「まさか20年後に、『ガンダム』をジャズで。」

TBSラジオ菊地成孔の粋な夜電波」第262回放送は、「『機動戦士ガンダム サンダーボルト』オリジナルサウンドトラック特集」。松尾衡監督(写真中央)、小形尚弘プロデューサー(写真右)を迎えて、サントラの制作秘話が語られました。
ガンダム」についてほぼ何にも知らない菊地先生が、音楽監督を担当するに至った経緯を話された部分を文字起こししてみました。

オリジナル・サウンドトラック「機動戦士ガンダム サンダーボルト」/菊地成孔

オリジナル・サウンドトラック「機動戦士ガンダム サンダーボルト」/菊地成孔

菊地 改めまして「菊地成孔の粋な夜電波」でございます。御機嫌いかがですか? ジャズミュージシャンの、そして…あれは1979年、16歳の時ですね。みんなが「シャア・アズナブルシャア・アズナブル…」と言っているので、…と学友達が、笑いながら寄って行って、「それは、シャルル・アズナブールっていうんだよ。」と、笑いながら言った結果、非常に寒いことになってしまった…
松尾監督小形P (笑)。
菊地 サンプラザ中野さんを「中野サンプラザさん」と言ってしまった、ちょっとダメな女友達レベルの菊地成孔が(笑)…TBSラジオをキーステーションに全国にお送りしております。
松尾監督小形P (笑)。
菊地 今週は「機動戦士ガンダム サンダーボルト」オリジナルサウンドトラック…おかげさまで予約だけで大変な枚数…実数が言えないのがもどかしいですけど…入りまして、やっぱりこの国の国是といいますかね、ジャパン・クールというか…に触れると…(笑)。
小形P 全然クールじゃないですよね(笑)。
松尾監督 全然クールじゃないですね。
菊地 いやいや…クールだと思いますけど(笑)。改めまして、監督の松尾衡さんです。
松尾監督 どうも、よろしくお願いします。
菊地 はい、そしてプロデューサー…このプロデューサーっていうのは、全体の?…ごめんなさい、本当に何も分からないんで。ガンダムのシリーズ全体のプロデューサー…?
小形P いや、いや…この作品のプロデューサーです。
菊地 この作品のプロデューサーね…の、小形尚弘さんです。
小形P よろしくお願いします。
菊地 え〜…今日ほど手探りな回がないんで(笑)。
松尾監督小形P (笑)。
松尾監督 我々も手探りです。
小形P 十分手探りです。
菊地 一緒に仕事…結構カッツリ仕事したのにね(笑)。
松尾監督 もうちょっと台本が欲しいですね(笑)。
菊地 この番組、台本が無いんで。
小形P それか、この前に一回呑んどくべきでしたね(笑)。
菊地 ワタシはですね…「仮面ライダー」ってのが始まったのが、ワタシが小学校1年の時なんですよ。この年齢で計算すると。
小形P はい。
菊地 そいで…今でも忘れない、幼稚園が終わりまして、いよいよランドセルを背負うんだ…という時に、「仮面ライダー」始まりまして。「迫るショッカー〜」と。
松尾監督 はい。
菊地 下敷きがありますよね。学校に下敷きなんか持ってって、ワタシ…シールなんか大好きですから。いまだに…今日も全身に貼ってますけどね。
松尾監督小形P ??
菊地 シールっていうか…肩凝るやつ(笑)。
松尾監督小形P  (笑)。
小形P 哀しいですねえ。
菊地 ええ。置針とかね、そう…大好きなんで。まあ、そん時からシールが好きで、下敷きにシールなんか貼りますよね。
松尾監督 はい。
菊地 そんで「仮面ライダー」のシールなんか貼って、授業受けてると、まあそうですね…ワタシの世代だと予科練の生き残りの先生なんかいたりして(笑)。
小形P いましたね。
菊地 老人ですけどね。すごい厳しいわけですよ(笑)。まあ、こそこそ…「先生に見つかっちゃヤバい!」と思いながら、シールを隠しながら、ブラインドしながら授業を受けてるわけですけど。
松尾監督 (笑)。
菊地 見つけると取り上げられて…まあ、その予科練の生き残りのクソジジイにですね、下敷きごとバッキバキに割られて、廊下にバーッと捨てられたりしてたものです。それが、小学校1年。
小形P はい。
松尾監督 へーえ。
菊地 それから時は経ちですね、幾星霜。16歳ってことは高校ですよね。高1なのかな?…高校1年生になると、なんとですね…ワタシがちょっとボヤッとして、ジャズなんかにハマってですね。
小形P 高校生から?
菊地 ワタシ、もう中学の時から、はい。ジャズ喫茶通いしてたんで。今日も帰ったら、「とにかくジャズ喫茶に行ってハンク・モブレーの60年代を聴くぞ。」とか思ってた…
小形P それは…「ガンダム」は観ないですよね。
松尾監督 それは観ないですね。でも、年齢聞いてわかりました。僕の行きつけの居酒屋のマスターと、だいたい年齢一緒です。
菊地 (笑)。
松尾監督 で、そのマスターが…僕いっつもアニキって呼んでるんですけど、そのアニキが…「仮面ライダー」は知ってるんですよ。で、「ガンダム」はさっぱり分かんない。
菊地 そうなんですよ。あのね、名前は知ってるんですよ。というか、この話には続きがあって…そういうわけで「仮面ライダー」の下敷きをバキバキに折られて幾星霜、16にもなりますてえと、ガールフレンドとどっか行ったりとかね…し始めたりなんかして。そうすると、ある日すごい衝撃的な光景が…
松尾監督 うん。
菊地 それは何かっていうと、学友たちが、学校に平然と…あれが「ガンプラ」?…プラモデルですか?
小形P プラモデルです。
菊地 …なのか、製品のその…何っつったら…コンテンツがよく分かんないですけど、ソフビだったのか、あるいは…もっとなんか…スクラッチ・ビルディングっつうの?…自分で造った物なのか、あるいは超合金みたいな物なのか、さっぱり分かんないんですけど。
小形P 超合金だったかもしれないです。
菊地 なんか…数名の友人が、持って来たんです、学校に。
松尾監督 うーん。
菊地 で、「学校におもちゃを持って来ちゃいけないよ。」っていう刷り込みがありますから。でもね、いっこうに…「ガンダム」に対してはお咎めがなかったんですよね。
松尾監督 先生からも?
菊地 先生からも。ええ。先生からもお咎めがないって事が、ショックでした。すごく。
松尾監督 うーん。
菊地 「学校におもちゃ持って来ていいんだ!」って最初に思ったのが「ガンダム」なんですよね。
小形P (笑)。市民権を得たっていうことなんですね。
松尾監督 オフィシャルになってるってこと?
菊地 オフィシャルになってるんですよ。そしたら、まあ…我々の学校は普通科と工業科ってのがありまして。
小形P ええ。
菊地 その昔は水産科もあったんですけど。千葉県の銚子っていう…サンマの水揚げ量1位を、昔はほしいままにしていた(笑)…
松尾監督小形P (笑)。
菊地 水産科もあった時期もあったんです。ワタシがいた頃は工業科と普通科
松尾監督 はいはい。
菊地 ほいで、普通科の…後に「オタクちゃん」って言われて、ものすごい差別を受ける…非常に可哀想な目に遭う、今では消費メジャーですけど。今では何て言うか…
小形P まあ、市民権を得てる…
菊地 アメリカにおけるアフロ・アメリカンの人と一緒…と言っては、アフロ・アメリカンの人の抵抗はあるでしょうけど。あくまでアナロジーで言うとね。
松尾監督 うんうんうん。
菊地 先代の先代の先代というか、一番最初の人たちは大変な差別を受けて。
小形P ええ。
菊地 ま、それからいちおう公民権ももらって。今やもうセクシーでカッコいい人たち…ってね。
小形P そうですね。
菊地 一番最初の、一番差別されてる人たち…ですよね。で、その人たちが学校に持って来るじゃないですか。
小形P うん。
菊地 で…特にワタシは、例えば「仮面ライダー」なんか知ってますから、ソフビ人形も買いました、もちろん。
小形P うん。
菊地 あれの遊び方なんて、あるじゃないですか。こう…ビヨーン!とか、こんなんやって。
小形P ええ。
菊地 …って、そういう事しないんですよね。お互い見せ合って…何て言うの?…モールドっていうの?
松尾監督 (笑)。
小形P 造形…
菊地 造形とか、細かい話について、楽しそうに議論してると、向こうの方からリーゼントの一群がやって来て…
小形P ああ〜。ま、そうなりますよね。
菊地 これは工業科です。彼らはキャロルを聞いて、車をシャコタンに(笑)…
松尾監督小形P (笑)。
菊地 先輩の車の車高を低くしてたんで。
松尾監督 (笑)。
菊地 彼らがやって来ると、もう恐ろしい事なんですけど、その…無惨にも取り上げられて。「ガンダム」たちは。
小形P はい。
菊地 「ファースト・ガンダム」たちは、取り上げられて、床に叩き付けられてですね。
小形P ああ、なるほど。
菊地 踏み壊されて…。ま、先生じゃなくて、今で言うところのDQNの皆さん…ヤンキーの皆さんが、踏みつぶして行くという…ま、百年戦争の始まりですよね。
小形P 始まりですね。
松尾監督 うん。
小形P 決して交わらない。
菊地 交わらない。今でも、基本的には…根本的には、日本の文化の中に横たわっている…百年戦争の始まりを、眼前で見たという…。
松尾監督 うん、うん。
菊地 中立国としてですね。「ジャズ中立国」として。
小形P (笑)。
菊地 中立国っていうか…関係ない国として(笑)。
小形P 周りにいらっしゃらない…ジャズの同盟国はいなかったんじゃないですか?
菊地 ジャズ国民は…ワタシしかいなかったですね(笑)。
小形P ですよね。
松尾監督 (笑)。
菊地 校内で(笑)。ま、モダンジャズが廃れたのは、もっとずっと早いんで。全然ダメでしたねえ。
小形P そうですねえ。
菊地 やっぱ、キャロルも現役、シャコタンも現役、ガンダムも現役。ジャズはもうすでに殿堂入りっていう感じでしたね。
小形P (笑)。
菊地 だから、そんなもん聞いてるワタシ自体が変わり者だったんですけど。ま、それをこう…目にしたのが最初で。
小形P はい。
菊地 よく、あの…テレビの企画なんかでね…
小形P はい。
菊地 「20年後のお前に言ってやりたい事」とかあるじゃないですか。
小形P はい。
松尾監督 (笑)。
菊地 お前…(笑)…工業科の奴がガンプラ踏み潰してんの見てたオマエ!…ってね。
松尾監督 (笑)。
菊地 お前、20年後、「機動戦士ガンダム」の音楽の監督やってることになるんだぞ!…ジャズで!
松尾監督小形P (笑)。
菊地 って…そこはあの…気の利いたテレビ局があったら、そのぐらいやってもいいなと思う。
小形P ちゃんと繋がってますもんね。
菊地 繋がってますよね。あまつさえ、「ルパン三世」もやってますもんね。
小形P そうですよね。
菊地 ガンダム」で…っていうのに、びっくりしたんですよね。びっくりっていうか、よくわからなかったので、とりあえず原作の本がドサッと送られて来たから。
小形P はい。
菊地 あれは今…7巻ぐらいですか。
小形P 8巻まで出てますね。
菊地 まだ終わってない…ですよね。
松尾監督 終わってないですね。
小形P 8巻はまだ出てないそうです。7巻まで出ていて…もうすぐ8巻出るんですよね。
菊地 おそらく「ガンダム」ファンで、「『ガンダム』の番組やるよ〜。」って言って、なんか今そういう情報が…ワタシSNSもやらないので…
小形P あ、そうなんですか。
菊地 全くやらないです。なので、そういうふうにして情報が…何ですか?…リ、リ…
小形P リプライ?
菊地 リプライ…によって、こう…「『ガンダム』ファンの人、今日この番組聞いたほうがいいよ。」みたいなので、今日初めてこの番組聞く方もいらっしゃると思いますし、一方で、毎週聞いてるこの番組のファンの方で、「ガンダム」の「ガ」の字も知らない方、あるいは「『ガンダム』っつったら俺に任せろよ。」っていう方に二分されると思うんですよね。
松尾監督 うん。
菊地 どちらの方にとっても、「えっ!次の『ガンダム』って、ジャズなの?、音楽が。」っていう衝撃が、どっちにもあると思うんですよ。
小形P はい。
菊地 その経緯に関して、比較的短めに小形さんにまとめていただくことはできますでしょうか。
松尾監督 (笑)。
小形P 短くまとめられるかどうかはわかんないですけど。
菊地 はい。
小形P そもそもこの原作漫画があって、その中にジャズとポップスが出てきて。
菊地 そうですね。
小形P 音楽どうしよう?って思った時にですね。
菊地 はい。
小形P これ…我々…監督は音楽に造詣がある方だと思うんですけど、「これ…全くジャズとか…ヤバい!…わかってない!」と思いまして。
菊地 なるほど。
小形P 下手に手を出すと、絶対火傷するな…っていうのが、肌感覚的に、ちょっとありまして。
菊地 はい。なるほど。
小形P これはお願いするなら、誰にもツッコミを受けない人にお願いしなきゃいけない…と。
菊地 はい。
小形P 僕もその…「峰不二子…」のサントラ聞かせていただいていて。
菊地 はいはい。
小形P 菊地さんに頼めば…これ、その界隈の人も…菊地さんに対して変な事はしないんじゃないかな?っていうのが、まず浮かびまして。
菊地 (笑)。それは何ですか、予防線ですね(笑)。
小形P 予防線です。我々がちょっとあまりにも不甲斐ないんで。そこに対する…まずはジャズの詳しい人たちも、認めてもらえられるような音楽にしとかないと、あとあとちょっと大変だな…っていうかたちがあったんです。
菊地 なるほど、なるほど。
小形P で、それがあったんで、松尾監督に「峰不二子…」のサントラを持ってって、「どうですか?」って聞いていただいて。
菊地 はい。
小形P 松尾さん的に…
松尾監督 いや、「お願いしましょう!」と。
菊地 なるほど。
松尾監督 「お願いできるなら、お願いしましょう!」と(笑)。
小形P で、持ってったんです。菊地さんに持ってって、「でも、これは…」。ただ、菊地さん…「峰不二子…」の時は、多分特別だったと思うんで。
菊地 はいはい。
小形P これは蹴られるんじゃないかな〜と思いながら、半信半疑というか、自信なく持ってって。
菊地 はい。
小形P で、一番最初に「『ガンダム』はこういう物です。」って説明をさせていただいたと思うんですけど。
菊地 はい、はい。
小形P もう、僕の方が「ガンダム」とか「ザク」とか…そういう単語を出す度にですね、菊地さんの頭の上に「?(ハテナ)」マークが浮かぶのが、ものすごい見えまして。
菊地 すいませんでした(笑)。「ど根性ガエル」で終わってるんでね。
松尾監督 (笑)。
小形P それで…その帰り道、「あ、これは多分…断られる。」と。
菊地 はいはい。
小形P 思ってたら…なんと、いいお返事をいただきまして。
菊地 はい。
小形P もう次会った時は、単行本を読み込んでいただいて。
菊地 いや、そんな読み込んでないですけど。
小形P いや、僕より詳しく説明できるようになってるぐらい。
松尾監督 (笑)。
菊地 えっとですね、リスナーの方にわかりやすく言うと、この「ガンダム」は…言ってみればスピンオフですよね。
小形P はい。
菊地 スピンオフで、まあ…何っつったらいいの?…そんなコピー使ったらいけないのかもしれないけど、「大人ガンダム」みたいな。
小形P そうですね。
菊地 要するに、残虐さだとか…いわゆる、もし劇映画だったら「R」が付く…
小形P はい。
菊地 腕切っちゃったりするしね。ま…戦争の残虐さ。後は軽くドラッグも出て来ないでもないし。
小形P そうですね。
菊地 ま、戦争だったらね。要するに、戦争の事を結構その…お花畑で扱わないっていう。
小形P はい。正面から…ということですね。
菊地 そうですよね。…っていう、ま…手描きでCGがない、と。「大人ガンダム」で、で…大人だからジャズだろうっていう短絡じゃなくて、これはワタシの想像ですけども、原作の先生とはお話したことがないので…
小形P はい。
菊地 直接は確認できてないんですが。ま、もともと戦場にいる兵隊さんは音楽を聞くものだって決まってて。
小形P はい。
菊地 それは軍歌もありますけど、二次大戦だと「Vディスク」っつって、A面に「ナチスを殺せ!」っていう軍歌が入ってて、B面に優しいスローバラードが入ってて、「帰ると恋人が待ってるよ。君は英雄だよ。」っていうのが入ってるのを…
松尾監督 うん、うん。
菊地 蓄音機ごと落としたんですよね。
小形P うん。
菊地 そうすっと、兵隊さんがそれを取りに行って、自分ちの陣地に持って帰って、みんなで聞く…と。そうすると戦意が高揚する、と。
小形P うん、うん。
菊地 で…「Vディスク」なんかは有名で、あんまりにもクオリティが高いんで、ドイツ兵も欲しがった…と。
松尾監督 (笑)。
菊地 敵兵もみんなで取り合っちゃった、と。
小形P うんうん。
菊地 ナチスを殺せ!」っていうのを聞いて、ドイツ兵も盛り上がったという。
松尾監督 (笑)。
菊地 やっぱ…音楽の力というかね。
小形P うん。
菊地 で、ちょっと話題になったのが…多分、イラク戦争からだと思うんですけど。
小形P ええ。
菊地 あの世界中から…イラク戦争になってくると、もうインターネット戦になってくるから。
小形P うん。
菊地 フォークランドの時はそうでもないんだけど、イラクの時は…兵隊が実は、実戦の時にみんな耳から垂れ下がってるもんがあって…
小形P うん、うん。
菊地 あれをほとんどの人が通信機だと思ってたんだけど。
松尾監督 うん。
菊地 通信じゃない、と。よく写真を拡大…解像度を上げて見てみると、「どうやらiPodらしい。」ってことが分かってきて。
小形P うん、うん。
菊地 「あいつら音楽聞きながら撃ってるな。」っていうのが話題になったのが、あの当時ですよね。
松尾監督 うん、うん。
菊地 例えばベトナム戦争で、アメリカが…勝った負けたで言うと…大きく言えば負けたんだろうけど。難しいですけどね、ベトナムの方の描かれ方…
小形P うん。
菊地 ズルズル…まあ、あんなに手こずるとは思わない、泥沼になったのも、やっぱり…アゲてくれる音楽が無くて
松尾監督 うん。
菊地 ベトナム戦争時ってのは、厭世的な…「こんな世の中嫌だよ!」っていう音楽が流行っちゃって。
小形P うんうん。
菊地 っていうのがあったんで、こんな(↑)なんなかった。それでベトナムで力が出なかったんじゃないか…っていう事が指摘されるほど…
小形P うんうんうん。
菊地 兵士達にとって音楽が鳴ってるってのは凄いことで。
松尾監督 うんうん。
菊地 で、イラクなんかでは完全に聞いてた、と。ま、アメリカの…例えば「TIME」とかがね、「何を聞いてましたか?」ってインタビューすると、実際「歌詞をキリスト教向けにした、ヘヴィメタルを聞いてました。」とかね。
小形P うんうん。
菊地 うん。なんか…「ヒップホップで自分はアゲてました。」みたいなのが出てきたりして。
松尾監督 うん。
菊地 ま、兵士ってのは音楽を聞く、と。で、「今や一人一人自分の好みのものが聞けるんだ。」っていうのが、これの設定に入ってるんだな…って思ったんですよね。
小形P うん、うん。
菊地 それはこの「一年戦争」ですか?…宇宙の戦争でもそうで。
小形P うん。
菊地 で、この物語は、群像劇じゃなくて、仇敵型っていうか、「カインとアベル」型っていうかね、「武蔵・小次郎」型っていうか。
小形P うんうんうん。
菊地 主人公2人が、正反対のキャラでぶつかり合うんだ、と。
小形P うん。
菊地 その一人がジャズファン、もっと言うと…あれはどのぐらいまでなのかな?…アマチュア?…アマチュアのジャズドラマー…
小形P うん。
菊地 で、自分のコクピットの中にスティック持ち込んで、戦う前はドラムソロさんざん演って、それで盛り上がるんだ、と。
松尾監督 うん。
菊地 で…虐殺中も、ジャズを聞いてると。で、対して…
小形P ダリル。
菊地 うん、ダリル・ローレンツ…は、優しくて知的で。
小形P うん。
菊地 いわゆる50's、オールディーズと呼ばれる50年代のポップスを聞いてるんだ、と。
小形P うんうんうん。
菊地 この2人の性格も好一対だけど、聞いてる音楽も好一対ですよ…っていうのが、この原作の…ひとつの大きな設定ですよね。
松尾監督 うん。
菊地 他にもいっぱい…「『ガンダム』だけどリアルに戦争をやるんだ。」とか、テーマはあるんでしょうけど。
小形P うん。
菊地 で、その設定が面白かったんで。劇伴は作らなくていい、と。
松尾監督 うん、うん。
菊地 なんで、彼らが聞いてる楽曲をシミュレーションで作れば…そういう仕事なんだな…っていうのを、原作を読んで思ったんですよね。
小形P なるほど。
菊地 それはやったことないから、結局「サンダーボルトのテーマ」とかっていうことになっちゃうと(笑)…
松尾監督 なるほど。
菊地 オレ、何作っていいかわかんない…ってなったんだけど。
松尾監督 (笑)。
菊地 原作を読んだ結果、今回…さっきお聞きいただいた曲は、いちおうO.S.T.上、「サンダーボルト メインテーマ用」って書いてあるんですけど。
小形P うん、うん。
菊地 これもほんとのメインテーマじゃなくて、メインテーマ的に使われるから、用件の用って書いたんだけど。
松尾監督 うん、うん。
菊地 あとはもう「戦闘用」「出陣用」とかになってて。
松尾監督 うん。
菊地 要するに、劇伴は全く無くて、楽曲…がいっぱい並んでるんだ、と。
松尾監督 うん。
菊地 だから…それだったら面白そうだからやろうかな…って、やったんですけど。
松尾監督 うん。
菊地 ま、もう1曲ぐらい聞いてみましょうかね。はい、「戦闘中」の…「(激戦状態)用」という(笑)。
松尾監督 (笑)。
菊地 戦闘にもいろんなグレードがあるわけですけども、一番ヤバい殺戮の状態になっている時の音楽というのを聞いて下さい。