「映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』撮影裏話」

TBSラジオ菊地成孔の粋な夜電波」第356回放送は、3人のゲストをお迎えして。
絶賛公開中の映画「素敵なダイナマイトスキャンダル」のプロモーションとして、監督の冨永昌敬監督、原作者の末井昭さん、菊地さんと共同で音楽を担当した小田朋美さんがTBSラジオのスタジオにお越しになりました。
爆笑続きの映画撮影秘話が語られた、4人のトークの一部を文字起こししてみました。

「素敵なダイナマイトスキャンダル」オリジナル・サウンドトラック

「素敵なダイナマイトスキャンダル」オリジナル・サウンドトラック

菊地 はい、「菊地成孔の粋な夜電波」。本日は「素敵なダイナマイトスキャンダル」の映画作品そのもの、並びにオリジナルサウンドトラック盤のプロモーションということで、監督の冨永昌敬監督、そして原作者であり音楽家でありますす末井昭さん、そして私と一緒にこの映画のサウンドトラックを担当してくださいました小田朋美さん…お三方にいらしていただいております。…とまあ、そんな感じで、今サブの方からね…「撮影裏話をしてくれ。」って言われましたけど、あります?…面白い裏話…
冨永 ありますよ。
菊地 あります?
冨永 いや、あの…観てくれたお客さんから聞くのは、「菊地さんの…
小田末井 (笑)。
冨永 「菊地さんのタトゥーがそのままなのも含めて、菊地さん…すげえ〜!」とか言われるんですけど。
菊地 はい。
冨永 俺、言いますもん。「菊地さんのタトゥーは、あれ映画のために彫ってるから…彫り直してるからね。」
菊地小田 (笑)。
冨永 「普段と違うからね。上から書いてるから。ちゃんと役作りとして書いてもらってるから。」って。
菊地 まあ、まあ…ね、独特な熱量の冨永ギャグが…(笑)。
冨永 (笑)。
菊地 面白いのか、面白くないのかはギリなところですね。うん。あの…ま、書き足してないですけどね(笑)。そのままやってるわけですけど…はい。
小田 (笑)。
菊地 ま、ワタシが出てるんですよ、とにかくね。
冨永 はい。
菊地 もう、ほんとに端折って30秒で話すと、ワタシが出てるということなんですけど。ま、最初は断ってたんですけど。まあ…やっぱね、なんつーか「七年殺し」とは言ったもんだよね。
冨永 (笑)。
菊地 ほんとに。7年間ずっと「出ろ、出ろ。」って言われて、「絶対出るか、バカヤロー!」…なんか途中からビートたけしみたいになってきて「ダンカン、バカヤロー!」みたいな(笑)。
冨永 (笑)。
菊地 冨永君がオレの前に現れる度に、いきなり「バカヤロー!」みたいに…「出るか、バカヤロー!」みたいな話が…ずーっと押し問答を7年間続けていたんですが…
冨永 ええ。
菊地 ま…当たり前ですけど、もう二度とやんないですけどね。
冨永 あっ…そうですか。
菊地 うん。二度とやんないですよ。オファーは、はっきり言って…来てます。
末井 (笑)。
小田 来てるんですね(笑)。
菊地 オファー来てます。なんでしょうね、日本の映画界…ほんとにね、すごいイージー
冨永 えっ、どっから来てるんですか?
菊地 あのね、世の中ってすごいイージー。「ルパン三世」の音楽やったら「ガンダム」からオファー来る。1本映画出ると2本目が来る。もう何て言うかさ…その人の本質とかじゃなくて、一回なんかの仕事をやったっていう事をきっかけに「じゃあ、うちらも…。」っていう、柳の下の…オファーばっかりですよ。
末井 うーん。
冨永 そうですね。ええ、ええ。
菊地 だから、もういっぱい来てるんだけど、全部断ってますからね。
冨永 ええ。
菊地 とにかく、決まったセリフを喋りながら決まった動きをするって事はできません。ワタシには。
冨永 やってないじゃないですか。
菊地 (笑)。いや、決まってるよ。
小田 決まってない?
冨永 決まってないですよ、あんまり。
菊地 決まってるよ。だって…決まってないの?…あれ。
冨永 え?…いや、決まってる事プラス、ナルヨシさんが膨らましてくれた結果ですよ。
菊地 いやいやいや…膨らましてないよ。萎ませてるよ。
小田末井 (笑)。
菊地 萎ませてるでしょ。
冨永 いや…だって、これナルヨシさんしかできないですよ。やっぱり。
菊地 いや、できるよ。誰だって。
小田 (笑)。
冨永 いや…俳優さん、いっぱいいるけど〜…ですよ。
菊地 リリー・フランキーさんにできるよ。別に。
冨永 いや、できないですね。
菊地 リリーさん、オレと同い年でしょ?…だって。
冨永 えっ…同い年なんですか?
菊地 同い年だよ。オレ、リリーさんと同い年よ。
冨永 同い年の人の中でも、できる人とできない人がいるんで。
菊地 誰ならできんの?
冨永 ナルヨシさんですよ(笑)。
菊地 (笑)。
冨永 ほか、あんまりいないじゃないですか。
菊地 あのさ…荒木先生は、オレは本の表紙も撮ってもらったことあるし、何度か呑みに…カラオケ行ったこともあるから…ね。
冨永 はい。
菊地 知らない仲じゃない。その後何回か撮ってもらったことあるから、「紀信・荒木に撮られたジャスミュージシャン」唯一ですよ。多分、地球上で。両方に撮られたよね…ま、それはともかく。
冨永 (笑)。
菊地 どっちも下町弁で甲高い。自分のこと「アタシ」って言うからね、下町の人は。
冨永 はい。
菊地 どっちも下町弁で甲高い、どっちも躁病質…ずっと騒いでいる。で、どっちもスケベである。
冨永 うん。
菊地 あと…ちょっと顔も似てなくもないな(笑)。
末井 (笑)。
菊地 今回は…「デ・ニーロ・メソッド」によって、ロバート・デ・ニーロね…の「デ・ニーロ・メソッド」によって体型似せてったから。どんどん。
冨永 それ、どこら辺から似せていったんですか。
菊地 あのね…背中の脂だけ残してフロントは取って。あの当時、荒木さん…腹出てないから。
冨永 あ、そうですね。
末井 うーん。
菊地 うん、荒木先生は。その代わり、猫背で後ろはたぷついてんのよ。
冨永 はい。
末井 うん、うん、うん。
菊地 だから、そういう形にしようと思って(笑)。
冨永 背中に肉付けたんですか。
菊地 付けたんじゃなくて、背中の肉を溜めたまま、腹筋だけ…
冨永 腹を落としたんですか。
菊地 腹だけ落としたの。
末井 えっ。
菊地 で、荒木先生がカメラ構えて撮っている写真に似るように…と。なるべくがんばったんですよ。
冨永 そんなデ・ニーロみたいな事できる日本人って、緒形拳以来じゃないですか。
菊地小田末井 (笑)。
冨永 今、いないと思いますよ。
菊地 新国劇出身(笑)。
末井 (笑)。
菊地 オレがさ…こないだ…「オレの話しない!」って言いながら、「俺が、俺が…」になっちゃって申し訳ないんだけど。
小田 (笑)。
菊地 こないだね、舞台挨拶で、このネタをオレがテンドンで使ったでしょ。
冨永 はい。
菊地 「今回は『デ・ニーロ・メソッド』を使って、荒木先生の体型に似せていきました。」…で、マイクが回ってくるじゃない。舞台挨拶って。
冨永 ええ。
菊地 で、何回も回ってくるから、テンドンにしてやれ…と思って「『デ・ニーロ・メソッド』で荒木先生の体型に似せました。」、2回目は「『デ・ニーロ・メソッド』で、撮影に入る前に、たくさんの女の子に『服着たまま写真撮るんだ。』っつってラブホテルに連れ込んでは、言葉巧みに脱がして写真を撮るという事を、100人やってから撮影に臨みました。」とギャグを言うじゃない。で、まあ…ちょっとウケるわけよ。軽く。
冨永 ええ。
菊地 なんだけど、「デ・ニーロ・メソッド」って言うたんびに、隣の隣に立ってた前田敦子さんが、その隣に座ってたあの方…名前を失念してしまったんですが…
末井 三浦透子さん。
菊地 三浦透子さんに、前田さんの声で「…デミーロメソッドって何?」って。
小田末井 (笑)。
菊地 オレが喋ってる間に、前田さんが耳打ちされるんで。カメラマン的にはそっちのほうがおいしいんで、カメラが全部そっちに向くっていう。
小田末井 (笑)。
菊地 あっちゃんの耳打ちに向いちゃうのと、あと…あっちゃんの声は微妙に通る声なんで。
末井 うーん。
菊地 独特のね…賀来千香子さんみたいな声なんで、「デミーロメソッドって何?」ってのが、オレのモゴモゴ声を超えてね、会場に届いてしまったということで、「あっちゃん、オレのギャグ潰さないでよ!」っていう気持ちのまま、舞台挨拶を終えましたけどね。
冨永 (笑)。
菊地 ま、それはともかくとしてですね。せめて見た目だけでも、当時の人が見ても「似てるな。」って思うようにはしようとは思ったんですよ。
冨永 うん、うん、うん。
菊地 うん。
冨永 で、あれなんですよ…「ヒゲはやめとこうよ。」って話はしましたよね。
菊地 そう。チョビ髭付けちゃうと、完全にモノマネになっちゃうから。
冨永 モノマネみたいになっちゃうから。
末井 そうなんだよね。モノマネ…某…竹中某さんみたいなね。
菊地 そうですね。
末井 それはちょっとキツイんだよね(笑)。
菊地 そうですね。だからモノマネ…そもそも荒木先生に刺青無いし。
冨永 うん。
菊地 ファンデーションで隠してしまってもよかったんですが…
末井 お父さんにはあったんですよ。
菊地 ああ、そうなんですか。
末井 お父さんは腕にこう…入れてたんですよ。職人で。下駄屋さん。
菊地 ああ、そうだそうだ。下駄屋さん。
末井 うん。で、写真撮ってますね。荒木さんは。顔切ってますね。ここの腕だけを、わざわざたくして…死体の写真撮ってますね。
冨永 あ、そうなんですか。
菊地 おお〜。
末井 顔はやっぱりね、撮りたくなかったんで。やっぱり酷い顔になってたと思うんで。だから腕だけ撮って。カッコいいですよ。
菊地 まさに「刺青〈TATOO〉あり」ってやつですね。死体にタトゥーが入っててね。
末井 ええ(笑)。
冨永 (笑)。
菊地 だから…そこだけですよね。まあ、マニアックなとこですけどね。
末井 そうですね。
菊地 とにかく出たくないから。恥ずかしいじゃないですか。…峯田さんは、すごいよ。
小田 峯田さん、すごい良かったですね。ほんとに良かった。
菊地 すごいよ、すごい。だってオレ…峯田さん出てるから…何っての?…「ジャズの負け!」みたいになったら嫌じゃない。
冨永末井小田 (笑)。
小田 峯田さんによって?
菊地 うん。「ロックの勝ち!」みたいになったら困っちゃうからさ。
末井 ロックvsジャズだったんだ〜。
冨永 そうなんだ。
菊地 だから…「ロックとアイドルの勝ち」…だって、前田さんだって凄い上手いじゃない。
小田 確かに、音楽…多いですね。そう考えると。
冨永 あと誰がいるんだろう。
菊地 だから今回の舞台挨拶で、バックヤードの話あんまりしたくないんだけど…
冨永 はい。
菊地 今回心から思った。「オレは俳優より音楽家が好き!」ってことが。
冨永末井 (笑)。
菊地 ま、別に俳優が嫌いというわけではない。俳優が嫌いというわけではないんだけど、どんな職業より音楽家が好きだなっていう。
冨永 (笑)。
菊地 だから峯田さんと前田さんといる時は落ち着いてましたよ。
末井 (笑)。
菊地 いい感じでしたよ。峯田さんなんか一言も喋んないんだから。下向いてジッとして…突然こっちのほう向いて「音楽良かったです!」っつって、また下向いて。
末井 (笑)。
小田 峯田さんが?…へえ、すごい。
菊地 「…演技は?」って思ったんですけど。
冨永 (笑)。
菊地 聞けませんでしたけど。
冨永 気にしてんじゃないですか、いちおう。
菊地 峯田さんは…だって二足のわらじでしょ?…役者でもある方でしょ。
末井 うーん。
冨永 峯田さんは、でも「自分は俳優だとは思ってないんですけど。」って、やっぱ言ってますけどね。
菊地 うん。でも、銀杏BOYSって、ほとんど演劇みたいなとこあるよね。ステージングがね。
末井 うん。そうそう。
菊地 ま、音楽的だけど。すごく。だから…峯田さんは本当にお上手で。で、前田さんも、もう日本の中堅女優で実力派って言っていいぐらい上手いよね。
冨永 あ、もうそんな言われてんすか。
菊地 いや、すごい出てて。いっぱい出てて、みんな上手い。今回もすごく上手いじゃん。
冨永 うん。そうですね。
菊地 あの…出会いから、中年の冷えていく関係まで…もう見事に。
小田 怖い感じとかね。すごいですよね。
菊地 うん。苛々してる感じとか。
冨永 結構、(柄本)佑くんがね…あっちゃんのね…引き出してたと思うんですよ。
小田 ふうん。
冨永 敦子さん、柄本家の人が好きみたいで。
小田 ん?…エモ?
冨永 柄本家。弟さんと…
小田 あ、柄本家。
菊地 お父さんが柄本明さんですよね。
冨永 お仕事一緒にやってるのは、あんまり回数無かったらしいんですけど。かなり佑くんが引き出してたみたいな感じがありましたね。
小田 へえ〜。
菊地 前田さん、他の作品もすごいよ。ほんとに。
冨永 うんうん。
菊地 「あの人上手いなあ〜。」って思ってて。今回、一番上手いんじゃないかな。
冨永 うん。
菊地 …と、んな偉そうに言えないですけどね。一番言っちゃいけないけどね、オレがね。「今回、一番上手いんじゃないかな〜。」とかって(笑)。
冨永末井 (笑)。
菊地 音楽は堂々とやりましたけどね。
末井 (笑)。
菊地 まあ…前田さんと峯田さんって役の重みが違うから。ま、オレはカメオだとしてもね。
冨永 うん。
菊地 ま、下手したら…「ジャズの負け!」ってことになったらね、渡辺貞夫さんや日野皓正さんに頭下げないといけない。
小田末井 (笑)。
菊地 師匠の山下洋輔に土下座しないといけませんからね。
末井 (笑)。
菊地 背負うもんがありますから(笑)。
末井 (笑)。
菊地 …無いですけどね。まあ…作品の評判はどうですか?…一番最初に聞きましたけど、「7:3説」と「真っ二つ説」と。
冨永 そうですね。だから…「面白い!」って言う人と「長い!」って言う人の間で真っ二つですね。
小田 「長い。」(笑)
菊地 (笑)。
冨永 ええ。
菊地 あのさ、オレと小田さんの共通の意見なんだけど…
冨永 はい。
菊地 うん。小田さんに言わせんのは酷だから、オレが二人を代表して言うけど…長いよ!(笑)。
小田 (笑)。
冨永 そうですかあ。
菊地 長い。
冨永 そうですかねえ。
菊地 うん。長い。やりたいこと全部やりすぎ(笑)。
末井 (笑)。
菊地 あと20分短かったら、100になったと思う。ロッテン・トマト、「フレッシュ10」になったと思うよ、多分。
冨永 20分もですか。
小田 (笑)。
菊地 うん。映画の音付けるのに…
冨永 ええ。
菊地 何ていうのかな…「うわ、まだ終わんないのか!」っていう(笑)。
冨永 (笑)。
菊地 あの感覚ね。「早くエンディングテーマ聞きたい!」っていうさ。
冨永 (笑)。
末井 観てるぶんには、そんな…わりとあっという間に終わったんだけどね。
菊地 いや、末井さん、御自分の話だからですよ!(笑)。
小田 (笑)。
菊地 他人の半生記だったら、長いと思うと思います。多分。
末井 あっ…自分の話だから。
小田 (笑)。
末井 「これ…短いなあ!」と思ったもん。
菊地小田冨永 (笑)。
末井 こんなもんじゃないなぁ…と思って。
冨永 そうですよねえ。
菊地 TBSラジオのリスナーに信を問いましょう。観た人に。長いと感じたか短いと感じたか、ね。
末井 (笑)。
菊地 面白い、これ。
小田 (笑)。
菊地 じゃあ、要するに…楽家である我々二人は長く感じ、観客の半分も長く感じ、監督はちょうどいいと思ってて、原作者の末井さんは短いと感じてた(笑)。
末井 (笑)。
菊地 面白い。あんなもんじゃない、と。
小田 (笑)。
菊地 あんなもんじゃないですよね。そりゃあ、当人にとってはね。
末井 そうそうそう。あと1時間ぐらいはね。
小田 あと1時間(笑)。
菊地 テレビドラマにすれば良かったんじゃないですかね。
末井 ああ〜。
小田 それ面白そうですね。
菊地 18話ぐらいでね。何話か荒木が出てくるというね。
冨永 そうですね。ま、やりようによっちゃ、朝ドラみたいなね。少年時代からずーっと。
菊地 そうそうそう。だって半生記だもんね。
冨永 そうですね。
菊地 「マッサン」とかと一緒でしょ?(笑)。
末井 しかし、いきなり内臓から始まるというのはねえ…テレビドラマには向かないかもしれない。
冨永 (笑)。
菊地 特に朝は無理ですよね。
末井 (笑)。

素敵なダイナマイトスキャンダル (ちくま文庫)

素敵なダイナマイトスキャンダル (ちくま文庫)