「恋におちた菊地先生。」

プロ野球中継の関係で2週放送がお休みになった、TBSラジオ菊地成孔の粋な夜電波」。待望の第79回放送は「J菊」と題してJ-POP特集。主にジャズが選曲されるこの番組で、日本語の歌しか流れない回というのは初めて。マニアックな選曲になるのかと思いきや、意外にもメジャーなアーティストをとりあげ、それでいて菊地先生の紹介とともに聞くと、今まで気付かなかったそのアーティストの魅力や、楽曲の良さがよくわかって、とても楽しめました。
中でも番組の最後に紹介されたアーティストについては、個人的なメッセージとともに最大級の賛辞を贈られていたと思いますので、その曲紹介の部分を文字起こししてみました。

アウェイクニング

アウェイクニング

え〜、ワタシですねえ…このことをオンエアどころかですね、何かしら媒体にこう…書いたこともないですし、プライベートですら誰にも言ったことない…ことなんですよ。…なんで、要するに自分の心にだけずっと今まで秘め続けてたことなんですけどね、今日言っちゃいますね。あの…ガチなんで、これは…心して聞いていただきたいんですけど。
あのですね…ワタシ、この人から仕事の依頼がね…、さっき小泉今日子さんとかね、お話した通りで、どなただってやりますよ、基本。あいつはやだ、こいつは…なんてありませんから。でもこの人だけは絶対NGなんですよね。
あの…プロデュースとか元々そんなんありえないですけど、どんな話でも…「ちょっとサックス吹いてくれ」ってのもダメです。一瞬でも関わりたくないんですよね、この人と。
で、それはどうしてかっていうと、そんなんなったら、絶対にこの人のことをですね、あの…もう今でもそうなんですけど、ガチで好きになってしまってですね、絶対告ってしまうと思うんですよね、直接。そいでフラれてしまう…からなのね。そんななったらワタシ、立ち直れないんで、もう夜電波どころじゃなくなっちゃうんでね。
誰だと思います? 誰だと思います?
あの…ね、曲とか詞とかはね、あの…ぶっちゃけ…全部同じなんですよね、この人。もうデビューの時からね、「うわ!ヤバイの出ちゃったな…」と思ってたんですけど、全然…まったく変わんないんですよね。で、同じなんですけど、まあ…優れた音楽ってのはみんなそうで、全部同じなのね。
まあ、とはいえ、同じ同じ好き好きスーじゃあんまりにも能がねえんで、ちったあ屁理屈こねますけども。
あの…ブルーノートってあるでしょ。ジャズクラブのことじゃなくてですね、音楽にはですね、ブルーノートっていう、こう…ソウルフルっていいますかね、節回しの音がこう…あるのね。あれが日本で一番上手いのは、さっきの久保田利伸さんと、この人なのよ。
久保田さんはまあ…ああいうスタイルだから、ブルーノート、デフォルトじゃないすか。でも他にもいろいろブルージーでソウルフルな人、いっぱいいるんですけどね。おそらくノーマークなんですけど、いろんな方が。ノーマークのこの人が、ブルーノート一番上手いと思いますね。上手いっていうか、血肉化してんの。もう身体に入ってるっていうね、そういう意味では本物のブルース・シンガーとも言えると思うんですよ。あの…OLさんがね、この人のことカラオケで好き好きなんつって歌おうと思ってもね、正確には歌えないと思うんです。エグいブルーノートが必ず曲の中に入ってるんで。
あの…こないだアタシね、夜中の2時ぐらいにですね、ひとりで…「日高屋」さんってわかりますか?(笑)…あのラーメンとか餃子のね。あんまりああいうとこ…そんなに意味はないんですけど、夜中にラーメン・餃子食ってシメるってタイプでもないんで、初めて行ったんですよね。で、品書き見ると「うわ、いっぱいあんな〜、何にしようかな〜」なんつって、スタミナラーメンみたいなのがあったんで、適当に頼んだんですよ。腹ペコペコで、もう…そん時、いろいろ疲れてて。
ほいでまあ、出てきますよねパッと。で、箸持ってこう…さあ食おうと、箸をスープの、ラーメンの水面にね、今まさに突き刺さんという時があるじゃないですか、もう食おうっていう…突き刺すぞっていうところで、店内のJポップの有線からこの人の今からかける曲が突然流れてきたのね。
そういうタイプの人です。日本全国どこにいても流れてくる可能性があるわけ。
そしたらもう…四小節ぐらい聞いて、動けなくなっちゃって。最初の歌詞でもう100%掴まれちゃいまして
「それはオレがオマエにずっと言いたいことそのものなんだよ!」っていうね、ええ。
で結局、曲が終わるまでラーメン食えませんでしたね。…なんでもう終わって、ノビちゃってね。しかももう完全にヤラれちゃってるんで、あんなに腹ペコペコだったのに食欲とかそういう状態じゃなくなっちゃってね、生まれて初めてメシ屋で手付けて残しましたよ。…日高屋さんごめんなさい、必ずまた近いうちにうががいますんで(笑)。
いやまあそれはともかくですね、もうね、ケタが違うんですよね、アタシにとってね。…もう解っちゃった? まだ解りませんよね。解るわけないですよね(笑)。
この人が全部コーラス終えて、アウトロでマイク持ってぐるぐる回ったりね、反ったりかがんだりして、体中から歌って…もうね、ちょっとおかしいと思いますよ、あのキラメキは。動物に近いっていうかね、人間っていうより。
というわけで、今夜ラストにこの曲をお届けします。
ま、メールにあった通り、先日この番組でオンエアしたことでですね、多少は再評価っちゃあ…おこがましいですけども、きっかけになったのかなあと、僭越ながら思っていた矢先に、佐藤博さんがスタジオで亡くなりましたけども…。佐藤博さんの現状のお仕事ぶり考えれば、絶対この方の歌聞いてたと思うんですよね。で、一番好きだったはずなんですよ、ワタシの考えでは。なのでもう…佐藤博さんにも、藤本義一さんにもね、もうこの人のこと好きにならずにはいられないと思うんです…なんで、お二人にも捧げたいと思います。
「ああ、あなたのいない世界にアタシはいない」…聖書の言葉じゃないすよ。日高屋でこれが流れてきたの。
…まあ、大変な覚悟でね…だって言ったことないんだから。こんなん言ったら、他はどうなっちゃうんだって話になっちゃうから、ヤバいじゃないですか。だから胸に秘めてたんですけど…まま、言っちゃいましたけどね。
え〜、ご紹介したいと思いますが、「エーッ、散々引っ張ってそれかよ〜」とか言うヤツがいたら、ころすぞホントに(笑)。
それでは本日のラストナンバーです。ワタシが今「ああ、自分は今恋してるな…」と自覚する時間ってのは、この人の歌を聴いてる時意外ないです…ね、はい。
それではラスト、aikoで「くちびる」。

時のシルエット (通常仕様)

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