「気が若いタクシードライバー。」

菊地成孔の粋な夜電波」第381回は、久しぶりのフリースタイル。
最高の音楽を紹介しつつ、タクシー車内やファミレスやコンビニで採取したWBO話がてんこ盛り。爆笑必至の回となりました。
気が若いタクシー運転手さんとの会話のエピソード部分、文字起こししてみました。


Little Dark Age

Little Dark Age

はい。え〜…「菊地成孔の粋な夜電波」。ジャズミュージサン…、「ジャズミュージさん」って言ってしまいましたけど(笑)。
すいません。なんかもう忙しくてね。正直、くたびれてますよね。55歳。
そうですね。「コント55歳」ですけど。同年輩…同年輩じゃねえや、同級生か…に、モーリー・ロバートソン寺島進ダチョウ倶楽部・肥後…っていうね。
元気なような疲れてるような感じの人たちが、そろそろクタってきたかな?…って。
ま、モーリーは元気だよね〜。モーリーはね、知己があるんですよ。
アイツがね、あんなオーバーグラウンダーになるとは思いませんでしたけどね。ちょうどいいバランスですよね。ギリギリんとこですよね(笑)。ギリギリん所で「朝の顔」…モーリー、やってますけど。
あ、「てらじま」さんね。失礼、失礼。「寺島進(てらじま・すすむ)」さんですね。
はい。まあ、それはともかく。そういった年配ですけどね。
今日も途中でタクシー…こんな話、面白くもなんともない。年間100回ぐらいやってるんだけど。
移動の時にね。
「お客さん…」9時ぐらいにタクシー乗ると、「これから呑みですか?」とかね、「仕事終わりましたか?」とか、必ず言われるんですよ。
「いやいや、これから夜勤で。」っつって。「これから仕事なんですよね。」っつって、しばらく話して。
で、いろんな話してるうちに、向こうはね…20代ぐらいだと思ってて。年の話して。
「ワタシ、55ですよ。」っつって。
「ええ〜!!」ってビックリして。事故るぐらい驚く方とかいるんですけどね。
ま、こんなんね…年間100回ぐらい、これやってるんですよ。だからもう飽きちゃって。
次から「65ですよ。」って言おうと思ってるんですけど(笑)。さすがにそれはもっと驚く…ほんとに事故っちゃうんじゃないかと思うんですけど。ま、55だけでもずいぶん動揺されるんですけどね。
ただ、55って知るとね、年配の運転手の方だと、急に…あんちゃんだと思ってたのが…タトゥー入れてるあんちゃんだと思ってたのが、55のおっさんだってわかると、急に親しげになってくれることも多くてですね。
「お客さん、今聞いてる放送、何だかわかります?」
「ああ。これあれでしょ。」っつって。「極東軍事放送…」FENね。今、FENって言わないんですけど。
その運転手さんはね、70歳だったの。で、タクシーの運転手さんってのは、訳(わけ)有りの人多いですよね。
ま、タクシーの運転手さんだけじゃないか(笑)。いろんな職業が、訳有りの人が多いですけど。訳有り職業のうち、ベスト3に入るんじゃないですかね。
何かね…風俗なんかで働いてる方に「なんでこの仕事してるの?」って言うのは禁句だとか言いますけども。
その…いろんな訳有りで仕事に参入してくる方ね…
ジャズミュージシャンなんて、全然訳有りな人いないですよ。「ジャズが好きなんで。」っていう人がほとんどじゃないですか(笑)。「ジャズが好きなんでジャズミュージシャンになりました。」って人が、ほぼほぼ90%超えている、訳有り無しの世界ですけど。タクシードライバーってのはね、いろんな方いるんで。
で、ずっとその極東軍事放送…FENをかけてて。70歳の方なんですけど。
で、「音楽家なんですよ。」って話をしたんですよ、こっちが。
「あ、これは失礼しました。」って、その人音楽が好きなのね。急にいろいろ…「前向いて運転してよ。」っていうぐらい、こっち向いて話したりするんですけども(笑)。
「じゃ、お客さん。アタシがなんでFEN聞き始めた…理由わかりますか?」っつって。
「いや…」気が若いわけね、その人は。パッと見るとね、結構長い髪の毛をね、もう完全なロマンスグレーっての?…銀髪っつーか白髪っつーかね…きれいなウェーブで撫で付けてて。夜ちょっとバーかなんかで会ったら、オシャレ親父って感じの…その方も気が若いし、見た目も若いんですけど。
「じゃ、お客さん、何でアタシがFEN聞き始めたか知ってます?」っつって。
「いや、わかんないですけどね。」っつって。
「これね、都市伝説なんですけどね。」とか言って(笑)。70歳のお爺さんが「都市伝説」とか言うのか〜とか思ったんですけど。
「都市伝説なんですけどね、アタシが若い頃、小林克也小林克也って、まだ生きてます?って。
「生きてます、生きてますよ。克也さん元気ですよ!」っつって(笑)。不謹慎なジジイだなと思ったんですけど。
「存命ですよ〜。」っつって。「小林さんね、がんになられたりしましたけど、克服されて元気ですよ。」っつって。
「あ、そうですか。あのね、小林克也がね、何で英語が喋れるようになったかっていうと、FENをひと月聞き続けたからだっていう都市伝説が、アタシの若い頃あってね。」っつって。
話が弾んでるし声も若いんですけど、「気が若いんだけど、やっぱりお爺さん」っていう感じの内容なんですよね(笑)。そこがかわいいんですけど。
んで、そういうのがあって聞き始めたんだ、と。だけど、小林克也さんはウルフマン・ジャックをよく聞いて…物真似もされてますけど、ちゃんとした英語教育を受けてるってことが後からわかって。
「まあ、FENだけ聞いてても、英語なんか私なんかチンプンカンプンですよね。」って話があった後に…
そんなこんなしてる間にね、「いろいろ私も訳有りで…。」って、自分で訳有りって言っちゃったんですけど。
「訳有りでこの仕事就いたんですけど。」個人タクシーなんですけどね。
FENばっかり聞いてんだ、と。「考えてみたら、日本に米軍がいる限り、FENは無くならないよな…と思って。」とか言って。ちょっと気が若いところをね、70歳ながら出したりするんですけど。
「そんな時にある日ね、ずっと聞いてたらね、一日中…彼女の歌がかかったんだねえ。」っつって(笑)。
「彼女の歌がかかり続けたんですよ。」…誰かな〜?と思って。ジャネル・モネイとか言われたらどうしようかな〜とか思ったらね。
「…彼女の歌がかかり続けてね、それでもうすっかりハマっちゃったんですよね。…マライア・キャリーに。っつって(笑)。
マライア・キャリーか!と思って(笑)。さすがお爺さん!と思って。微妙にいい感じだな〜と思って。
そっからね、「彼女」って言ったり「奴」って言ったりして。
「もう奴の歌はねえ…。奴はなにせ6オクターブ出る!とかっつって(笑)。
なんてか…どんなに気が若くてもね、出るもんですよね、年ってのはね。
だから、ワタシが55で若いとかね、見た目もやってるもんも若いとか言われますけど、どっかでね…おっさん…
最近はね、だいぶ老けたと思ってるんですよ。魔女の片割れがくたばったんで。もう一人くたばれば、完全に…浦島太郎みたいにドローンって、55歳になると思うんですけど。
え〜…そうですね。一見ワタシと同じぐらいに見えるけども、ワタシより十若かった…10ぐらい若かったんじゃないかな?…ディエゴ・スキッシ。急にディエゴ・スキッシがかかるんですけど(笑)。
先週、ノンストップ…先週先々週と、なんか図々しくも手前のバンドのノンストップ…今週はほんとはダブ・セクステットのノンストップやろうと思ったんですけど、それはさすがに「やめろ!」って声が自分の中でしたんで、やめましたけどね。
3週連続「ジャズ・アティテュード」、3週連続てめえのバンドのノンストップ…ったら、本当に数字下がっちゃうんで。
上がったらすごいですけどね、それやって(笑)。3週ジャズやって3週自分のバンドのノンストップやって数字が上がったら、毎週企画会議やって数字がなかなか上がんないって言ってる人たちの給料の行方は?…とか思っちゃいますよね。
ま、それはともかく。
ディエゴ・スキッシは、この番組のヘビーリスナーの方なら、彼のブレイクスルー盤からずっと、この番組が紹介し続けているという事は御存知だと思いますが。
こないだ「ラティーナ」って雑誌の…こないだっつったって去年?ですけどね、対談したんですよね。ディエゴと。
ま、言うまでもなく意気投合ですよ。
ディエゴ・スキッシはね、もともとジャズミュージシャン…ジャズ上がりでタンゴやってるんで。そもそも活動の内容…っていうか、彼はアルゼンティーナだからですけど。ワタシはジャパニーズですけどね。
とはいえですよ、先週お送りしたペペ・トルメント・アスカラールと、ディエゴ・スキッシが立ててる問題系ってのは、ほぼほぼ同じで。タンゴって音楽をどうしようか、と。
ま、ディエゴのほうがかなりタンゴ寄りだけどね。相当盛り上がりましたけどね。
今度ディエゴとプロレスやりたいですけどね(笑)。何がしたいかって言われると。
一緒に演奏…必ず言うの、欧米の人は。「今度一緒に必ず演奏しような。」「必ず曲の交換しような。お前に曲贈りたいし、お前も曲を作ってくれよ。」って絶対言うのよ。アントニオ・ロウレイロも言うし、バルダン・オブセピアンも言ってたからね。
「いやいや、ラジオで君のCDかけるのが手一杯だよ、こっちは。」って、いつも答えるんですけど。日本人らしく。
ま、とはいえやりたい事はそんな事よりもプロレスですよ。それはディエゴ・スキッシとワタシのツーショットの写真を、なんとかネットで検索していただければわかると思うんですけどね。ローランド・ボックに似てるんですよね、ディエゴ・スキッシはね(笑)。…なんで、プロレスごっこがしたいわけですけど(笑)。
…ディエゴ・スキッシ、馬鹿にしてると思われるといけないんで(笑)。すんごい立派なミュージシャンですよ。
ジャズ上がりのタンゴと取り組んでいる人ですよね。音楽聞いていただければすぐわかると思います。ペペ・トルメント・アスカラールと同じ命題を抱えたディエゴ・スキッシのキンテート。今年アルバムが出ました。
古い世代のタンゴの第一人者である、マリアーノ・モレスって人がいるんですけど、その人の作品を新しく換骨奪胎して、素晴らしいアレンジメントで、ディエゴがプレゼンテーションしてるってアルバムですけどね。
アルバム「TANGUERA」から「TANGUERA」、タイトルチューンですね。


タンゲーラ

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  • アーティスト: ディエゴ・スキッシ・キンテート,DIEGO SCHISSI QUINTETO
  • 出版社/メーカー: Unimusic
  • 発売日: 2018/06/20
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Bits & Pieces

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ラティーナ 2018年2月号

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