「グラスパー以降のサウンドを日本で。」
「粋な夜電波」第292回は、選曲家の中村ムネユキさんをゲストに迎えての放送。
2017年のブライテストホープを紹介&2016年の音楽シーンを総括しました。
「ロバート・グラスパー以降のサウンドを、日本では誰が、どう取り込んでいくか」ということについて語られたトークの一部を文字起こししてみました。
菊地 今回はそういうわけで…ま、我々も仕事柄、膨大な数の音楽を聴くわけですけども。
中村 ええ、ええ、ええ。
菊地 今年は…特に洋楽に限って言えば、世界中から相当な有望な新人が出た年とも言えますね。
中村 そうですね。どれ聴いても…ほぼ当たり…当たりって言い方も失礼ですけど。
菊地 デビュー盤が衝撃的で、凄いって人が…まあ、ざっと思い出しても20組ぐらい…20組以上いるよね。
中村 うん。いましたね。
菊地 昔よくさ…「ミュージック・マガジン」とかで「これは十年に一度の傑作!」ってのが、月に何枚も出るわけがない…とか言われてたけど。
中村 ええ、ええ。
菊地 今年は…10年代後半?ていうか、これから20年代に向けて活躍…長いスパンで、ロングスパンで活躍が期待できる凄い才能ってのが、矢継ぎ早にデビューした年ですよね。
中村 確かに。
菊地 だから、それをまとめてオンエアしてもいいんだけど、今日は…なんのなんの、我が国も負けてはいないということでですね…
中村 うんうんうん。
菊地 日本の2017年以降のブライテスト・ホープ候補ということで、ワタシのほうで4曲選んで参りましたので。
中村 はい。
菊地 ぜひ…耳の肥えた「レコード探偵」に聴いていただきたい、と。
中村 いえいえいえ(笑)。
菊地 …いう感じですよね。ま…今日かける4組も、実質上今年デビューした人、それからまだデビューしたとはいえないぐらいの人、などなど…入り混じっているんですが。
中村 はい。
菊地 まず1曲目ですね。「WONK」。
中村 出ました。
菊地 これは中村君も知ってるよね。
中村 ええ、知ってますよ。ちょっとした話題盤ですよね。
菊地 話題盤ですよね。まあ…いろんなバンドが、ロバート・グラスパー以降のリズム感覚…
中村 はい。
菊地 ロバート・グラスパー以降のジャズ・ヒップホップ・R&Bの感じ…というのを、日本人で誰がやるのか?…「こいつらがそうだ、こいつらがそうだ…」っていう声が上がっては、「全然違うじゃないか!」みたいなね。
中村 (笑)。
菊地 例えば、最初にグラスパーの感じを掴んだのが「cero」だって言われて…
中村 はい、はい。
菊地 「cero」だっつーんで、「cero」を聴くと、「そんなに別にグラスパーじゃないんじゃない?」とか思ったりなんかすることが続いて(笑)。それだけじゃないんだけど。
中村 はい。
菊地 とうとう完全にそうだっていう人達が出て来たっていうとこじゃないですかね。
中村 なるほど。
(中略)菊地 はい、まずは1曲、ブライテスト・ホープ候補を聴いていただきました。今年の9月にデビューしたばっかりのグループですね。「WONK」。アルバムのタイトルが「Sphere」。今ちょちょいと、中村君がスマホで…いつもこのブースにはスマホが無いんで(笑)。
- アーティスト: WONK,JUA,Shun Ishiwaka,Patriq Moody,Onetwenty,Tweli G,Kohei Ando,Dian
- 出版社/メーカー: epistroph
- 発売日: 2016/09/14
- メディア: CD
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中村 (笑)。
菊地 徒手空拳っていうんですかね。
中村 (笑)。
菊地 何にも無いんで。飲み物しか無いんで。パパッと検索できないんですけど、ま…検索したら、便利ですね。やっぱりセロニアス・モンクのミドルネームでした。「スフィア」。…の中から「savoir」という曲を聴いていただきました。どうですか?これは。ウェルメイドだと思う?それともイージーメイドだと思う?
中村 いや、良く出来てると思います。すごく良く出来てると思うんですけど…
菊地 うん。
中村 ちょっとスパイシーな事を言ってしまうと…
菊地 はいはいはい。
中村 もうこのサウンドはいいかな…って思っちゃうんですよね。
菊地 それ、ちょっとじゃなくて激辛でしょ(笑)。
中村 いや、全然悪くないんですよ。
菊地 やっぱり…風呂で転んでさあ(笑)。
中村 (笑)。
菊地 優しい人が毒舌に人に生まれ変わった…
中村 いやいやいや(笑)。
菊地 まあ…そうね。
中村 「ロバート・グラスパー以降の…」っていうのが結構出て来て…
菊地 出てるよね。特に欧米ではすごいよね。
中村 ですよね。で、そういうフィルターを掛けてしまうと、やはり較べてしまえば「(<)ロバート・グラスパー」となってしまうので。
菊地 うん。
中村 ちょっと聴き方が半減してしまうところもあるのかな、と。で…蓋を開けたら、やっぱりサウンドが似てたりとか、そっから抽出してるものがあるとは思うんですけど。
菊地 うん。ま…洋楽の最先端っていうものを、とりあえずはまず一回取るっていう事を、邦楽っていうのはやり続ける…
中村 そうですね。
菊地 で、時差があるわけじゃない。例えば、フュージョンの時はさ…前のフュージョンね。
中村 はい。
菊地 前のフュージョンの時は、「カシオペア」が出るまでの時差があって。「カシオペア」が出てからの、バンッ!って…シーンが爆発するっていうようなさ。
中村 ええ、ええ。
菊地 それを言ったらBe-Bopの時だってあったと思うのね。
中村 そうですね。
菊地 最初に日本にビーバッパーが出て来た時がどうでこうで…って、まあ…避けて通れない道で。
中村 はい。
菊地 もうすでに「Black Radio」が出た段階で、「さあ、誰がやんのかな?…新人がやんのかな?…ロートルがやるのか、中堅がやるのか?」って、みんながシーンをシークするような感じで。
中村 はい。
菊地 で、出て来たんだけども…考えてみたら「Black Radio」って11年とかだよね。
中村 もう結構前ですよね。
菊地 結構前だよね。
中村 相当…時差ですよね。
菊地 相当な時差だよね(笑)。ただ、コーラスワークだとか、ピアノのあり方、ベースの弾き方…
中村 はい。
菊地 「ドッ、グチャッ!」っていうマイクロ・タイミングの入れ方とか、ほぼほぼバッチリですよね。
中村 はい。
菊地 なんだが…この先どうするか?ですよね。
中村 次からどうなっていくのかな?っていうふうに思って…
菊地 グラスパー自身がさ、「Black Radio 1&2」の後、何をやってるのかわかんなくなっている状況…
中村 (笑)。
菊地 ま、これも激辛ですけどね(笑)。我々が激辛な事言ったところで、どうせ聞きやしないんですから、誰も。何の参考にもならないと思いますけど。まあ、そこ…ですよね。ただ、多分ね…これ俺の予想なんだけど…
中村 はい。
菊地 ライブはね、いい感じの人達が集まって、いい感じにいいヴァイブスで進んでると思うんだ、きっと。
中村 はい。
菊地 そいだ…もうそこに流れる多幸感っていうの…ハッピー感みたいなものによって、「まあ、もう十分だよ。音楽って、このぐらいで。」っていう感じに…
中村 うーん。
菊地 それは音楽を下に見てるんじゃなくて、そんなに重く音楽を考えてさ…やるんじゃなくて、「そこにいるみんながいい感じでハッピーになれればいいんじゃない?」っていう共有の感覚において、なんか90年代っぽいとかね。
中村 …そこに行けば幸せになれるんですかね?
菊地 (笑)。