「希望の国」


園子温監督最新作「希望の国」をようやく観た。
冷たい熱帯魚」を観た時の衝撃がきっかけで、マイブームに映画鑑賞が加わったほどで、園監督の過去作もDVDで追いつつ、新作は常に楽しみにしていた。
恋の罪」も「ヒミズ」も公開直後に観に行き、期待を裏切らない出来で、「さすがは園子温監督!」と唸っていたのだが…。
今回の「希望の国」は、公開後数週間経っても、なかなか観に行く気になれなかった。なぜか?
東日本大震災に正面から向き合った作品で、園監督のオリジナルの脚本だし、頻繁にメディアに登場してインタビュー等にも答えているところからも、かなりの力作であることは窺える。
しかし、まだその惨劇の記憶も新しい、震災という立ちはだかった厳しい現実をフィクションとして物語るにはまだ早過ぎるし、特にエキセントリックな園監督の語り口とは相性が悪いような気がしてならなかったので、どうにも観る前から心配だったのだ。
平穏で退屈な世の中だったからこそ、園監督のぶっとんだ映画が刺激的だったわけで…。この状況で映画が何を表現出来るかという、監督的には大きなチャレンジだったとは思うけど、使命感に燃えて、世に訴える作品を撮る!という意気込みが強過ぎるような気がしていた。
で、実際作品を観て、やっぱり…という思いがした。
「長島県」という架空の舞台を設定し、超現実の園子温ワールドに観客を引き込もうとしてはいるのだが、実際に福島の被災地で撮影された映像が強烈過ぎて、そこで役者が演じるドラマとのバランスが悪くて、かなり違和感があった。
夏八木勲大谷直子ら、演技派の俳優で固めていても、やはり詩人でもある園監督の書くセリフは、大仰で芝居がかっているところもあるので、ドキュメンタリーとしては観れないし、フィクションとして観るには当時の記憶を呼び起こす風景が生々しい。
正直、神楽坂恵の演技は、あんまりうまくないなと思った。今までのようなエキセントリックな役柄だと目立たなかった演技力の拙さが露呈してまった感じ。村上淳も真に迫る演技とは言い難く、自分はこの家族のドラマに感情移入することができなかった。
どちらかというと、お隣さんの家族のエピソードの方がリアルに感じられたかもしれない。でんでんはやっぱりいいなと思ったし。
この映画、でんでん一家と夏八木一家を逆の配役にしたら良かったのでは?と個人的には思った。もちろんキャスティングだけの問題ではないと思うけれど。
しかし、この作品がこのタイミングで撮られたことの意義は大きいと思う。もうしばらく時間をおいてから観返したら、また違った感想を抱くかもしれないとも思う。
園監督の熱意は十分伝わった。ただ、残念ながら、自分が個人的に園作品に期待しているものとは、今回はテイストが違っただけなのだろう。
次回作はまたこの作品とはガラッと変わったコメディだとか。…期待してます。

希望の国

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非道に生きる (ideaink 〈アイデアインク〉)

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