「ムード・インディゴ〜うたかたの日々〜」


シネマライズで「ムード・インディゴ〜うたかたの日々〜」を観た。
ボリス・ヴィアンの原作をミシェル・ゴンドリーが映画化。ロマン・デュリスオドレイ・トトゥ主演。
先日、アンスティチュ・フランセ東京で行なわれたOPENERS主催の菊地成孔先生のトークイベントにも行っていたので、ぜひ観たいと思っていた作品。
そのイベントで菊地先生が「ビョークの『Human Behavior』のPVの長いやつが観れる」と、音楽ファンが食いつきやすいような紹介をされていた。
ミシェル・ゴンドリーといえば、確かに数々の有名なミュージックビデオを撮った人という印象が強く、シュールレアリスティックな絵作りに定評がある。
映画監督作品は「エターナル・サンシャイン」を観たことがあって、現実に起こっていることなのか、記憶の残存なのか区別が付かなくなるような状態をドリーミーな映像で表現したラブストーリーで、かなり気に入っていた。


ボリス・ヴィアンに関しては、佐野元春に傾倒していた高校時代から、ボヘミアン的ライフスタイルになんとなくの憧れを抱いていたので、よく知りもせずに「なんかかっこいいしオシャレ」と思っていた。今回映画を観るにあたって、「確か買ったけど読みもせずに本棚に飾っていたはず…」の文庫本「日々の泡」を引っ張り出してきて読んでみた。
なるほど。確かに、言葉遊びを多用して、どこまでが比喩なのか、どこからが嘘なのか分からないまま話を運ぶこの小説を、そのまま映像化するには無理がある。でもミシェル・ゴンドリーなら可能な気がする。
…と期待してみたこの映画。まさしくボリス・ヴィアンの文体の映像化に成功した希有な作品になっている。
いちおう、ハンサムで裕福な暮らしをしているコランと、彼の最愛の恋人クロエの夢のような幸福な日々。しかしある日突然クロエ不治の病いに冒されて…というストーリーはあるのだが、これを若い女性が感情移入できるようなラブストーリーとして観るのは、ちょっと無理があるのかもしれない。
「おすすめのデートムービー」的な宣伝のされ方は効果があったようで、実際に映画館は若いカップルの姿が多く観られた。
前半の多幸感に満ちたコランとクロエの楽しそうな毎日のシーンだけでうっとりできて、それだけでデートムービーとして十分ではあるが。
絵づらはいちいちシュール過ぎる(笑)。
さらに妙に原作通りなもんだから、クロエが病気にかかって最後亡くなって、「え?ここで終わり?」と驚くほど唐突に終わるので、ストーリー的なカタルシスは無かったりする。
これはやっぱりデューク・エリントンの音楽の長いPVだと思って観るのがいいのではないかな。
最初からリアリティラインの設定を放棄して、面白い映像を楽しむことに専念した方がいいのだろう。


120分版のディレクターズ・カットも観てみたいし、サントラのCDも欲しい。新訳の原作も読んでみたいし、いろんな形で複数回楽しめる作品だと思う。

うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1)

うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1)