「アルゴ」


久しぶりに仕事帰りにレイトショー。
町山智浩氏が「たまむすび」で紹介されていたのを聞いてから、ぜひ観たいと思っていた「アルゴ」をようやく。
ライムスター宇多丸氏のシネマハスラー賽の目映画を予習するのも久しぶりだなあ。
平日のシネコンの21時過ぎの回はさすがにガラガラで、ど真ん中に座って観たが、振り返ると他に観客は3人ぐらいしかいなかった。
公開からだいぶ経ってしまったが、スクリーンで観れて良かった。
イスラム過激派グループがテヘランアメリカ大使館を占拠し、52人のアメリカ人外交官が人質に取られた79年の事件。大使館から脱出した6人の外交官を、『アルゴ』という架空のSF映画のロケハンのスタッフに身分偽変させるという作戦で救出するというストーリー。
事実を基にした作品なので、結果どうなるかはわかっているはずが、ハラハラドキドキしっぱなし。見事な演出。
派手なアクションはあまりないのに、最後の最後まで息の抜けないスリリングな展開に手に汗握る。
いや、傑作!
主演のベン・アフレックの抑制の利いた演技も、特命を受けたプロに徹しているのが伝わってきて好感が持てた。
カンパニー・メン」とこの作品しか主演作を観ていないので、自分にとってのベン・アフレックは真面目な映画人という印象なのだが、一時期スターとして調子に乗っていた時を知らないからなのだろうか。しかし、結果的にはスターの座からの転落、挫折、低迷期を乗り越えて、真剣に映画に向き合うようになって今があるというのは、本人にとっても、主演もできて脚本・監督もできる実力派が出てきた映画界にとっても、すごく良いことだったのだと思われる。
今作でも、主役のCIA工作課長に、妻と別居中で仕事と家庭の問題に悩む孤独な男という設定を加えて、ベン・アフレック自身が投影できるようなキャラクターに脚色している。これも当時の状況をドキュメント的に再現するだけでなく、現在の観客が感情移入しやすくする効果もあって良かったと思う。
2012年の新作として撮られる意味ももちろんありながら、画面は1980年当時の映像に見えるように加工されており、映る景色、再現されている出来事が細部までリアルなのはすごい。どうやって撮っているのだろうか。
脚本不足のハリウッドも安易にコミックの実写化に走るばかりでなく、実話再現ものでも丁寧に作り込み、効果的な演出を加えれば、新作として十分通用するだけでなく、結果的にいつ作られたかがあまり関係なくなる、タイムレスなマスターピースが残せることになることを証明した本作を大いに見習うべきなのではないだろうか、などと偉そうに言ってみたくもなったりして。
うーん、面白かった!