「年寄りこそがユース!」

日曜夜8時に放送時間が変更になった、TBSラジオ菊地成孔の粋な夜電波」。通算307回目の放送は、レコーディングで超多忙な近況の報告、そして出来立てホヤホヤの新作をいち早くオンエア。
番組後半の「これからは年寄りがユースカルチャーだ!」という持論を展開したトークの部分を、文字起こししてみました。

THE KIDS(通常盤)

THE KIDS(通常盤)

22(日本ライセンス盤)

22(日本ライセンス盤)

はい、どうも。「菊地成孔の粋な夜電波」。ジャズミュージシャンの菊地成孔が、TBSラジオをキーステーションに全国にお送りしておりますよ〜。
えーと…全然なんか…メール読んで盤の説明してるだけで、日々の面白い話とか、何にもしてないですよね。
あの〜…それは何でか?っていうと、日々が全然面白くないから(笑)…なんですけど。しようがないっていうね。ええ。
もう、今ヤバいんですよ。
さっき言ったように、ワタシ、レーベルやってるんですけど。
こないだね、1枚…レーベルから…ワタシがやってるレーベルっつっても、ワタシの作品だけじゃなくて、私プロデューサーでいろんなバンド出るんですよね。
そうすっと、その…リリースするバンド全部に付き合ってるんだけど。プロデューサーだし、レーベルオーナーだから。レーベルオーナーっていうか、レーベル代表者だから。金出してないからオーナーじゃないな。
なんだけど、やっとこないだ1枚出たの。で、今やっと…それだって大変だったの。作るの。当たり前ですけど、アルバム1枚作るって結構大変ですからね。
で、終わって…なかなかいいもんができたんですよ。今日、最後にそっから1曲聞きますけどね。
で…いいもんできて、「やった、よかった〜!」と思ったら、もう次。
次…今ね、ジャズドミュニスターズっていう、ワタシがラッパーとして参加してるアルバムが…夜。
夜ってのは(笑)…だいたい夜帯に制作してるからなんですけど。
あと〈ものんくる〉っていうね、この番組ずっと聞いてた方には…吉田沙良さんですよ。吉田沙良さんが…月に1回来てたね、先月お休みでしたけど。
まあ…先月今月と、〈ものんくる〉レコーディングが忙しいんで、ちょっとこんな番組来て一緒にコントやってる場合じゃないっつんで。歌い込みに入ってるんでね、お休みしてますけども。吉田沙良さんがヴォーカルやってる〈ものんくる〉が昼。
だから、昼〈ものんくる〉の現場、夜…ジャスドミュニスターズの現場…っちゅう感じで、もう…間の移動とか、寝てるからね。とにかく(笑)…ええ、寝てる間に移動してますからね。で、帰ったら寝てますからね。ええ。
んで、毎日…翌日はレコーディングの準備して寝てますから。もう何も…特にね、私生活で面白い事が無いんですよね。
ま、あるとしたら唯一ね、やっぱ21世紀ですなあ…まず最初に起こった事が「ジェンダーの転倒」。女が男っぽくなって…昭和と比べてですよ。昭和と比べて、女が男っぽくなって、男が女っぽくなる…なーんてのは、この20年間ぐらいで、ゆっくりゆっくりやって来たから、皆さん…「まあ、なるほどな。」と。特に年配の方は「なるほどな。」と、こう…思われたと思いますけども。
まあ、最近はそれに引き続きまして、なんか役割の移動っていうことで…やっぱこれからはね、「年寄りがユースカルチャー」だと思うんですよね(笑)。
そんで、若者が老人化すると思うんですよ。もう完全にそうですね、やっぱりもう。
その「年寄りがユース」…「ユース」ってのはそのままヤングの…若者ってことですけど。
つまり、「自由奔放」「未完成」「デタラメ」…なんていうのが年寄りで(笑)。
若者が老人化してね、すごい…こう…賢者っていうかね、ちゃんとしっかりするようになっていく…という事を、毎日タクシーにいっぱい乗ることによって知る!…っていう話ですよね(笑)。
最近のねえ…まあ、ワタシだけなのかどうなのか、皆様からもお便り頂きたいところですけどね。ワタシの知る限りですけど。
ワタシね、一日…長沼が運転する事務所の車にも乗ります…乗りますけども、それ以外私用だとか、いろんな…長沼が打ち合わせで車転がせないっていう時はね、タクシー。
そうすっと、日にね…多いとね、12〜13回乗るんですよ、タクシー。で、その結果ですよね。
ワタシ…100%外食、タクシー日に12回っていう暮らし…ですね。で、貯金ゼロ!…っていうね(笑)。貯金0、子どもゼロっていう極端な暮らしを…人生を生きてるわけなんですけども(笑)。
そのタクシーの頻度からするに…最近とにかくワイルドでパンクでヤバい…「もう、オマエらユースだろ!」ってのは、年寄りですよね。圧倒的に。
とにかくね、最近は…手挙げて、もう視界に入った瞬間にパッとハザードっていうの?…フォグランプか…を点けて、手挙げたら「乗せますよ。」っていうランプ点けるのがパッと早いのは、大抵若い運ちゃん…運転手さん。
そいで、「もう…点けろよ、オマエは。ギリギリだろ、ばかやろ。何やってんだよ!」って、昔だったら若者のデキない運転手だったんだけど、それ大抵お爺さんですからね(笑)。
反射神経がおかしくなって…まあ、老人に対してね、反射神経が悪くなってるって思うのは、まだ牧歌的な話で、違うんですよ。開けると、すげえシャキッとしてんの。
だから、余裕ぶっこいてんの、もう。なんか態度悪い若者みたいな感じの…遅いんですよね。
で…乗るとね、調子いいんですけど、なんか変わった人多くて。
いきなりね…ワタシ座るでしょ、一人で乗ること多いですから、乗りますわね…そうすっと、まあ…脇が空きますよ。そうすっと、そこに(笑)…何でしょうね、アレ。タクシーの車載のラジオがあるじゃない。AMラジオ…ま、それこそTBSとかね、よくかかってたりして。
この番組…収録ですから、オンエアの時にうっかり乗っちゃったりすると、テメエが喋ってんのを移動で聞くことになって、顔が真っ赤になったりするんですけど。ま、それはともかく…
あれの代わりに、もうちょっと個人運転手さんなんかね、個人タクシーさんなんかで、昔だったらオーディオに凝ってる方が…いい再生装置なんか付けてたりしたもんですけど。
いきなりタブレット、こないだ投げられて。ボンッ!て。
投げてきたのよ。投げてってワタシ目がけてじゃないですけど。ワタシの隣のスペースに、ポンッて放ったわけ。タブレットを。
ええ〜!?…って思って(笑)。タブレット放られたよ…。」って思ったら、そっから結構いい音で…つまりラジオを聞かせてくれたんですね。
タブレットってすごいね。いろんな機能があって。
で、何が流れてたかっていうと、ピーター・バラカンさんの番組だった!っていう(笑)。
これにはねえ…「俺を菊地成孔と知っての狼藉か?」っていう感じでしたけどね。ま、多分知らなかったと思うんですよね。
で…「この番組、いいですよ!」って感じなんですよ。うん。「私、音楽好きで、ラジオなんかも好きなんですけどね。この番組いいですよ、お客さん。」って感じで、ポイッて放ってきたの、タブレットを。いかにも「洒落てるでしょ?」って感じで。
で、バラカンさんの喋りが聞こえてきちゃってね。バラカンさんの選曲で…まあ、悪ぃはずないんですけど。バラカンさんの選曲だから。
「ああ…ありがとうございます(汗)。」みたいな感じで(笑)。なんとなく緊張したまま現場まで着いちゃって。タクシーの中で寝たかったんですけどね、眠れなかったですけどね。
あと、凄かったのありましたねえ。あの…ワタシがスケジュール手帳開いてたんだよね。
まあまあ…小忙しくしてますから。いちおう…小さい二人っきりとはいえ、会社の代表取締役ですから、小忙しくしておりまして。
「この日、何時から何時…」かなんかで、見るじゃないですか、スケジュール帳。
そしたら…それ見て振り返りながら、「読書かい?」って言った運転手さんがいて(笑)。
「お兄さん、読書かい?」って言われて。
お兄さんじゃねえよ!って。「下手したら俺の方が上だぞ、テメエ!」って思いましたけど(笑)。
まあ、五十絡みのね…五十絡みが今一番厄介ですよね。厄介なお年頃ですよ、ほんとに。まあ、あいつらがユースですよね。ほんとに…いつまでたっても大人にならないで。
かと思うとね、60代、70代が落ち着いてるかっつーと、結構六〜七十代、奔放になっちゃって。なんかもう…絶対年寄りの方が、これからユースカルチャーだよっていうね。
だから、年寄りに向けて番組やったり音楽作ったりしたほうがいいな!って。
若者…若い運転手さんとかって、すごいしっかりされてて。シャキシャキシャキシャキ…ちゃんとね。行き先とかもね、だいたい…ロンドンの運転手さんみたいですよね。ほんとにもう、ちゃんとわかってる方が多いですよね。
「若者は危なっかしくて、若者は仕事ができねえ!」なんていうところは…一般の…ワタシ、堅気やった事無いんで。実家が水商売で、テメエが水商売ですからね。堅気のこと、全然わかんないんだけど。まだ、若者が危なっかしい…とかあるんですかね?
ヤシマ君、全然危なっかしくないよね。(番組ADの)ヤシマ君が下手したら(ディレクターの)戸波さんよりずっとしっかりしてるからね。言っちゃあなんですけどね。ええ、7年目だから初めて言える事っていうところもありますけどね。戸波さんの笑いが引き攣ってますけども(笑)。
昔…昭和なんかだと、若者が全然ダメで上司がカリカリしたりしたもんですけどね。なんか今では逆になっちゃって。
相当ゆるいですよ。60ぐらいの人ですかね、「この辺り、ちょっとよくわかんないんで〜。」って平気で言う人いて(笑)。
「…おじいさん!」って思って。とにかく「しっかりしてくださいよ、おジイさん!」って思って。「御老体!」って思ったんですけど。まあ…「御隠居!」っていうね。
「ここら辺、よくわかんないんで。教えてもらえますか〜?」って言われて、「はい、わかりました。」(笑)。
そんなこと、若者で言う人いないですよ。恥ずかしいもん、若者は。SNSやってるから。
恥ずかしいとかね…対人関係の中で、実際リアルで恥ずかしいっていう事を避けますよね、若者はね。
だけど、もう…ジジイは、のうのうと、いけしゃあしゃあと、面の皮厚いですから
もうね、いろんな話があるんですけど(笑)…やっぱ410円時代がね、拍車をかけるんだろうと思うんですよ。あの…ジジイが適当になることが。
ま、これはすべて良い意味で言ってますけどね。
あの…昔の御隠居みたいなね、感じではなくなってきて、年寄りがどんどんどんどんパンクになっていくと思いますよね。
ま、その事をタクシーで知っている…男がやっている番組だと思っていただければ、ほぼほぼ間違いないと思いますけどね。