「次の朝は他人」



シネマート新宿ホン・サンス監督作品「次の朝は他人」を観に行った。
韓国映画は好きな方だが、キム・ギドクポン・ジュノパク・チャヌクイ・チャンドンといったフェイバリットな監督の作品はチェックしていても、不勉強ながらホン・サンス監督のことは全く知らなかった。
じゃあなぜ観る気になったのかというと、この日の19時の回の上映終了後に、菊地成孔先生のトークショーが予定されていたからでした。
菊地先生経由で興味を持ったとはいえ、ブロマガの「ビュロ菊だより」も拝読しているのに、映画評コーナー「TSUTAYAをやっつけろ!」のプレ第一回でこの作品を扱っているところを読み飛ばしてしまい(今回のパンフレットに同内容の寄稿あり)、結局どういう作風の監督なのか、などの予備知識をまったく持たないままに、ただ映画館に来たのだったが…。
結果的にそれがよかったのかもしれない。何も知らずに観始めて、結局何が何だか全然わからなかったのだが、それをその後のトークで解説していただいて、なるほど〜と感心して、ホン・サンス監督にかなり興味が湧いたのだから。
シネマート新宿で現在公開中なのは、この「次の朝は他人」のほかに、「良く知りもしないくせに」「ハハハ」「教授とわたし、そして映画」の全4作品で、「恋愛についての4つの考察」というタイトルでの特集上映となっている。まずは1本と思って「次の朝は他人」を観たが、ほかの3作品もぜひ観たいと思っている。
韓国映画というと、激しいバイオレンス描写や、極端なまでの愛憎…その業の深さが特徴的で、良くも悪くも観ると強烈な印象を残す作品が多い。実際に自分もそういう作品でハマったくちでもある。
しかしホン・サンス監督は先に挙げた、いわゆる韓流ムービーの代表的な監督とはかなり異なった、独自の路線を歩んでいるようだ。
素人目でもパッとわかったのは、フランス映画っぽいな…ということだ。たまたま「次の朝は他人」はモノクロだったこともあって、それこそヌーヴェルヴァーグのような雰囲気が感じられた。
ソウル市内を撮っているはずなのに、街自体がパリのように見えるというのも観てすぐにわかった。あとは独特の間が、コンテンポラリーな作品と明らかに異なり、むしろアート・フィルムのように感じられる。
ストーリー自体は難解でもなく、恋愛映画なので、男と女の出会いと別れがあって…というもの。会話が多く、登場人物がそれぞれ恋とは、愛とは、人生とはについて語るというところも、フランス映画の影響が強いようだ。

ただ、自分はフランス映画についてほとんど無知なので、ゴダールロメールの作品にどれだけ近いか、または離れているかということについては考えが及ばない。
その辺りについて、上映後の菊地先生のトークの中で言及されていて、フランス映画の影響に加え、ルイス・ブニュエルの要素も入ってきて、さらに危うく、美しい作品に仕上がっているというようなことも。
作品そのものを観ている間も、「話の筋としてはなんだかよくわからないところも、矛盾していると思われるところも多々あるが、とにかく画面が美しいのでボヤ〜ッと観入っちゃってしまうなあ…」という感想を抱いていたが、解説を伺った後でも、その印象は消えず、結局わかったようなわからないような曖昧な気分のまま、でも決してそれは悪くない気分のまま映画館を後にした。
菊地先生のまとめによると、この映画を観ることで、まさに観客が恋愛によってもたらされる状態そのものに置かれるのだ、ということだそうだ。
そういう意味では確かに、自分の今回の映画体験がまさにそうだった。
ホン・サンス監督のマジックを十分堪能したといえるのかもしれない。

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