「候補に挙がりながらもオンエアには至らなかった楽曲ベストテン」

「粋な夜電波」第161回は「ジャズ・アティテュード」。
曲も話題も100%ジャズの60分。
紹介したい曲があり過ぎて、とても1時間番組では収まらないと菊地先生。
「オンエア候補に挙がりながらもオンエアには至らなかった楽曲」をベストテン形式で発表するというコーナーを設け、結果的にそれはオンエアできているのでは…??(笑)という、ユニークな紹介の仕方をされていました。
ちょっとしたジャズ蘊蓄がまた楽しい。そのベストテンコーナーの部分を文字起こししてみました。

Last Concerts

Last Concerts

ま、1時間番組ですから…こんなん何時間あったって足んないですけどね。8時間でやれって言われたらやりますけど、10時間でやれって言われたらやりますけども、ま…1時間なので。
今回、オンエア候補に挙がりながらもプレイされなかった曲…そんなん毎回あるんですけど(笑)。面白いんで10曲選んでですね、ベスト10でビルボードTOP10形式で、今回オンエア候補に挙がりながらも番組プレイされなかった曲というのをご紹介してみたいと思います。では、どうぞ。

Archie Shepp & The New York Contemporary Five

Archie Shepp & The New York Contemporary Five

第10位。
Archie Shepp & The New York Contemporary Five/Consequences」
え〜、フリージャズ界のアイディアマン&名コピーライター、アーチー・シェップ。キャリア初期の名ユニットですね。
63年、コペンハーゲンのジャズハウス「モンマルトル」での実況録音です。
メンバーはフリージャズ界の名うてばかりですが、オーネット・コールマンのように挑発的でドスの効いたコピーライターではなく、フリーなんだけどもクールでスタイリッシュなんだという、おしゃれフリージャズ感覚が早過ぎた…といったようなユニットですかね。

ダブル・ポーション

ダブル・ポーション

はい、第9位。
「Edmar Castaneda/Ocaso De Mar」
クラシックのグラン・ハープ、コロンビアの民族楽器アルパ、そして独自に開発したベイスも付いているというエレクトリック・ハープを駆使する、今では珍しい曲芸系の天才ですね。
ちなみに男性、しかもとてもハーピストには見えないブサ可愛いルックスで、その界隈では驚嘆されつつも愛されるキャラクターです。
現代っ子らしくSNSが大好きで、コロンビア戦はすべて自宅で鑑賞し、ゴールの都度にハープを搔き鳴らしたと、つぶやいたとかいないとか

Cotton Tail

Cotton Tail

はい、第8位。
Ben Webster/Cotton Tail」
え〜…重鎮、1970年の発掘音源です。ノルウェートロントハイムのライブ音源ですね。
ベン・ウェブスターというと、豪放なサウンドと男くさいルックスから、生涯アメリカに居たと思い込んでいる方も多いと思いますが、ファンはご存知の通り、この方イグザイラーのひとりでして、65年からロンドン、それ以後北欧を転々とするという…いわゆる北欧ジャズシーンの基盤形成の一人ですね。
アップテンポの曲が全部デューク・エリントンナンバーという、嬉しい珍盤でもありまして、これそのうちの1曲です。
ピアノはなんとオスカー・ピーターソン!…と言いたいところですが、現地ミュージシャンですね。ノルウェーのオスカル・ペーターゼン」といったようなところでしょうかね。「南米のエリザベス・テイラー」みたいな感じでしょうか。

Samkalpa

Samkalpa

はい、第7位。
「Tim Allhoff Trio/Samkalpa」
当世ジャズ事情の片翼を担う「芸大お坊ちゃん系」…あるいは「ECMじゃないんだけど、ECM系」と言いましょうかね。そのドイツ人版ですね。
芸術大学の高学歴、ドイツの田舎にある劇場の音楽監督といった、クラシックとジャズを股に掛けて、リズムに関する研究を怠らないというタイプで、さっきも申し上げた通り、世界中に同時多発しています。テクニカル系、プログレ系…ですね。
ま、好きか嫌いかって言われれば、「中くらい」って感じですかね(笑)。

ナウズ・ザ・タイム【メンブラン10CDセット】

ナウズ・ザ・タイム【メンブラン10CDセット】

はい、第6位。
Charlie Parker/Star Eyes」
うぉっと出ました、神が第6位ってのもなんですけどね(笑)。
え〜…「パーカー、どれかけようかな?」と思ってる間に、6位ぐらいになっちゃってる…ていう感じでしょうか。
いまだに気になる「Bird」の語源ですけども、やっぱり…ツアーバンが事故で轢いちゃった鶏をですね、部屋に引き返して持って帰って来て料理させて食った、そして「チキン・シャック」というチキングリル店にバイトしてる時に、まかないのチキンが食い放題で、周りが恐ろしがるほど食った…という説が現在有力です。
ビー・バップのオールド・スクーラーは全員大食いで、最も食が細くって、なおかつお菓子の食い過ぎで糖尿に苦しんだ…ってのが、我らがマイルス・デイヴィスだと、いうオチが付いております。

鬼才トリスターノ

鬼才トリスターノ

はい、第5位。
Lennie Tristano/Line Up」
盲目の天才ですね。東海岸でパーカーに唯一拮抗した白人系の天才です。これ、おそらく世界初のダビング・ジャズですね。
とはいえ、パーカーのダチでもありまして、パーカー亡くなった出棺の際には左後方を担いで、目が見えないから溝でコケちゃって、棺箱が一瞬開いて、そしたら驚いた鳥が騒いだんで、周りにいる人間が「バードは生きている!」と、信者が伝説を作っちゃったという人ですね。
自宅でサイドメンに厳しい訓練を与えたんだけど、夜になっても本人見えませんから電気点けないんで、いろんな奴が暗くて頭打った…という、人騒がせで面白い側面を持っている男でもありました。大変なハンサムです。

Ole Coltrane

Ole Coltrane

はい、第4位。
John Coltrane/Ole」
コルトレーンの中でもこれが実は一番好きっていう方も多いんじゃないでしょうか。
名盤揃いの中、比較的シブい盤と思われてますが、ファンが多い盤です。闘牛がテーマですね。
ツイン・ベイス…つまりベイシストが二人いるというスタイルは一瞬流行ったんですが、成功してる例はおそらくこれだけですね。
最近「十九歳のジェイコブ」というお芝居の音楽の監修をやりまして、「菊地の音楽がものすごいいい!」みたいな感じでですね、評判大変よろしくてありがたかったんですが、「これ流してたんだもん。当たり前だよ、そんなの!」と菊地氏、思ったとか思わなかったとか。

The World Begins Today [輸入盤]

The World Begins Today [輸入盤]

はい、第3位ですね。
「Olivier Bogé/The World Begins Today」
リーダーはフランスのアルトサックス奏者ですが、バックのピアノトリオがですね、もう今をときめくですね、ティグラン・ハマシアン、そしてポスト・ジャズロックバンドの雄「Shadow Theater」のサム・ミナイエ、「ブラッド・メルドー・トリオ」のジェフ・バラードという、とんでもないメンバーです。
これまた7位のティム・アルホフなどと並ぶ、アカデミズム、クラシック系のポストECMですが、ま…好きか嫌いかって言われれば(笑)、「中くらい」っていう感じでしょうかね。

Marian Mcpartland's Piano Jazz

Marian Mcpartland's Piano Jazz

はい、第2位です。
「Marian Mcpartland's/Josie」
はい…これ企画盤ですね。スティーリー・ダンのナンバーをアコースティック・ピアノジャズで演奏して、しかもドナルド・フェイゲン本人が歌っちゃうっていう。「それって必要か?」っていう(笑)、いかにもスティーリー・ダンマニアックなプロダクツですけどね。
ドナルド・フェイゲンは最近出た自伝が素晴らしいです。その一冊前のバークリー出身のライターが書いた「AJA」の分析本が酷過ぎましたからね、本屋さんでお間違え無きよう。

WAYNING MOMENTS

WAYNING MOMENTS

はい、というわけで第1位です。
Wayne Shorter/Wayning Moments」
え〜…ジャズ界の高僧ですね。高僧ってのはお坊さんってことですけども。ソニー・ロリンズと並ぶ存命レジェンドの一人ですが。
かれこれ10年前でしょうか、私インタビューさせていただいた日のことを忘れません。
その時はどんな質問を、いろんな角度からいろんな質問をしたんですけども、すべて池田大作先生の教えで答えてくるという離れ業を繰り出してまいりましたけども。
例えば「練習をしますか?今でも。」という質問に対して、「ま、頭の中でね。それだったら1本だけじゃなくて、2本以上同時に吹けるじゃないか。それに、僕のマンションの1階はプールがあってね、ビキニの女の子がいっぱいいるんだよ。キミ、それでも練習なんかするかい?…これはまあ冗談だけどね。」って言った(笑)ところとですね、「今一番楽しみにしている事はなんでしょうか?」という質問に対しては、「そりゃあ『ダ・ヴィンチ・コード』の映画化に決まってるだろう!」って言って、笑って立ち上がりながらワタシに握手した…というその2点は非常に印象的でしたね。あとはちょっと忘れてしまいましたけれども(笑)。
え〜…あまり顧みられないシブい作品です。62年「AFFINITY」という微妙なレーベルから出てますが、非常に素晴らしい演奏ですね。

以上、今週の「候補に挙がりながらもオンエアには至らなかった楽曲ベストテン」でした(笑)。
次回も多分10曲ぐらいはそういう曲が出ると思いますので、このベストテンのコーナー、お楽しみにして下さい。それではCMです。

People Time

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※文字起こしの「NAVERまとめ」あります。