「その街のこども 劇場版」


いずれ観ようと思いつつ、ようやく観た「その街のこども 劇場版」。
ライムスター宇多丸氏の2011年度ランキングでも2位に選ばれていたし、いい作品なのは間違いないだろうと思ってはいたが、地味な映画をすっと観れる気分になるタイミングがなかなか見つけられなかったので。
阪神・淡路大震災15年特集ドラマとしてNHKで放送されたものを劇場版に再編集して公開された作品ということだが、公開時にはまさかその後、さらに大きな震災が日本を襲うことになるとは思いもしなかっただろう。
今になって観ることになったが、阪神・淡路大震災に当事者意識の薄い自分としては、東日本大震災を経験して観る今の方が、よりいろんな思いを抱くことになった。
とはいえ、震災そのものが描かれている作品ではなく、震災を経験した森山未來佐藤江梨子のふたりの会話から、それぞれが負った傷、それがその後の人生にどう影響しているかを垣間みるというような、間接的に表現されたものだった。それだけにより、観る者が自分自身と照らし合わせやすいともいえる。
登場人物は主役のほぼふたりだけで、フェイクドキュメンタリーのような造りだが、とにかく会話が自然で、リアリティがあって、素晴らしい。
大げさな演出は極力控え、ストーリーも偶然会ったふたりが一晩、震災から15年経った神戸の街を歩くというだけのミニマルなものなのだが、噛み合ないふたりのやりとりが緊張感を生んで、ほとんど退屈を感じさせなかった。
そして最後にはやはりグッとくる。
深夜の公園から見上げたマンションで、唯一明かりが灯る部屋のベランダに人影が見えた時には、さすがに泣いた。
この抑制が利いているが、人の心の柔らかい部分を突いてくる演出にはやられたなあ…と思ったら、脚本は渡辺あやだった。…なるほど。
いや、いい映画だった。

その街のこども 劇場版 [DVD]

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