「Mommy」



仕事帰りにヒューマントラストシネマ有楽町。グザヴィエ・ドラン監督「Mommy/マミー」を観て来た。
公開を楽しみにしていた作品だが、なかなか時間が合わずようやく。
この作品を最後に監督業から一時離れる…とか言われてたけど、結局撮り続けているドラン君。いや、嬉しいけど。
ドラン君のデビュー作が「マイ・マザー」で、本人主演で母親との愛憎入り交じる関係性を描いていたけれど、5作目にして原点回帰?
母親役はまたアンヌ・ドルヴァルだし、重要な役どころでスザンヌ・クレマンも出演するので、ひょっとしたらセルフリメイクのような感じになるのかな?とも思っていた。
しかし今回も新たなチャレンジがたくさん試みられており、まず驚くのは1:1の画面比率を採用し、正方形の枠の中で物語が進行していくこと。
ドラン君の映像の美しさは、細部までこだわりぬかれていて、毎回毎回、映画のどのシーンを切り取っても写真家の作品のようで、ため息が出るほど。
それを正方形に切り取って見せられると、さらに写真的に見える。インスタグラムの静止画でパラパラムービーを作ったかのようでもあり、逆に今っぽい感覚も。
ドラン君独特の美学は、現代の世俗からちょっと離れたところにあるようにも感じていたのだが、今回の作品は使われている音楽も最近のものだし、oasisの「wonderwall」が流れて、歌詞の字幕も表示されたりすると、ほんとにミュージックビデオっぽくて、このあたりの俗っぽさはあえて狙ったところなのだろうか。

息子の年齢を15歳に設定し、その若さゆえの激しさと危うさにリアリティを持たせるための演出だったのだろう。
そのスティーブ役にアントワン=オリヴィエ・ピロン君を起用。多動性障害と診断された、この過激な少年が母親を否応無しに巻き込んでいく、そのパワーのあり方が、ドラン君本人が主演した「マイ・マザー」でのナイーブな青年と母親とは、また異なる関係性を生み出していく。
時に愛おしいほど純粋な関係に見え、時に恐ろしいほど冷えきった関係にも見えるこの親子だが、心の機微を細かいところまで描いているので、母にも息子にもそれぞれどんどん感情移入してしまう。
どう考えても誰も幸せになれない状況なのに、この二人に輝かしい未来あれと願わずにいられなくなる。
ラスト近く、一瞬のうちに、息子が立派に成長して幸せを掴むことができたら…という想像から、母親がふと我に返るシーンの絶望感に打ちのめされたが、それがあってなお「諦めたら未来はない」というメッセージを投げかける、その勇気にも心打たれた。
ラストシーンが、あんなに痛快なのはそのせいだろうか。
普通に考えたら暗くなるストーリーなのに、観ている間も重苦しさは感じなかった。ただただ美しい映像にうっとりするだけ。
どんどん叙情的にナルシスティックな映像美に浸っていく傾向にあり、観る人によって好き嫌いがわかれるかもしれないが、自分はもうすっかりドラン君のファンなので、いつまでも彼の美学を貫き通してほしいと応援するばかりなのである。

マイ・マザー [DVD]

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