「翻訳夜話」

翻訳夜話 (文春新書)

翻訳夜話 (文春新書)

村上春樹氏と、古くから親交のある翻訳家の柴田元幸氏が、海外作品を翻訳するということについてそれぞれの考えを語る対談が中心になった一冊。(ブックオフで105円だった掘り出し物)
自身の作品についてはあまり多くを語りたがらない春樹氏が、翻訳作品に関してはその創作過程での裏話をオープンに語ってくれているので、とても興味深かった。
対談だけでなく、お二人で競作(?)というか、「村上氏が翻訳することの多い作家・カーヴァー」の作品を柴田氏も、「柴田氏が翻訳することの多い作家・オースター」の作品を村上氏も、翻訳してみましたという、同じ短編が2ヴァージョンずつ収録されているのも、すごく面白かった。
元は同じ作品なのに、翻訳者が異なると細かい言い回しの違いで、全体のトーンも変化するものなんだな〜。
両氏それぞれの文体が好きなので、違う味わいを楽しめてよい。確かにクラシック音楽の演奏のように、もっといろんなヴァージョンがあって、その中から自分の好みに合うものを選べるようになってもいいのかも。
文藝春秋 2010年 05月号 [雑誌]

文藝春秋 2010年 05月号 [雑誌]

ちなみに、発売中の文藝春秋5月号に、村上春樹作品を翻訳しているジェイ・ルービン氏が、翻訳者から見た村上作品についての文章を寄稿している。この「翻訳夜話」の中でちょうど、アルフレッド・バーンバウム氏とジェイ・ルービン氏、村上作品の主な翻訳者ふたりの違いについて語っているところもあり、興味があって読んでみた。
こういう文章を読むたびに、海外の方が春樹作品に対する理解が深いと感じてしまう。「すごい数を売る作家」というだけで、妬みなのかなんなのかわからないけど、「あんなものは大したことない」的な批判を声高に挙げる批評家や、重箱の隅をつつくような穿った見方の解説本の類いが、日本国内には多過ぎるからなのだろう。
学術的権威と品格に裏付けられた評価(村上氏本人がそんなものを望むとは思わないけど)を与えようとしてこなかったくせに、もし今後ノーベル文学賞を受賞することになったら、「日本が世界に誇る文学者」みたいなレッテルを貼りたがるんだろうな、と考えるとうんざりする。
やれやれ。