「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」

クレしん」の映画版は大人も泣けると評判だが、中でも最も高く評価されている「オトナ帝国の逆襲」を観てみた。
冒頭、なぜか70年の大阪万博の会場にいる野原一家。…ん?タイムスリップしてきたの?…と思ってると、突如怪獣が現れて会場内で暴れまわり、それをウルトラマン的に変身、巨大化した父・ひろしが退治する。…ん?夢?…と思ってると、ここで「カット!」の声。…映画の撮影?…実はこれが「20世紀博」という大人のためのテーマパークの中の体験コーナーだったことがわかる。
懐かしい昭和の暮らしが再現されたテーマパークで、大人達は子どもそっちのけで駄菓子を買い、ベーゴマやメンコに興じる。
「懐かしい」という感覚がわからない子どもたちは、親が自分たちをほったらかして楽しむことに大いに不満を感じる。それどころか、童心に返っていく大人たちが自分の知っている父や母とは別の人間になっていくかのようで、怖くも感じている。
これが実は「懐かしい匂い」で大人たちを洗脳し、物質・金銭至上主義で見出された殺伐とした現代を捨てて、「夢や希望に満ちあふれていたあの頃」に生きようとする秘密結社「イエスタデイ・ワンスモア」の企てであった。
…ううむ。面白い。浦沢直樹の「20世紀少年」をすぐ連想し、その類似に思い当たったが、観進めていくと「テーマ的にはこっちのほうがより深いかも…」と感心するようになった。
大人が過去を懐かしがってばかりで、今を生きる気力を失ってしまうと、それは子ども達の未来を奪うことになってしまう。…実際になにもかも放棄して「20世紀博」に行ったまま返ってこなくなり、ついに大人たちがいなくなった街に取り残された、しんちゃん達が親を奪回するため敵地に乗り込むという勇気ある行動に出るところは泣ける。
さらに泣けるのは、洗脳されていた父・ひろしが我に返るところで挿入される自分の人生の回想シーン。
当時劇場に観に来た親子連れは、この作品を観て親の方が身につまされる思いをしたにちがいない。
とはいえ、子どもも楽しめるようなギャグやアクションシーンも満載で、特にカーチェイスや銃撃戦などの演出は映画的で思わず手に汗握る。クライマックスでは主人公・しんちゃんの手にすべてが託され、傷付きながらも激走するしんちゃんに思わず「ガンバレ!」と声を上げて応援したくなるような盛り上がりをみせる。
なるほど。これは文句なしの名作。
子ども向けアニメに対する先入観も払拭され、さらにいろんなジャンルの作品を観ていきたいと思った、いい時間だった。