「菊地訳『アモリーナ』」

第65回の「粋な夜電波」は映画のサウンドトラック特集。
キネマ旬報等に映画評の連載も持つ菊地先生の紹介で、届けられた音楽と同時に映像を想起する、濃密なラジオ体験が出来た回となりました。
番組の終盤で、自訳の朗読を被せながらオンエアされたエルトン・ジョンの「アモリーナ」が名曲で、その解説と対訳も素晴らしかったので、その部分を文字起こししてみました。

ユングのサウンドトラック 菊地成孔の映画と映画音楽の本

ユングのサウンドトラック 菊地成孔の映画と映画音楽の本

はい、「菊地成孔の粋な夜電波」。今夜は映画音楽特集、「ラジオ版『ユングサウンドトラック』」如何でしたでしょうか。
え〜…来週はですね、先程も申し上げました通り、TBSラジオはお休みでして、地方ネット局のみの放送、いわゆる「裏送り」になります。えーと…裏送り、楽しみですね。ワタシ、好きです、裏送り。月に一回裏送りでもいいんじゃないかなと思うくらい(笑)、裏送りが好きでですね。こう…裏送りの時は一切台本を書かないと決めてますんで(笑)…あの…リラクシングの回ですね。はい、地方ネット局の皆さん、よろしくお願いします。
え〜…というわけでですね、「…えっ?…歌モノが一曲も無かったじゃないか!」と。…そうですか、ああ、そうでしたか!…これはね、わざと気が付きませんでした。
それでは二曲ご紹介しましょう。
古今東西、映画の主題歌というものが何万曲あるか…不勉強ながら知りませんが、ワタシのベストワンは間違いなく、75年のこの曲です。「狼たちの午後」という映画ですね。
ま、ここ最近、この本でも「コロッサル・ユース」「グラン・トリノ」なんかに端的なんですけども、「劇中に音楽は一切流れず、エンドクレジットで初めて音楽、場合によっては主題歌が流れる」系の作品が多くなってまして、ワタシの予想ではむしろこれはエンターテインメントにおいてこのスタイルが定着するんじゃないかと思うんですが、この映画は逆なんですね。オープニングに主題歌が流れるだけで、あとは最後まで音楽なし、というスタイルで、これ結構めずらしいです。ま、この主題歌がですね、エルトン・ジョンの「アモリーナ」という曲なんですが、もうこれで決まり!…これが俺のすべてっていうやつなんですね、決定的です。
75年製作ですから、あの…冒頭に主題歌が流れるってのは、テレビ番組に影響があったかなかったか…まあ普通のことだったと思うんですよね。その後劇中に音楽がないってのが特異点なんですが、ま、あんまりないって感じなんですね、少ないよね。これはこの映画が、いわゆる「ストックホルム症候群」…犯罪者と被害者…この場合監禁になるんですけど、…が一定時間一緒にいると、なんと好きになっちゃうというね…、ま、大雑把に言うとそういう心理のことなんですが、…を多分に含んだ、魅力的な銀行強盗と人質、そしてニューヨーク市の三つ巴のドラマを描いた、しかも実話を基にした脚本…これアカデミー賞オリジナル脚本賞を受賞してます…を、75年当時のですね、シドニー・ルメットがやったんで、全体がちょっとしたドキュメンタリータッチだからなんですよね。評価も高い有名な映画なんで、詳しい内容は省きますし、YouTubeにもぶっちゃけ上がってます。冒頭の映像ごと…要するに、レアなオープニングが上がってるんですけどね。もう…男泣きというね、必至の。75年のニューヨーク観としか言いようがない映画なんですね。
ま、冒頭にエルトン・ジョンが流れるわけですが、もうなんていうか…とにかく素晴らしいんですが、この曲「TUMBLEWEED CONNECTION」…邦題は「エルトン・ジョン3」っていうんですけど(笑)、エルトンの最初期のアルバムの曲で、リリースが70年なんですね。つまり5年前の曲なわけね。…要するに75年の映画ですから、映画の主観から見ると5年前の曲なのだと。
で、まあ…この映画の製作裏話なんていうのは、ワタシはひとつも知りませんから、想像になっちゃいますけど、ま、この曲を選んだのはやっぱりシドニー・ルメットだと思うんですよね、監督ですね。ま、脚本のフランク・ピアソンの可能性もありますけども、ま、とにかくオリジナルの主題歌ではない…選んだわけですね。しかも公開時に流行ってた…とかいう曲じゃありませんから、映画の準備に4〜5年くらいかかっちゃうってのは当たり前としても、よっぽど「この映画にはこれだ!これしかない!」と思った…と思うんですよ。だから、誰が観てもまるでオリジナルの主題歌みたいにばっちりハマってるんですね。
ま、ただやっぱり我々にとってですね、そのマリアージュ効果、素晴らしい効果を味わい尽くす…という意味では、ちょっと画竜点睛に欠けるんですよね。…そうなんです、歌詞の日本語訳が字幕に出ないんですよね。既にある歌の歌詞を映画にマリアージュさせる…ってのは、一番クリエイティヴなところね、今「glee」なんかそれだけですよね。…なんですけどね、まあこれはある意味しょうがないです。エルトンのパートナーだった…これはまあ…なんというか…オカマちゃんですからね、…公私にわたると言ってもいい…と思いますが、作詞を担当してますバーニー・トーピン…ワタシこの方かなりの才人だと思いますけども、…この話してると…もう番組終わっちゃいますんで…、…とにかくそういうわけでですね、この「アモリーナ」の対訳だけはですね、これを機会に皆さんに知っていただきたい、という感じですね。これから観る方も、既に観た方も全員。この映画の最初に流れる歌の歌詞ってのは、だいたいこういう内容…だいだいこういう内容なんだってのは、ワタシの訳なんで(笑)、日本語盤持ってないんで、インチキ対訳ですから、申し訳ないですけどね。え〜…まあ、かなりの意訳、場合によっては誤訳…この可能性がですね、そうですね…80%くらいあるんで(笑)…聴かなきゃ良かったって場合もあるかもしれませんが、一所懸命訳しました。これを知ってるのと知らないのじゃ感動全然違いますんで。
えーとですね…楽曲はいくらでもゲットできると思いますので、今回はですね、AMラジオ史上初といいましょうか、曲を流しながら、その上に同時通訳のかたちで…何やってんだって話ですけどね(笑)。今回まあAM史上初ばかりですけども…ていうか毎週そうなんですけどね、はい。曲の上に乗っかっていきますので、あとで音楽だけ楽しみたいという方はいくらでも…。先程も申し上げた通り、オリジナルの画像と一緒にお楽しみいただくこともできます。…それではElton Johnで「Amoreena」。
(曲を流しながら)

この頃よく考えるのは 僕はいったい 何回恋人を失ったかって
モリーナが日の出に輝くトウモロコシ畑に立っている
野生の花のような人生
何時間もかけて 草原を走り抜け 子犬のように転がるんだ
雨の日は雨が この畜産の町を洗い流す
そんな時 彼女はどこか遠くで 自分の毛布にくるまってる
日々が僕らの思い通りに進むっていう 水晶の小川みたいな夢をみてる
お互いにもう 吹き出しそうだよね


僕には見える 夜、君が座ったままリンゴを齧っているところが
その果汁がゆっくり…ゆっくり…ゆっくりこぼれて 君のブロンドの肌に落ちてゆくのが
野生の花のような人生
何時間もかけて 草原を走り抜け 子犬のように転がるんだ
雨の日は雨が この畜産の町を洗い流す
そんな時 彼女はどこか遠くで 自分の毛布にくるまっている
そして日々が僕らの思い通りに進むっていう 水晶の小川みたいな夢をみてる
お互い 吹き出しそうだよね


ああ…僕が休めるのは 君の山小屋のゆりかごだけなんだとしたら
窓は広く開け放たれて 僕の腕は君の肩を抱いているっていうのに
燕とプラタナスが谷間で戯れているその間に
僕は君を失ったよ アモリー
女王蜂が蜜蜂を無くしちゃったみたいに


雨の日は雨が この畜産の町を洗い流す
そんな時 彼女はどこか遠くで 自分の毛布にくるまっている
そして日々が僕らの思い通りに進むっていう 水晶の小川みたいな夢をみてる
お互いに 吹き出しそうだよね


雨の日は雨が この畜産の町を洗い流す
そんな時 彼女はどこか遠くで 自分の毛布にくるまってる
日々が僕らの思い通りに進むっていう 水晶の小川みたいな夢をみながら
お互い… 吹き出しそうだよね

Tumbleweed Connection

Tumbleweed Connection

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