「鬱…とはいえ。」

TBSラジオ菊地成孔の粋な夜電波」第375回はスペシャルウィーク
「音楽漢方菊地堂」と題して、リスナーから募集したお悩みメールに音楽で回答するという企画。
悩みに誠実に向き合いつつも、軽く笑い飛ばせるくらいのウィットとユーモアを添えて粋な選曲。
トークの一部を文字起こししてみました。

Killing Time

Killing Time


女性上位時代 【DSDリマスタリング】

女性上位時代 【DSDリマスタリング】

はい、「菊地成孔の粋な夜電波」ですよぉ〜。ジャズミュージシャンの菊地成孔TBSラジオをキーステーションに全国にお送りしておりますよぉ〜。
今週は「音楽漢方菊地堂」開店。皆様から寄せられたお悩みに、私、菊地成孔が音楽でお答えしています、と。まあ…こんな感じですよ(笑)。
特にね…まあ、あと2つですけど…。とにかく、悩んでる人が、あのねえ…
そう。ま、しょうがねえんだよなあ〜。やっぱり。
あのね、やっぱ鬱っぽい…っていうね。とにかく鬱っぽい…で、いろんなものの適応障害だっていうふうに、お医者様に言われたんだ、と。自分でもそう思ってるんだって方が多いですけど。
そうですねえ〜。今…鬱病はね、怖い病気ですから。こじらせたら…どんな病気だってそうですけど、こじらせたら死病ですからね。死に至る病になりますけど。
ワタシも…近親者っていうかね、鬱病から自殺した近親者いますけど。
何つーんでしょうね、とはいえ…ですよ。
今ね、鬱だとかメンヘラだとか…ま、メンヘラと鬱一緒にしてないでしょうけどね。…っつってんのは、極端に言ったらですよ。まあ、敢えて言いますけどね、敢えて挑発的にポップに言いますけど。
今、鬱だメンヘラだっつって喜んでんのは…要するにね、「偽鬱(ぎうつ)」って言葉もあんの。「偽(にせ)」。
うん。放送では言えないですけどね、昔は「似非(えせ)何々」っていうのがあって、「エセ」…「丘サーファー」みたいなもんですけどね(笑)。
今、とにかくね…インターネットによって、人格がこう…キャラクター化して、独立しちゃって、止めらんない人多いから。
スマホ…まあ、悪ぃ機械ですよね。良いとこもあんでしょうけどね。いつ良い奴になるんでしょうか(笑)。わかりませんけど。
若い子なんかにね、「あれ、良い奴になる時あんの?」っつって。大震災の時は確かに善玉になったよね…って、ワタシ「時事ネタ嫌い」って本に書きましたけど。ま、そういう事ありました、確かにね。
ですけども…だいたいね、やっぱりあれ持っちゃうと鬱々としちゃいますよね。
あんなに民の言葉が超能力みたいに、まとめて耳に入ってきたら、誰だってまともじゃ…普通に元気にいらんないですよ、あれ。
で、もう脇固めて自制して生きるしかなくなっちゃうから、のびのびしねえし…。しょうがないけどね。依存症だからね、あれは。依存しちゃってるもんね。
ワタシの知り合いのね、伊藤俊治先生っていう…民俗学とかやる方…あ、伊藤俊治先生の専門は民俗学じゃないですけど。ほんで、民俗学のフィールドワークなんか行って、密林とか行ってね。学生に「ここWi-fi全く無いから。」って言うと、どんどんどんどん過換気発作とか起こしていくらしいですよ(笑)。その…通じないってことで。そうなってくると、完全に依存症ですよね。
で、多いんだけど。だけどね、偽鬱みたいな人もいると思うのよ。
昔から「丘サーファー」とかね、「エセ○○」とかあって、だから今だって言われるべきなの。
自己申告したら本当、ネットに書き込んだら本当…とかじゃないですからね。
逆に言えばですよ、ほんとにハードコアに苦しんでる方は本当に大変だと思いますから、お医者様にも任せますし、我々も頑張ります、音楽で。ですけども、ま…似非でやってる方はね、今生きづらいとかメンヘラとか言ってる方は、だいたい自意識過剰ぐらいの人…程度の人で。鬱々としてるっつったって、それは何つったらいいか…「メシ食い過ぎたんで、腹が張ってる。」って言ってんのと大して変わんないと思いますよね。
そのくらいの悩み事が多かったです、とにかく。めちゃめちゃ。はい。
もっとこう…スカッと爽やかなね…悩み事、例えばこれですよ。


(「機械が苦手でトラブルを起こしがちです。機械への苦手意識を無くすような1曲を選んでいただけますでしょうか。」というメールを読んで。)


(中略)


…機械と自分はもう…何て言うか、バディ(相棒)でしょ。一緒のもんでしょ。
だから、機械ってのはブラックボックスで冷たい物で、自分がそれを操ってんだって思うと、この方みたいに悪戦苦闘するんですよね。やっぱり。
ワタシなんかね、パソコンで本書いてる時に…あれ何て言うんでしょ、クルクルクルクル…ってなっちゃって、いつまでたってもクルクルクルクル…ってなってて、全然戻ってくんない時に、恫喝しますからね(笑)。
「オマエ、ほんとに叩き壊すぞ!」っつって。軽く持ち上げたりして。
「いいんだ、全部ぶっ飛んだって。中に入ってるのが惜しいと思ってる?…何にも惜しくないよ!」っつって。
「ほんとに…こっから…窓から落とすから。もう俺パクられてもいいから、壊すぞ!…ほんとに。」って言うと、止まりますからね。ピッ!って。「すいません!」みたいな感じで。ほんで、原稿元に戻りますから。
だから、やっぱり…「人間機械論」!…ノーバート・ウィーナー(笑)。どうでもいいんですけど。
まあ、そんなつもりでね、機械と付き合うといいと思うんですよ。だから…
ワタシ、機械も生きもんだと思ってます、ほんとに。
だから、スマホなんて大変なプレイボーイで、ものすごい…なんかヤクの売人みたいな奴ですよね。みんなを全部依存させて、自分に。
「お前ら、俺無しじゃ生きていけねえだろ。ヘッヘッ…。」みたいな感じですよね、なんか(笑)。相当なタマですよ、あれは。奴さんは。だからマズイな〜と思って。
時計なんかもね、「ちょっと…もうちょっとゆっくり行ってくんない?」とか思う時とかね、ちょっと秒針が遅くなったりしますよ(笑)。気持ち込めれば。
あとね、ワタシは筋トレするんで、プランクとかいって、こう…腕立て伏せの格好でピタッと止まったりすんのね。で、「もうちょっと早く…あと5秒だから早く行ってくれ、早く行ってくれ!」とか思うと、ちょっと秒針が「じゃ、そうスかぁ。今だけっスよぉ。」みたいな感じで、ちょっと早く動いて(笑)。あと5・4・3・2・1が、ちょっと早く動いたりするんですよ。ほんとに。
でね、何が言いたいかっていうと、このガーハーさんは、機械に対して苦手意識もあるし、気持ちの通じない道具だと思ってんでしょうね。ですから、やっぱ機械を自分が上手く操れないんじゃなくて、機械のほうに…「もっとこう…ちゃっちゃっと行ってよ!」っていう。「元気出して!」っていう…ね。
機械を元気付ける。機械の立場に立って…(笑)。機械を元気付けて、機械にヨイショしてね。「お前、やっぱ凄いね!」みたいなね。「やっぱ便利だよ〜!」みたいな感じで(笑)。
機械をヨイショして…そういう音楽ですよ。機械が喜んで、シャンとして、「これ、アガってキター!」みたいなね。だから機械がパリピみたいになって、「よっしゃ行くぞ〜!…ウッヒャー!…もう踊りまくりっスよ!」みたいな曲を選んでみました。機械にとってね。
これ、ワタシの生徒さんなんですけど。委細くんっていう、大変な才能を持ってて。本名なんですけど。大変な才能を持ってます。
この番組でもかけた事あります。「Title fit I felt it」、完全なコンセプチュアルアートのアルバムで、曲のナンバーがアルファベットと照合されてんの。だから「kikuchi」っていうふうに作りたかったら、「K・I・K・U・C・H・I」っていう曲順で…曲が組めるんですよね。
で、「kikuchi」組んでんのも面倒くさいんで、今日は「L・M・N」。12番キー、13番キー、14番キー…要するにタイプライターになってるんですけど、全体が。その3つのキーを聴いて、連続で聴くことで、まあ…タイプライターの立場からいくので、このガーハーさんのパソコンも少しは盛り上がるんじゃないかなっていう気持ちを込めて、いってみたいと思います。