「『Tea Times』に狭間美帆さんを迎えて。」

「粋な夜電波」第268回放送は、先週に引き続き、大西順子さんのアルバム「Tea Times」の全曲試聴会。後編の今回で、狭間美帆さんとのコラボレーションが実現した経緯など、レコーディングの裏話がたくさん聞けました。その一部を文字起こししてみました。

タイム・リヴァー

タイム・リヴァー

はい、「菊地成孔の粋な夜電波」。ジャズミュージシャンの、そして…
「ええっ! 安倍晋三麻生太郎の家がこんなに近いの!?」菊地成孔が(笑)TBSラジオをキーステーションに全国にお送りしております。
…すげえ近いの(笑)。
え〜…今週は、先週に引き続きまして、ジャズピアニスト大西順子さんの新譜にして復帰作であります、私が前面プロデュースさせていただいております「Tea Times」。非常に強烈なアルバムになっております。全曲試聴会の後半戦をお送りいたします。
アルバムの曲順に則ってまして、全曲で…ボーナストラックとか無いんで、全10曲なんですね。で、10曲中、切りよく先週が5曲で、今日5曲なんで。まあ、LP時代…ヴァイナル時代で言えばA面が終わってB面にいくとこなんですよね。
で…先週お聞きいただいた方はお分かりいただけると思うんですけど、ちょうどこのアルバムの折り返し地点で、挟間美帆さんが出て来る…っていう感じなんですよね。
まあ…アレンジャーと作曲家だから、いわゆるラッパーみたいにFt.…フィーチャリングと呼べないですけども、もう実質上の大フィーチャーですよね。
このアルバムを作る際に、先週申し上げた通り、大西順子さんにこういうものをやってもらえたらな〜。」っていう妄想は、ワタシ実は出会う全然前から、大西さんのいちファンだった頃からあったんですよね。
デトロイト・テクノをピアノに直して大西さんの剛腕で弾いてもらいたい。」…このアイディアなんて、もう2000年代にありましたし、初期に。
「ちょっとバド・パウエル風の…泣ける…泣けるっていうか普通の…哀愁のコード進行にですね…のピアノのメロディの打点が凄い。聞く人が聞くとヤバい打点にいて、かっちょいい。でも地味で鈍くて素晴らしい。こういうのを大西順子さんが演ってくんねえかな。」とか。
まあ…「『クロマティック・ユニヴァース』…ジョージ・ラッセルの曲を、大西さんが多重録音でやったらカッコいいんじゃないかな。」とか、ずーっと思ってた事がですね、実際あって。
何て言うか…世の中運命ですよね。ベートーベンの「運命」ですよ。ジャジャジャジャーン(笑)。
だから…何て言うか、考えてた頃はただの…まさかのちにそれが現実になるなんて思ってもいないわけね。はい。まあ…でも、なるわけですよ。
ワタシの夢想した事が全部現実になってるとか言うわけじゃないですよ。夢想した事が現実になると、「夢想したら叶う!」とか言い出しちゃって、オカルトになっちゃう人多いですけど。ま、「いっぱい夢想しておけば、一個ぐらいは現実になる事あるよな。」っていうのがホントのとこだと思いますけどね(笑)
かといって、それだけだとアルバム1枚持たないし、それだけでよしんばアルバム1枚持ったとしても、それじゃダメないですか。
やっぱ、作ってるそのオンタイムのね、アイディアが無いと。
なんで、まずパッと考えたのは、挟間美帆さんに丸投げの1曲…こういうのを委嘱作品っていうんですけど。「いしょく」は「変わった色…異なった色」じゃなくて、難しい字書くんですけど。お願いして書く…丸投げの曲ですね。
前回の最後の曲は、ワタシの曲に対してアレンジメントしていただいた、オーケストラだけアレンジメントしていただいたわけですけども。まあまあ…それも凄いですよね。
挟間美帆さんも大西順子さんも…あの、これは御世辞ではなく、お綺麗ですし、グットシェイプ…大西さんは凄いですから。ピアノの速度が落ちないように、あと演奏はすごい有酸素運動なんでバテないように、毎日水泳行ってますよ、今ね。
女性誌なんかにこれだけ…ま、年齢…歳バレ…あの方OKだったかな…ワタシとさほど変わんないですよ。ワタシより下は下ですけどね。ワタシ53ですけども。
そんな大西さんと、あとは若き…狭間さんってお幾つだったかな?…狭間さんの歳バレはNGだったかもしんないから言えないですけど、ていうか、ちゃんと知らないですけど。
狭間さんという若き才能…女子の、かといってフェミニンじゃないのよね。まあ、何て言うか…「ニュー・フェミニン」っていうか、昔みたいに「女性はフェミニンか、あるいは男勝り」っていう時代じゃないですから、今は。
デフォルトとして、ジェンダーは20世紀から入れ替わっちゃってるんで。女子が強め…昭和の目線から見たら強く見えるってのは、もう今や当たり前の事なのよね。だから、そのこと自体が大変な剰余価値を持ってるってことはないんですよ。
なんで、狭間さんも大西さんもそうなんだけど、まあまあ…これは褒め言葉ですけど、言っちゃ気も強いし、書く物も力強いですし、当たりがガツンとしてるのね。
なんだけど、その中にやっぱり美しさとか柔らかさが内包されてるわけ。
だから…これもね、言葉で言うとあざといというか陳腐ですよね、なんか「表層だけ男勝りで、中身は優しいんですよ。」とか、そんなシンプルな…低能な話をしてるわけじゃないんですけど。
音楽が一番雄弁です。音楽を聞いていただきましょう。
もう一度申し上げますが、前回の一番最後にかかった曲「GL/JM」は、ワタシの曲を狭間さんがオーケストラアレンジしていただいたものですが、今からお聞きいただくアルバム6曲目になります「The Intersection」…これはまあ…言ってしまえば「交差点」って意味なんだけど、いろんな交差を表してるんですよね。
リズムがポリリズムになってまして。挟間さんもワタシも形式は違いますけど、ポリリズムにすごい興味があるミュージシャンではあります。
で、丸投げですから「こんな曲を…」とは何にも言ってないんですけど、ちゃんと…ちゃんとっていうか、ワタシ好みのポリリズムな、ダブルタイムが複雑に絡み合う、そしてキーも…楽曲のキーね、何何調ってあるでしょ、ハ長調とか…ああいうキーも交差している。ま、ポリリズム、ポリトーナルという、その交差ですよね。その交差点を表す「The Intersection」というタイトルになってると思いますが。
まあまあ…とんでもない、素晴らしい楽曲ですので。本日の1曲目になります。アルバム「Tea Times」のTrack6、挟間美帆作曲で「The Intersection」。

Tea Times(SACD HYBRID)

Tea Times(SACD HYBRID)

(曲)
はい、アルバム「Tea Times」より「The Intersection」。作曲は挟間美帆さんです。
これを録った時はね、挟間さんが…狭間さんってニューヨーク在住なんですよね。
ほんで…この譜面も来てるし、リハーサルもこっちは日本でやってるんですけど、とはいえ狭間さんにレコーディング立ち会ってもらわないと、ちゃらっと録れる曲じゃないじゃないですか。お聞きの通り。
なんで、狭間さんとは…あれ、便利ですね。Skypeってやつね(笑)…スカイプでですね、狭間さん早朝に起きていただいて、こっちの時間に合わせていただいて。スカイプで狭間さんとやり取りしながらレコーディングしました。
だから、スタジオの真ん中にiPadっていうの?…あのこういう四角い下敷きみてえなやつ…に画面いっぱいに狭間さんの顔が(笑)。
まあ、その…狭間美帆さんのファンの方も聞いてらっしゃる可能性もありますから、「とんでもねえ野郎だ!」ってシメられちゃいけないですけど。ワタシのせいじゃないんですけどね。
狭間さん…あの…なんと大胆にもですね、あそこらへんもやっぱり「新時代の女子」って感じですけど、寝起きのノーメイクで出て来たんですよね(笑)。バッ!って。「菊地さ〜ん、おはようございま〜す。」って言って出て来て(笑)。「菊地さん、みなさ〜ん。」って。
挟間さん、完全寝起きですけど!…って。「狭間さん、寝起きですよね?」「はい、寝起きで〜す。」とか言って。
あと近眼なのかな?…普段あんまり人前に出る時はかけられないんだけど、プライヴェートではおそらくかけてらっしゃる私物の眼鏡かけて、ノーメイクで寝起きだったんで。ま…変な意味でドキドキしましたけどね(笑)。音楽的な意味を超えたところで。
ま、狭間さんにそういう状態で…結構そういうの気にしないのね。
で、レコーディング…狭間さんが関係した曲は2曲あるんで、さっきの「The Intersection」の7分超えしたあたりで、もう大丈夫だって踏んだんでしょうね。そこまではリハーサルをやって止めたり、もう一回って言ったり狭間さんから指示もらったりワタシも指示出したりって、何回かやって。それで「もう7割出来たな。」って辺りで、「じゃあ、失礼しま〜す。」って、いなくなっちゃったんで(笑)。
あそこら辺のね、サッパリした感じも(笑)。「おぅ、消えるのか、ここで!」って思いましたけども(笑)。
やっぱ…まあ…骨太ですよね。すごいな〜と思いました。
ま、狭間さんと大西さん…大西さんのアルバムに狭間さんが作曲家・アレンジャーとして入って来るっていう、新旧留学組ですよね。主役二人に女性がいて…っていう座組みですよね、…をまず作って、そこにOMSBeat'sとかいろんな人が入って来る、だけどメインはピアノトリオで、いろんなスタイルがある…というのが、プロデューサーとしてのワタシの仕掛けの仕事ですよね。
自分で言うのも何ですけど、だいぶ上手く行ったと思います。