「二大巨頭、パクリ問題を語る」

TBSラジオでは今年最後の放送となってしまった「粋な夜電波」の第35回放送は、スペシャルウィークということで、近田春夫氏をゲストに迎えての年末放談という特別企画。
いろいろと面白い話が飛び出した中で、「パクリかパクリじゃないか?」というポピュラーミュージックを作っているお二人にも付きまとう問題にも踏み込んで語っていらっしゃった部分が刺激的だったので、文字起こししてみました。(初の対談形式でのテキスト起こし。手間と時間はかかるが、なかなか面白かった)
お二人とも、自覚的、意識的に音楽制作に取り組まれているので、いろいろ分かった上でご自分の作品をジャッジし、他人の作品を許容もしているのだということがよく分かりました。
やはりインテリジェンスを駆使して、世知辛い世の中でいかに自由さを確保するかという姿勢に、尊敬と憧れを抱きますね。

考えるベスト

考えるベスト

菊地 …だから…今のね。アイドル…ま、オレも今のアイドルの曲、全然書いてないですけど。自分の生徒とか、知り合いがアイドルに曲…それこそAKBさんとか、曲書いてたりするんですよ。そうすっと、どういう…なんていうの?…ディレクションが来て、どうやってやんの?っつったら、「パクリ」って言われないように何百曲も似た傾向の曲を自分で聴いて、こう…ズレ…指摘された時に逃げられるようにするんだ…って言ってて、そんなことすんの!?っていう…、話してたんすよね。
近田 …はあ〜。そのやり方は合理的じゃないね。
菊地 ああ〜。
近田 それやるんだったら、ものすごいもっと簡単なやり方あんだよ。
菊地 はい。
近田 今さ、どういうCDでもさ。カラオケ付いてんじゃん。
菊地 付いてますね。
近田 あのカラオケに別のメロディ付けりゃいいんだよ。
菊地 (笑)…それ5年前も言ってましたよね。それで…新曲作るって…。
近田 そうそうそう。
菊地 まあ、でもそれ…なんていうの?…DJのトラック抜きっていうか…。
近田 それ、誰も怒られないじゃん。
菊地 まあ、そうですね。…あの…、メロディだけですもんね。
近田 あとだから、例えばさ。詞も同じことすりゃあいいのよね。
菊地 はいはい…ほんと。うん。…でも言葉の方がおっかなくないすか?…その、指摘がしやすいじゃないですか。その…ビギナーに。
近田 いやいや…他の人の曲に、別の詞作っちゃうわけ。で、その詞見てからさ、その詞にまた次またメロディのせればさ…。もう、それはロンダリング出来てんじゃん。
菊地 ま、そうですね。うーん…
近田 そうやって作ってきゃいいのよ。
菊地 結局あの〜、法律上よくなんか…都市伝説があって、三小節までオッケーとかなんとか…
近田 あれ違うみたいだよ。
菊地 あれ全部無いんですよ、ホントは。オレ…だからね。ちょっと、あの〜、大学で先生やってた時にちょっと勉強…調べたんすけど、あの…商工業上法の著作権の侵害ってのは、立証がものすごい難しくて…
近田 そうなんだよ。
菊地 何小節もへったくれもないんですよ。…結構ね、裁判の議事録とか読んだんすよ。有名な「楡の木裁判」っつうのがあって。小林亜星さんと…
近田 ああ、例のね。
(※小林亜星氏が服部克久氏を提訴した「記念樹事件」のことだと思われる)
菊地 例の。あれ読むと面白いっすよ。お互い弁護士立てて、この小節とこの小節が似てる、似てないって話を延々と法廷でやってんですけど。
近田 で、君は…あの2曲に関しては、パクリだったと思う? それとも違うと思う?
菊地 いやあ…あれ、わかんないっすよね。
近田 ほんとにどっちだと思う?
菊地 いや、オレは…聴いてて、頭の中にストア…要するにマウントされてて出た…要するに原曲聴きながら作ってるとは思わないっすね。
近田 俺、あれは偶然な気がすんだよ。
菊地 偶然。…結局、記憶じゃないすか。うん、記憶って結局…そんなんいっぱいありますよ。あの、ビートルズの「ミッシェル(Michelle)」とかだって、モーツァルトの「チャララン、チャララン、チャラランチャン」と同じコード進行で…
近田 ああ、うんうん。
菊地 もしポール・マッカートニーがガキの頃からずっとモーツァルト聴いてて、作曲してる時にモーツァルトのあれが頭の中に、こうやって…ストアされてきたら、そのままいっちゃうんじゃないすか。
近田 うん。で、自分で気付いてないやつ、ほんとあるよ。あの二つの曲は…というより本当に偶然な気がする、俺は。
菊地 ですよね。
近田 うん、どっちかっていうと。…だからわかんないけどさ、ほんとのところは。
菊地 そこ微妙ですよね。多分ね、90%は…記憶…あの、偶然だと思うんですよ。
近田 そういうんでいうと、前さ。あの…マッキー(槇原敬之)がさ、漫画家の人にさ、なんか怒られたやつあったじゃん。
菊地 松本零士さんね。
(※CHEMISTRYに提供した楽曲『約束の場所』の歌詞の一部が、新展開編『銀河鉄道999』の作中のセリフの盗用であると訴えられた件)
近田 あの漫画家、思い上がってるよね。
菊地 (笑)。
近田 マッキーがパクるわけないじゃん。
菊地  (笑)…まあそうですよね。…ていうか、ああいう言葉だって、「俺の方が先言ったオールナイトロング」とかさ、キリない…
近田 しかもさ、あの漫画家のさ。作ってるマンガのタイトルって、あれ宮沢賢治じゃん
菊地 まあまあまあ(笑)。…そうですよね。まあ、それで槙原さん言い返さなかったってことですよね。
近田 だから俺はねえ。マッキーはさ、ついつい曲聴いてると、なんか…いろいろとツッコミどころが多いから、曲聴いてるとからかいたくなる曲なんだけど、あのことに関しては絶対俺は…ずっと俺は「マッキー頑張れ!」って気持ちでいたね。
菊地 うーん。
近田 間違ってないもん、あれは。
菊地 法廷で…敗訴した件、一件もないすよね。アメリカでレイ・パーカーJr.が、ゴーストバスターズで負けたんですよ。
近田 ああ。でもあれじゃないの。ジョージ・ハリスンは「マイ・スイート・ロード」は「ヒーズ・ソー・ファイン」(シフォンズ)で、お金取られたんじゃないの。
菊地 取られた。あれもまあ、小っちゃい負けですよね。ゴーストバスターズ裁判はデカかったんですよ。で、話題も、あの当時MTVが発達してたんで…話題も大騒ぎになって、レイ・パーカーJr.がホームレスになっちゃったっていう…。劇的な、全部身ぐるみ剥がれて。
近田 あ、そうなんだ。おっかないねえ。…俺も盗作問題、色々言われたからなあ…。
(※『恋のぼんちシート』がダーツ『ダディクール』の盗作ではないかと言われて認めた件)
菊地 (笑)。…有名ですよね。あれって、今ここで真実を訊くみたいな話だとスキャンダラスですけど。…こう…数少ない、意図的にやったやつじゃないすか。
近田 だけどさ。ほんとのこというとさ。あれ、ロックンロールじゃん単に。…ロックンロールにパクリもあるか!ってことだよ、ほんというと。
菊地 ほんと、そうっすよね。
近田 ほんというとそうなんだけど、めんどくさいからそう…言ったけど、別にあれがパクリだったらロックンロール全部パクリじゃねえかよって、ほんと思うんだけど。
菊地 いやあ…ほんと。…あのね、ポピュラー・ミュージックに関して少なくとも口ずさめる音楽に関してはもう、出切ってますよね。
近田 あとさ、例えば誰も「ドッドッタッツタ、ツタドッタッ…」っていうのは、そのリズムはパクリじゃないのかっつったらさ。
菊地 メロディだけなんすよね。
近田 メロディだけじゃん。それ不公平じゃんな。
菊地 あのね、それアメリカのね。…えと、著作権管理協会ってのが…30年代に出来んですよ。「ホワイト・クリスマス」って曲作ったアーヴィング・バーリン、あいつが会長だったの、初代の。
近田 うん。
菊地 ほいで、アーヴィング・バーリンってコードが弾けなくて、右手の人差し指一本で世界を制した男と言われてるんですけど。こうやって…指でメロディ作って、舎弟にコード作らして発表してたの。だからバーリンが大切にしてたのはメロディだけだったんすよ。…なんで、彼がトップになった時に、著作権の行方がメロディに集中してたんすよ。
近田 なるほどねえ。
菊地 だからリズムなんかみんな同じじゃないすか。だからベースライン「ドドソソ、ドドソソシ」って、俺がやったって言われたらキリない。「タックスマン」が最初だとか言われたらさあ。…もっと言ったらキリない…。
近田 そういうの、いっぱいあるよなあ。
菊地 いっぱいある。だけど、今って結構魔女狩りっつうか、あの…パクったらみんなで取り囲んで、あの…指差して殺すみたいな状況に…。多分ネットとか、そういう感じじゃないすか。
近田 あ、なに。あの、権利的な問題じゃなくて?…「炎上」的な意味で?。…要するに炎上する的な…。
菊地 そうそうそう。
近田 だけどさ、そんなん怖くねえじゃん!
菊地 (笑)。まあまあまあ、そうなんすけど。(笑)…怖いか怖くないかって言われたら、そりゃあ怖くないですけど。
近田 全然怖くないじゃん。
菊地 (笑)。そりゃあもちろん、法廷の方が怖いですよ。だけど、世論がなんかこう…ものすごくガチガチに形成されてて…ちゃんと考えたらわかりますよね。
近田 でもさ。世論ってさあ。…そんな怖いもんなの?
菊地 いやあ…。…どうですか。
近田 …怖くないだろ。
菊地 (笑)。…まあね、「がん」が怖くないんすからね(笑)。
近田 世論は怖くないよ
菊地 世論は怖くないすよね。
近田 一番怖くないもんのひとつじゃない?
菊地 だけど最近って、例えば…うちらの国はまあ、まだどんなに荒いっつっても、やっぱ優しい国で。韓国の世論とかみると、ネットで自殺するまで書いたりするじゃないですか。
近田 うん。だからほら。「人間一日一回は自殺したくなる」って。
菊地 (笑)。…それでいいわけですね。
近田 いいわけよ。
菊地 (笑)。なるほど〜。ハッピーだなあ。


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