4に対して(♬♪♬♪♬♪♬♪♬♪♩〜)、あの…三連符で1・2・3・4…タパトゥプティビトゥブダバドゥブ……乗るんだっていう風にね。これはアフリカ的なんだ、という話をして、それの対偶にあるのがインド的だっていう話したんですけど、「インド的って何よ?」っていうことだと思いますんで。
え〜…これ今フルプレイしませんけどね、話のツマですけども。話のツマにしては高級な(笑)…名盤ですけどね、マイルスの「ネフェルティティ」の中に入ってる…、ま、どの曲でもいいんですが…「Hand Jive」とか…
(曲)

…とまあ、こういう曲があってですね、かっこいいわけなんですけど。まあ、曲の部分はちゃんと周期ありますよね。
…ここでマイルスのソロが始まります。マイルスも実はインド…インド的ってのは誤解を招きやすいんですけど。
…とまあ、こうなりますね。ちょっと飛ばします、マイルス。マイルスを番組で早送りするってのも、なんか残虐なようなね、申し訳ないような気分ですけど。すいません、話の流れ上ね。
…これショーター始まり…ウェイン・ショーターなんですけどね、聴きたいのは。
ウェイン・ショーターのソロに合わせて、サックスを吹く)
…とこう、やってますけど、今ね、これね、ショーターがやったのは、全然周期時間の中で分割するっていうようなアフリカン・タイムじゃないんですよね。あの…アフリカ/インディアってのはひとつの喩えなんですけど。ジャズでリズム聴く時にですね、これからジャズ喫茶…いろんな所でジャズ聴きますよね、そん時にちょっと頭の片隅に…別にそんなガチじゃなくていいんで、片隅にちょっと置いといていただけると、ちょっと面白いなというのがありまして。
それはね、微積なんですね。微分積分。で…英語で言うと微分がディファレンシャル(differentia)、積分…インディグラル(Integral)って言いますけど。ディファレンシャル/インテグラル、ね。で、「微積なんかめんどくせえよ!そんな数学なんか嫌いだからジャズが好きなんじゃねえか!」って言われそうなんですけど、そんな難しい話じゃなくて、微分ってのは、決まって、でっかい単位を大きく…ケーキをね、ケーキがバーンとホールで、お誕生日おめでとうってでっかいケーキ…ま、ピザでも何でもいいです…、こう…でっかいやつを切ってって、割ってって、5人いるから五等分…難しいな…とかね、6人だから簡単だ、いや8人はもっと簡単だとか、そういうふうに、大きな単位をカットするのが微分ですよね。で、カットの仕様によって、いろんな模様が出来たり、全然違う秩序が見えたりするわけなんですけど。積分ってのは、一個ずつ最小の単位のものを積んでいくわけですよね。積み上げてって時間を作るわけなんで、微分と…当たり前ですが、真逆ですよね。で、どっちにしても微積はひとつになるんで、微分積分の感覚ってのは演ってるプレイヤーの感覚の中では、やがては融合するんですけど、とはいえ、大きな…別個の考え方ね。
あの…ウェイン・ショーター、今こうやって…(♫♩〜、♫♫♩〜、♫♪♫♪♫♩〜)って、これただ半音で上がっているだけなんですけど、(♫♩〜、♫♫♪〜、♫♩〜)ってこれ、ダンスもなんもないですよね。ただどんどんどんどん積み上げてるんですよ。で、そん時に1・2・3・4…ってやって(♫♫♩〜♪♫♩、♫♫♫♫♩♫♩〜)…とこんななってるんですけど、最後はちょっと違いますけど。
これもね、小節数でいうと1、2、3、4、5…6小節で切れてるんで、4ずつ回っていくっていう感覚をあえて避けて、奇数…あんまりない周期で積んでいくんですよね。だから1・2・3・4、2・2・3・4…って踊るような身体でこうやって聴こうとすると、どんどんどんどんずれてっちゃうんですよね。その…魔法めいてるんですよ。
(もう一度ソロの部分を再生)
…こう、自分で積んでるんですよね。ま、こういうところは適当のように聞こえるかもしれないけど、こういうところ…。
(止めて)ここ、このポイント。要するに、1・2・3・4、2・2・3・4…ってのに対して、4小節で動くっていうダンスみたいな時間の中で、時間を割っていくのがアフリカ的なダンス寄りの微分で、1・2・3・4、2・2・3・4…っていう周期、まったく気にしないで、自分で積んでいくのね。こう…重ねて重ねて重ねて、…あの、プログレなんかみんなそうですね。ダダディダディ、ダダディディ、ダディディ、ダディディ……とかいうじゃない。ああいうのは、1・2・3・4、1・2・3・4…ってのが崩れてるから、こう踊って、1・2・3・4…ダンツッッツ、ダカダカツ……こういうふうに身体が動いて各部が全部シンクロするっていうのから脱臼してるんですよね。脱臼っていうか、そもそも考え方違うんですけど。
で、このポイントは、アフリカの音楽は主に立って演奏されるじゃないですか。全員座ってるアフリカのパーカッション・アンサンブル見たことないですよね。で、逆に、全員立ってるインドのアンサンブル見たことないですよね。インド音楽は全員座ってるわけなんで。座って演奏するってことと…座って演奏するとダンスがなくなるんですよね。で、立って演奏するからダンスが残ってるんですよ。で、ダンス身体だと、リズム感が周期的にならざるを得ないんで、それを割ってくしかないです、楽しみはね。で、座ると周期ないんで、いいんですよね…周期考えなくて。ま、踊らないんで。
あの…インド音楽終結インド音楽の即興音楽のエンディングの方法ってのがあって、テハイ(tehai)っていうんですけど。…テハイって指名手配みたいですけどね(笑)。テ・ハ・イってのはオ・ウ・ムなんかと同じで、その…なんての…神聖な言葉、音なんですけど。テハイ…ま、三位一体からきてるっつーね。
で、テハイってのは、ひと言めなんか言って、ふた言めなんか言ったら、3回目は必ずそれを繰り返さなければならず、そこで終結する、っていう終わり方なんですよね。だから、「タンタンタンタカタカタ」っつったら、次に「タンタンタンタカタカタ」、もう2回言ったが最後、3回目は絶対「タンタンタンタカタカダン!」っつって終わんなきゃいけないの。だから長いテハイも短いテハイもあって、「タカタン、タカタン、タカタン!」これで終わる場合もありますし、「ウーティータータカタカディディーディ、ウーティータータカタカディディーディ、ウーティータータカタカディディーディ!」って終わる場合もあるんですよね。で、このテハイっていうインド音楽のエンディングの手法自体がもう積分なんですよね。勝手に積んでいいんで。どんな長さの…で、聞く方も知ってますんで、ライブ盤なんか聞くと、ものすごい長いテハイが決まって、…20秒間のテハイが3回で1分間じゃないですか、もうそこで。そいで…記憶力もすごいですよね、インドはなにせ0(ゼロ)発明した国で、九九が三桁だか四桁だか、五桁だか六桁…忘れましたけど、相当…いつでも頭の中に数字がある人達ですから、暗記力がすごいですね、整数的な。それを三つ積むと終わるっていう驚異的な終わり方ですね。
日本のね、短歌…「タタタタタ、タタタタタタタ、タタタタタ、タタタタタタタ、タタタタタタタ」っていうあの五七五七七は、微積が…微分積分が微妙にはんなりとひとつになった…、あの…なにせ間が許されますし、格があるにもかかわらず破格が許されるっていうね(笑)。もう、世界一曖昧な時間の割り方ですよね。だから、その感覚でみるとアフリカもインドもかなりエキゾチックなんですけど。ま、そのふたつがジャズの…あらゆる音楽の中に流れ込んでるんですけど。
体質によって全然違うっていうね。ウェイン・ショーターはどんどん積んでいきますし、コルトレーンはどんどん割っていきますし、微分型のプレイヤーか積分型のプレイヤーか、というね。積分はフリージャズ、プログレ微分はファンク、ヒップホップ、ビーバップなんかがそうなんですけども…。

にほんブログ村 音楽ブログへ
にほんブログ村