マキタスポーツについて。
Twitterをやっている方には多いと思うが、自分も「水道橋博士にエヴァンジェリスト(伝道者)として絶大な信頼を寄せている者」の一人。
上杉隆氏、町山智宏氏、宇多丸氏、吉田豪氏など、博士人脈を辿って行くと、現在「エッジに立って発信している」人に興味を持つようになり、いろんな情報を得られてとても刺激になるのだった。
最近になってようやく「小島慶子のキラキラ」もポッドキャストで聴くようになったんだが、その中の昨年末の水道橋博士の回。ゲストに博士一押しの芸人・マキタスポーツを迎えて、「ひとり紅白歌合戦」という企画をやっていたのだが…。
冒頭で博士が「田原総一朗ブームなど数々当ててきた私が押して唯一ブレイクできなかった男」というような紹介の仕方をしていた通り、まだまだ世間一般での認知度は低いマキタスポーツ。彼の芸というのは「作詞作曲モノマネ」という、いろんなミュージシャンがいかにも歌いそうな曲を自作自演で披露するというもの。このラジオ番組の中でも、Mr.children、aiko、長渕剛、尾崎豊、charaなど、ミュージシャンの個性をうまくつかんでは、パロディではあるが実際にはその本人が絶対歌わなそうであろう内容を盛り込んだネタを次々に繰り出していた。多様なアーティストの癖、らしさを見事に掴み、そこにくだらないテーマの縛りを課しながらネタとして仕上げる技術の高さは大したものである。
だが、そのネタ披露の前にマキタ氏自らが「あくまでも〈らしさ〉の追求であって、声マネ、歌マネとは別物ですので…」と断りを入れてから始めていた。
率直な感想を言うと「これじゃダメだろう…」と思った。
ライブ芸としては十分に通用するのだが、少なくともメディアを通して広く伝わっていくのは厳しいと思わざるをえない。
実際に「オトネタ」というCDもリリースされていて、自分も試聴したことがあったが、これを買ってまで聴くかというと、なかなかそうは思えない。
やはり一般の人には、曲の作り方や展開の仕方、のせがちな歌詞のチョイスなどまでは注意が向かないのであって、「声や表情や動きが似てる」といった感覚的にわかるものでないとウケないだろう。
逆に、音楽をある程度やっている人にとっては、ミュージシャンが自分のスタイルを築くまでに影響を受けた「元ネタ」が何かということまでわかるだろうし、お得意なパターン、頻繁に使うコード進行など、癖を見つけるのはそう難しいことではない。似たような曲を作ってみようと思えばできると思う。
「作詞作曲モノマネ」というのであれば、ほんとにそのミュージシャンの「新曲です」と言われても間違ってしまうくらいの完成度を追求しなければならないだろう。そこを目指しているというには、既存の曲からの引用が多過ぎるのがどうしても気になるところだ。それだったら「替え歌」で十分じゃないか。
同様にミュージシャンの個性を抽出してみせるのが得意な人に、清水ミチコがいるが、決定的に違うのは清水ミチコは声マネ、歌マネもできつつ(それも抜群に上手い)それをやれるというところだ。どちらが素人にインパクトを与え、玄人をもうならせる芸として確立しているかは言うまでもないだろう。
といいつつもマキタ氏を非難しているつもりはない。よく練られたネタだし技術も高いからこそ「惜しいな〜」と思うのである。
ギターの腕前を含め、ライブ芸としては十分に通用するのだから、その場で御題をもらって即興で曲に織り込んでいくなどすれば、その場で観ている人には喜んでもらえると思う。ただ、今の段階でメディアへの露出を増やして、「あくまでもご本人が歌ってると想像して聴いてください」的な、言い訳をしつつ披露する芸で終わってほしくないのだな。
(…などと偉そうなことを言ってみた。評論家気取りですいません。)
- アーティスト: マキタスポーツ
- 出版社/メーカー: ディウレコード
- 発売日: 2010/04/23
- メディア: CD
- 購入: 1人 クリック: 8回
- この商品を含むブログ (6件) を見る