「A quoi sert de vivre libre」

「粋な夜電波」第65回、映画音楽特集の最後にプレイされたシャンソンが、うっとりするほど素晴らしかったので、その曲紹介の部分を文字起こししてみました。
The Stylistics、6枚目のアルバム「Thank You Baby」収録の「愛がすべて(Can't Give You Anything (But My Love))」のカヴァー、仏語のタイトルは「A quoi sert de vivre libre」というみたいですね。
菊地先生の解説も素晴らしく、最後ちょっと切なく、ロマンティックに締めるあたりがグッときます。

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…はい、いかがでしたでしょうか。最後は…そうですね、再びフランス映画の、21世紀の作品で締めましょうかね。
え〜…フランス映画には、プロの歌手ではない…ま、女優さんですね、主演女優が歌を歌い、…ま、その…プロの歌手じゃないですから、その生々しさや危なっかしさを愛でるという、いわゆる「ヘタウマ」の文化がありまして。ま、この起源に関しましては、「シャンソン説」「ボサノヴァ説」はもとより、もう「フランス革命説」「パリ万博説」はては「ガリア起源説」など、まあ…諸説あるんですけども、まあいずれにせよ、起源はともかく、その文化の終焉、もしくは一時停止に関しては、この作品である…として、ほぼ間違いなく、そしてよしんばその文化が終焉もしくは一時停止したとしても、この映画が終止符を打ったのであれば、まあいいか…と思わせるに足る、非常に上品で残酷なアムールな作品です。
この登場する女優が全員1曲ずつ、しかもオリジナルではなく、有名な歌謡曲のカヴァーを歌いながら映画が進行するという…つつがなく進行するという…、ま、現在ではスタンダードな手法ですね、先程言いましたけども「glee」なんかもそうです。すでに存在する流行歌の歌詞の中に、人生のすべての問題を解決する糸口はもう既にあるんだ、という発想ですよね。こうした手法の先駆でもあるこの作品以降、現在までのちょうど10年間、フランス映画の中で不器用なシャンソンを歌う女優という存在は、少なくとも表立っては現れていません。
監督のフランソワ・オゾンはこう語っています。「僕は女優たちが歌を歌い、それを聴くのが好きです。なぜなら、彼女たちのテクニックが、常に完璧ではなくても、彼女たちの恵まれた表現力と繊細さと感情に、しばしば衝撃を受けるほど…だからです。それにセリフを話す声と歌う声にあまり違いがなく、中断されることなくシーンが続いていくということが、僕にとっては重要なことでした。僕の最大の幸福は、歌いながら監督できたことです。」
カトリーヌ・ドヌーヴエマニュエル・ベアールイザベル・ユペールヴィルジニー・ルドワイヤンリュディヴィーヌ・サニエといった、現在でも活躍中のですね、あらゆる女優のシャンソンの中から、スタイリスティックスの75年のこのヒット曲をお聞きください。
フランス映画「8人の女たち」サウンドトラックより、ファニー・アルダンで「愛のすべて」。
(曲)

…女の子と別れて、その子を思い出して一番哀しいと感じるのは、それはひょっとして、キスや添い寝の思い出なんかじゃなく、彼女たちがちょっとはしゃいで不器用に歌ったり踊ったりしたことなんじゃないか…と妄想させるに十分なファニー・アルダン、2002年の歌唱です。
「…え!?…君、歌うの?…今ここで?…」とヒヤヒヤさせながら、気がつけばすっかりいい気分で一緒に歌っていた…といったゆるい幸福が、22世紀になっても地球上から絶滅していませんように
映画と音楽が再び愛し合い、ゴダールがルグランを再び起用しますように…。
菊地成孔の粋な夜電波」、また来週この時間にお会いしましょう。お相手は菊地成孔でした。

〈おとなBEST〉愛がすべて~スタイリスティックス・ベスト

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