「泣けるぜ、ゴッチ。」

アジカンの今度の新作のタイトルは「サーフ ブンガク カマクラ」というらしい。
お、ゴッチにもキタか?、サーフィンブーム。

3ヶ月ぶりに「JAPAN」を買ってみた。巻頭特集はアジカンで、しかも意外にもこれが初の後藤正文2万字インタビュー。
生い立ちから、バンド結成〜現在に至るまでを本人がガッツリ語るわけだが、これまで音楽については雄弁な彼だが、プライベートな事に関しては語りたがらなかったこともあって、このロングインタビューを読んで初めて知ったことが多々あった。
驚いたのは自分との共通体験。彼も地方から東京に出てきて、新聞奨学生で浪人〜大学時代を過ごしていたこと。
「家賃1万5000円の風呂無しアパート」、「朝刊配達して、帰ってきて予備校行って…」(うんうん。)
「予備校行かなくなって。やってらんねえって」(うんうん。)
「我々ぐらいの田舎においては、洋楽すらもうサブカルチャー」「夜中もう、配達前に起きて『BEAT UK』とか見てた」
……もう、いちいち大きく頷きながら読んでた。
オレは君より5歳上だが、全く同じ経験をしてたよ!と、目の前に居たら握手を求めたい気分になった。
毎朝、自転車蹴り倒しながら新聞配ってた。大雪の日に昼までかかってやっと朝刊を配り終えたのに、部屋でグッタリ倒れ込んでたら電話が鳴って「夕刊です」と…。夜は滞納者が帰る時間を見計らって、待ち伏せるようにして集金して回った。
どんどん卑屈になってく自分が嫌になった。唯一の楽しみが配達中にボロボロのウォークマンで聴くロック音楽だった。
鹿児島にいた時は尾崎豊とか聴いてたのに、これが東京の音楽か〜とフリッパーズに衝撃を受けて、手取り5万円の給料の殆んどをCD代に注ぎ込み、同僚に教えてもらってThe Smithsを聴き始め、西新宿で海賊盤を買い漁った。配達前に観た『BEAT UK』で初めてRadioheadの「Creep」のビデオクリップを見た時の衝撃……。翌日同僚に「なんかさ、ラジオヘッドっつースゲーバンドがいるよ!」と興奮して喋ってたのを、今でもよく覚えてる。
自分でもギターを弾いて、オリジナルの曲を作ったりもしていたが、ゴッチとは違って、自分はそれをやり続けることができなかった。
やっぱり「思いの強さ」の違いだったのだと思う。
オレにはこれしかない。オレには才能がある。やれば絶対うまく行く…と、無理矢理にでもそう思い込まなければ、自分が保てなかったのだろう。不安を打ち消す程の強い気持ち…それをあの小さな体の中から奮い起こして、最悪の日々をなんとかやり過ごしてきたのかと思うと、泣ける。
泣けるけど、彼の音楽は単なる自己満足のためのものじゃない。聴いた人に同情してもらいたいわけでもないだろう。
独り部屋で聴いている人が路上に飛び出せるような、ライブに集まった初対面の人同士が思わず握手を交わすような、そんなほんの少しの勇気を奮い起こすための手助けになるように、音にエネルギーを込めて鳴らしているのだ。それをロックと呼ばずして何と呼ぶ!
そして彼は、ロックはギャップを埋めようとする表現だということも知っている。
理想と現実、個人と世界、ワタシとアナタ、のどうしようもない隔たりを意識すればするほど、エッジに立たなければならない。
だからこそ作品を作る度に、自分にも周囲にも無理を強いて、もがきながらも果敢にチャレンジを続けているのだろう。
それが結実した「ワールド!ワールド!ワールド!」という傑作アルバムに手応えを感じて、アジカンは今度少し異なるアプローチをとった新作をリリースするという。
「リラックスした」「デビュー前のような」という形容がされているようだが、バンドで演奏する喜びを素直に鳴らすことによって、聴き手に開放感や高揚感を感じてもらおうという、これはこれでまた新たな試みとなっているに違いない。