「〈ものんくる〉への期待。」

TBSラジオ菊地成孔の粋な夜電波」第325回は、3rd AL「世界はここにしかないって上手に言って」をリリースして、いよいよライブツアーに出る〈ものんくる〉のお二人をゲストに迎えての放送。
めずらしくTABOOレーベル主宰としての今後の豊富などを率直に語られた菊地さん。その中でも特に〈ものんくる〉のお二人に懸ける期待の大きさが窺える鼎談の一部を文字起こししてみました。

世界はここにしかないって上手に言って

世界はここにしかないって上手に言って



菊地 というわけでね、明日からツアー頑張ってくださいね。
沙良 がんばります!
角田 はい、がんばります。
菊地 あの、まあ…何て言うのかなぁ〜、個人…個人的にって、個人も公人もないんだけど、個人的には「もう、とにかく楽しんでやってきて!」っていう気持ちでいっぱいなんですよ。
沙良 はい。
菊地 ほんとに。
角田 うん。
菊地 二人が楽しんで、プレイを楽しんで、お客さんも楽しんで、まあ…お客さんが何人だろうと楽しんで演って、代官山ではオレもちょっと一緒に演って、終わったらちょっと「乾杯〜!」とか言って…
角田 ふんふん。
菊地 まあ、それだけでいいんだけども、個人的には。だけどやっぱ〈ものんくる〉にはね、今期待値が掛かっちゃってるからねえ。ま、若いからさ。頑張ってくださいよ、ほんとに。
沙良角田 (苦笑)。
菊地 えとね…〈けもの〉と〈ものんくる〉のアルバムが、やっぱある程度動いてくんないと、TABOOレーベルのレーベルオーナー…レーベルプロデューサーか、正式には…レーベルプロデューサー並びに音楽プロデューサーとしてのオレの命運に懸かってんだよね(笑)。
角田 (笑)。
菊地 オレの将来の一部を握ってると思って(笑)。
角田 ええ〜っ。菊地さんの為にやんないですよ、別に(笑)。
菊地 ままま…オレの為にはやんないけども、いろんな人の為にやんなきゃいけないんだ、これから。
角田 そう。ほんとそうすね。ほんと、そう思います。
沙良 うーん。
菊地 それがね…キツイよねえ。
角田 うーん。
菊地 ほんとに。なんか別にさ、楽家なんて好きに自分の為にやりたいだけよね。
角田 はい、はい、はい。
菊地 気が付くとそうでもなくなってきちゃうところが怖ろしいところですよね。
角田 はあ、でもそうですよね。
菊地 まあ、でもそこ通過儀礼ですよ、やっぱり。
角田 うん。
菊地 TABOOだって、これからさあ…この後、あれだもん。沙良ちゃんはよく知ってるけど、辻村のバンド…をがっつりデビューさせないといけないし。
沙良 はい。
菊地 市川愛さんのアルバムも作んないといけないし。
沙良 はい、はい。
菊地 さらに来年はアレやってコレやって…って、リリースがあるんですよ。再来年にはこれこれこれ…っつって。
角田 うーん。
菊地 うん。そうすっとね、まあ…当たり前の話なんだけど、ひとつのレーベルから出てるアーティストが全員セールして、全員プライズとフェイムを手に入れ、つまり全部がスターになるって事は、まあ…ありえないよね。
角田 うん。
菊地 つまり、戦ってもらわなきゃいけないんだ、これは。
角田 うん、うん。
菊地 誰が抜きん出て、誰が潰れて、ま…芸人さんとかと同じで。で、誰がマイペースに行くか…っていう事になるわけでしょ。
沙良 うん。
菊地 で、まあ…二人ともよくわかってると思うんだけど、オレ自身がそういう過当競争を勝ち抜いて、ここまで来た人間じゃないから(笑)…
沙良角田 うーん。
菊地 好きなように好きなことをやって遊んでいたら、なんか気が付いたら今というよくわからない場所にいた人だからさ。
角田 うん。
菊地 その…学校とかでさ、成績とかスポーツとかさ、こう…勝ち抜いて「お前ら、ガンバレ!」とかいうような、「俺もこういう時には歯を食いしばって頑張ったんだ!」とか、何のあれも無いんだよね(笑)。掛けてあげる言葉が。
沙良 うん、うん。
菊地 最終的にはね、オレ思ってんのは…あんまりそういう若い人たちが、いっぱいいいアルバムを出して何となく楽しく行ければいいんだけど、やっぱ「こっちは売れて、こっちは売れない。」とかいうのが見るのが耐えられなくなって、やめると思うんだけど、オレ(笑)。
角田 (笑)。
菊地 近未来予想としては(笑)。
沙良 ほーう。
菊地 うん。旅に出ると思うんだけど(笑)。
沙良角田 (笑)。
菊地 だから今は人生初めてのね…ワタシの通過儀礼にもなってるんですよ。
角田 うーん。
菊地 その…みんなどうなっていくんだろう?…全員を愛してるよ、ほんとに。レーベルでやってくれる人はね。うん、もちろん。
角田 うん、うん。
菊地 ただね、まあ…何て言うか、自分にガキができないという事もあって、不思議な気分だよね。「上の子がかわいい。」とかさ。
角田 うーん。
沙良 (笑)。
菊地 「下の子はできない子なんだけど、一番好き。」とかさ。
角田 うん。
菊地 「一番下の子がおかしくなっちゃって、困っちゃった。」とかさ。いろんな事が起こるわけでしょ?
角田 はい。
菊地 うん。ああいう事を経験すんだな…って思って、びっくりしてますよね。
沙良 へえ〜、なるほど。
菊地 うん。青羊さんなんてさ、全然売れなくていいと思ってるんだもん(笑)。
沙良 青羊さんが、ですか。
角田 あ、本人がってことですよね。
菊地 青羊さん、うん。青羊さん、出せればいいと思ってるから、出した段階で完全にビロンビロンに満足しちゃってるんだよね(笑)。
沙良 うん、うん。
角田 ビロンビロンに(笑)。
菊地 リリースの日に「もう死んでもいい。」ってメールがきて。「出せたから、いいです。」ってメールがきて。
角田 すごい。
菊地 「いやいや、出せたからってよくないですよ、青羊さん。がんばりましょうよ、これから。」ってメール送りましたよ。
沙良角田 (笑)。
菊地 そういう人もいるしね。
角田 うーん。
菊地 うん。で、実際そのぐらいの気分でやると、やっぱり〈けもの〉のアルバムはね、力が抜けてて楽しいんだよ。
沙良 うん。
菊地 「ああ〜、いい気持ち!」っていうさ、感じになんの。で、やっぱ〈ものんくる〉は厳しさとか苦しさとかが一緒に伝わってくるから。優秀さと同時に。
角田 うん、うん。
菊地 だけど、まあ…楽しいだけが音楽じゃないからね。こういう感じが好きって人も多いだろうしね。ほんとに…だからマーケットにも真を問いたいですしね。
沙良 うん。
菊地 いろんな人の…いろんな大人が、もう関わり始まっちゃってるもんね。
角田 うん、うん。
菊地 まあ、それを拒否していくやり方が、「自分たちだけでレーベルでやっていこう!」っつってね、それでも成功できる人たちいるしね。
沙良 うん。
角田 インディーズで…って事ですね。
菊地 インディーズでね、そうそうそう。今日は切ない曲はあんまりかけなかったけど、まあ…日本人の大好物である「胸がキュンとする曲」も山ほど入ってますからね。ライブぜひ来て欲しいですね。
沙良 是非!
菊地 ものんくる〉は行けたらドームとかやって欲しいですよ、ほんとに。
沙良 うーん。
菊地 あんだけハイになるんだから、ドームとかピッタリだよね。
沙良 ああ〜。
菊地 やっぱあのぐらいアゲていかないと、武道館とかドームとかさ。
沙良 行きたいですねえ。やっぱ。
菊地 行きたいよね。君らが行かないで誰が行くんだ!…って気がするよね。すごく。まあ…そういった…でも、あんまりね、周りの大人が過剰な期待を掛けてしまってもね。
沙良 うん?
菊地 まあ、楽しんでやってくださいって感じですよ、ほんとに。
角田 (笑)。
菊地 こんな能天気なプロデューサーじゃしょうがないよねえ。
角田 いや、そんなことないですよ。なんか今回ほんとに菊地さんの血を分けてもらった感じがして…。あ、真面目なこと言っていいですか?
菊地 うん。真面目なこと言ってくださいよ。真面目なこと…っていうか、でしょ。
沙良 (笑)。
角田 違う違う違う、なんですか(笑)。
菊地 真面目なことっていうか、正解例でしょ、それは(笑)。
角田 違う違う違う。なんでそんな否定的な(笑)。
菊地 否定的じゃないよ、全然(笑)。何て言うか…角田くんのね…今、真実を突いたというかね。違うんですか。
角田 ううん。そんなことじゃないです。
菊地 本音ですか。
角田 はい、本音です。もう、なんかね…菊地さんの血を分けていただいたんですよ、今回のアルバムは。
菊地 なるほど。
角田 これ、絶対どっかで言いたかったんで、今言うんですけど。
菊地 はい。
角田 今までの2作もプロデュースしてもらったんですけど。
沙良 うん。
菊地 はい。
角田 あんまり関わってもらえなかったっていうか、ほぼセルフプロデュース的な感じで。
沙良 うん。
菊地 いやいや…こっちの台詞でしょ。関わってもらえ…関わってもらわせなかったのはさ(笑)。
角田 そんなことないですよ(笑)。
菊地 オレ、入りたくてしょうがなかったのにさ。
角田 違うんですよ。
菊地 もの凄かったよ、二人のブロックが(笑)。
沙良 そんなことないですよぉ〜。
菊地 (笑)。
角田 でも、僕らも若かったから、どうやったら入ってもらえるのかわかんなかったのかもしれない。
菊地 「若かったから」って、今いくつよ!…だって(笑)。
角田 いやいやいや。
沙良 (笑)。
菊地 まだ若いでしょ、だって。
角田 でも、今回すごいいい形で入ってもらえたなっていうのが、自分的にもすごい嬉しかったし。
菊地 なるほど、なるほど。
角田 それで、なんかこう…血を分けてもらって…
菊地 今、ちょっと呼吸止まったでしょ。「嬉しかったし。」の感じ…
沙良 無呼吸。
角田 いや、「ちょっと上からになってないかな?」って思って、「危ない!」って思ったんですけど、そんなことないですか。
菊地 いやいや、全然大丈夫だよ(笑)。
角田 そうそうそう。ありがとうございました。
沙良 ありがとうございました。
菊地 そーお?…そうなんですか。あの…それはね、感じてました、ワタシも。
角田 ほんとですか。
菊地 ええ。前2作の時はブロックが凄くてねえ。
角田 うーん。
菊地 なんでこんなにブロックされるんだろう。
角田 そんなつもりじゃなかったんですけどね。
沙良 そんな…つもりなかったんだけどなあ。
菊地 なんでオレの曲をライブであんまり演ってくれない…(笑)。
角田 (笑)。
沙良 やってましてよぉ。「やってましてよ」だって(笑)。演ってましたよ。
角田 演ってるライブに菊地さんが来てなかっただけなんじゃないですか、ほんとに。
沙良 そうですよ〜。
菊地 違うんだよ(笑)。「オレ、SNSやってない。」っての嘘だからね(笑)。
角田 ほんとですか(笑)。
菊地 もう全部調べてますよ。「菊地の曲は演らないな。」みたいな声は。
角田 そんなん誰も言ってないですよ(笑)。
沙良 言ってない(笑)。
菊地 言ってないね。関係者から聞いただけだからね(笑)。
角田 いやいや(笑)。誰も言わないと思うんだけどな、そんなこと。
菊地 いやいやいや…ま、ま、今回ね…ほんとに…少なくとも「Driving Out Of Town」は演ってください。
沙良 やります、やります(笑)。
菊地 演ってますけどね。ま、それはともかく…そうですね、頑張っていただきたいですよね。まあ、まあ…一番…何つーの、親子の喩えは本当にベタベタだから気持ち悪いですけど。一番…親目線で言っちゃうと、まあまあ…自分よりずっと出世して、キックバックして、もう「金貸してくれよ!」っていう(笑)。
沙良角田 (笑)。
菊地 「ちょっと今月困ってるから、うちの会社ヤバいから金貸してくれよ。」っていうさぁ(笑)…そこまで行ってほしい。
沙良 そういう親に?
角田 (笑)。
菊地 そういう子供に育って欲しいよ、ほんとに。うん。青羊は絶対に儲けないからね(笑)。
角田 (笑)。
菊地 楽しく生きていくだけだから。

めたもるシティ

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