「やっぱ観なきゃ!『サウダーヂ』」


先々月にユーロスペースブラジル映画の上映作品を立て続けに観た際、1作品ごとに毎回同じ映画の予告編が流れるので、「もう何度も見たわ…」と、いささか辟易してたのでしたが。
それが富田克也監督の「サウダーヂ」だった。ブラジル人出稼ぎ労働者を題材にした作品ということで、ブラジル映画祭来場者向けに押していたのだと思う。
その後、「シネマハスラー」の賽の目映画にも当たり、番組内でも宇多丸氏が絶賛!(おそらく2011年度ランキングでもベストワン級の評価をしてくると思う)
本来なら自分も当然観に行っていておかしくない映画だったのだが…。
その予告編を観て、どうしても行く気にならなかった。なんかすごい作品っぽいぞ、という期待はなくはなかったのだが、3時間という上映時間の長さを知って、尻込みしたところもある。
今の商業映画のこけおどし的な派手さはまったく必要ないとは思うけれども、いかんせん自主制作映画っぽさ丸出しの映像に、エンターテインメントとしてのサービス精神があるかどうか不安になってしまった。さらに予告編冒頭の、舞台となる甲府市で活動するラッパーの披露する社会派ラップが、自分はどうも好みではなくて…。
だから宇多丸氏が絶賛しても、「サイタマノラッパー」の時のような、ラッパーだからこそ感情移入できるという個人的理由が大きいのだろうから、自分にはちょっと合わないんじゃないかと思ってしまったのだ。
…そうこうしているうちにユーロスペースでの上映が終了。
しかし!…菊地成孔大先生がここまで絶賛しているのを聴いては、観に行かないわけにはいかないな〜と考えを改めつつある。幸いにして、12月17日(土)より オーディトリウム渋谷(ユーロスペースの下の階)にて上映延長が決定したらしい。これは行かねば。
今週の「粋な夜電波」の中でも、菊地さんが映画「サウダーヂ」について語っていた部分がありましたので、その部分を文字起こししてみました。

キネマ旬報 2011年 12/1号 [雑誌]

キネマ旬報 2011年 12/1号 [雑誌]

はい。えーと、先週、番組推薦枠の映画だっつって強くプッシュした「サウダーヂ」が、え〜番組終了から程なくですね…、ほとんど、「オマエ、関係者で知ってて言ったんじゃないの?」っていうくらいのタイミングで…、もちろん知りませんよ全然。知らずに言ったんですけど、番組終了後程ない…というタイミングで、え〜と、ナント三大…ナントってこれは土地の名前ですけど、「なんとびっくり!」…英語のHOWじゃなくて、「ナント三大陸映画祭」っていうですね、映画祭でグランプリを受賞しました。ま、やっぱ見てる人は見てますね、これね。
え〜と、次の「キネマ旬報」に「サウダーヂ」について関しては書いてますし、今のアタシのブログっちゅうんですか?、公式ホームページの日記…DIARYの欄にも「サウダーヂ」の評が書いてあります。ま、あの、四の五の言いませんので、ぜひ観て下さい。「サウダーヂ」と「タケオ〜ダウン症ドラマーの物語」は絶対観て下さい。絶対観て下さい。…どんな方法を使ってもいいですから観て下さい。絶対損はさせないので。
まあ「サウダーヂ」はとにかく…完璧な映画ですよね、ホントにね。あの…、今のニッポンってのは、あの〜「サウダーヂ」の話ね、「特集 狂気〜ピンクフロイド欠席…」っつって「サウダーヂ」の話すんのはあまりにもいきなり…(笑)、あの、カルピス飲んでてビフテキくる感じですけど。…カルピス飲んでてビフテキくるんだったら、いいか…。
え〜なんでしょうね…。非常にシンプルに言うとですね。ま、「何言ってっかわかんねえぞ」って思われるのを承知で言いますけど…。
音楽ってのは、状況が多層的になりやすくて、ま、すげえシンプルに言うと、YMOが一番流行ってたテクノポップの時代にも、裏に山下達郎さんがあって、ノイズもあって、いろんなもんが、こう…多層的に並んでるわけね。AORがあったりして…。なんでこう…やっぱ、豊かなんですよ。「赤勝て、白勝て」という感じになります。…なんだけど、日本映画っていうのは特に、あの、いろんな事情によって、音楽ほど手軽に作品をボンボン作って出せない…。ま、最近はボンボン作って出せる時代になりましたけど。え、歴史的に、あんまりボンボン作って出せないんで、状況が偏るってことが…多いですね。
で、あの「サウダーヂ」は、現状の偏りを全部正す映画ですよね。今の日本映画界の偏りっていうのは、ものすごい乱暴に喩えで言うと…、もう平安時代…みたいなね。あの、平安京みたいになってんですよ。ね。もう…やること恋しかない…っていうね。あの…必死に生きる必要ない…、必死に生きてんだけど、貴族がいて、はんなりしちゃってね。身体もこうふんにゃり、はんなりしちゃって、こうなんか弱々しい感じなんだけど、で、もう恋だけしか興味がないっていうような世界の、こう…息苦しい世界の中で、永々となんかやってると…。これはもう平安京の中の、しかも一角ですからね。で、こう「ジャパン・クール」とか言ってね。ものすごいこういろんな着物とか着たりなんかしてね、コスプレなんかしちゃったりなんかして。だけどこの周りには広大なこう…あの、地域ってのが広がってて、で、これの…こっから完全に隔絶された世界のことをやってると思うんですよ、今の日本映画は。
…なので、地方にはこういうものがあるんだ、っていう、そのもの凄いパワーですよね…。ま、アメリカでいうと、ラティーノ、チカーノのパワーですよね。これをこう…見せつけて、バランスを戻す…、あの、1本でバランスを戻すカウンターパンチになってますよね。
前は逆で、日本はね、こう…地方だとか、一所懸命生きてる人の映画ばっかりだったの。それにカウンター当てたのが、「なんとなくクリスタル」なんですよ。えっと逆カウンターですよね。で、「なんとなくクリスタル」は、平安貴族になりましょうっていう小説であり、映画化もされたんですけどね。でなんか幾星霜、気がついたらいろんな形で「なんクリ」から今年41年?…42年か。「なんとなくクリスタル」から42年目にして、気がついたら日本映画は全部、アキバという平安京を中心としたですね(笑)…、こう…映画の世界になったんですけども、「サウダーヂ」がそれをぶっ飛ばすっていうかたちですね。
別にこれ敵対って型じゃないの。…バランスが良くなることによって、どっちも具合が良くなるんですよね。そういう意味ではもう、とても力のある、定義の作品っていうかね。すごいいい映画ですから、あの、是非。
あの…、ワタシ出資します!(笑)…次のこの…。もし相手方さんさえ良ければですけども。この映画作ってるチームは、出資者を募って映画を作ってまして、最後にこう…神社がお祭りやる時に、一万円とか入れると「金壱萬円」とかつってこう…氏子さんの名前が並ぶじゃないですか。あんな感じでこう、テロップ出ますんで。まあ、あの、必要な限り協力させていただきたいと、サイトで申し上げましたけどもね。え〜、ライブに(監督が)お越しいただくようですので、ご挨拶させていただきたいと、思います。

…まさか「なんとなくクリスタル」が引き合いに出されるとは思わなかった(笑)。
菊地さんのインテリジェンスの守備範囲はどれほど広いのだろう。それもただ物知りとか雑学のひけらかしではなく、妄想と出まかせをブレンドすることによって、「異様に面白い話」に仕立て上げるスキルがあるから凄いですよねえ。
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