「テロルのすべて」

テロルのすべて

テロルのすべて

これまでの全著作を買って読んでいる、去年最もハマった作家・樋口毅宏氏の最新刊。
意外なのは樋口氏らしからぬ、本の薄さ。
中編くらいの長さのものを緊急出版した感じのとこからして、このタイミングで「取り急ぎ言いたいことをまとめてみたので読んでくれ!」という意図を強く感じる。
独善的な大国・アメリカに、日本と同じ体験をさせないとやつらは学ばない!という使命感を持って、原爆を落とそうとする青年の物語で、相変わらず過激だ。誰も書かないなら俺が書いてやる!というパンクな精神をそこに見る。
長谷川和彦の映画「太陽を盗んだ男」を連想する人も多いようで、たしかにオマージュの側面もある。
それも含めて考えると、やはりこの主人公の怒りの矛先は、アメリカに向けられているようで、「なんでいいようにやられっぱなしなんだ!」「なにいつまで媚びへつらってるんだ!」と、同時に激しく祖国・日本に対しても向けられているようだ。
それは著者本人の、今のぬるい表現しか出来ない同時代の作家に対する怒りとシンクロしているのではないだろうか。
少なくとも、今の既得権益メディアが流す自分たちに都合のいいように改変されたニュースや、圧力に屈して日和りまくったぬるい表現の作品群に辟易している自分にはそう感じる。
内容の是非を問われると、諸手を挙げて賛成しにくいのは事実だし、作品としての完成度とかを冷静に判断しようとすると、この小説が大傑作であるとはいえないかもしれないが、著者の心意気には大いに共感するし、ここまでエクストリームな表現をぶつけてこられたら、勇気づけられるのは間違いないのである。

ちなみに、単にタイトルから連想しただけだが、この本を読んでる間、頭の中でずっとフジファブリックの「若者のすべて」が流れていた。