「独立国家のつくりかた」

独立国家のつくりかた (講談社現代新書)

独立国家のつくりかた (講談社現代新書)

例によって水道橋博士のツイートでその存在を知って、なんとなく「次は坂口恭平がマイブームになりそうだ」と予感していた。
そして先日放送されたTOKYO MXテレビの「ゴールデンアワー」に坂口氏がゲスト出演する回を録画して観て、「ああ、やっぱり面白い発想の人だ!」と俄然興味を惹かれることになった。
坂口氏本人のTwitterもフォローし、最近の活動の様子なども追いかけはじめているが、その中に『…このようにずっとツイッターで原稿を書いてきて、ツイログで全て無料で読めるのにもかかわらず講談社現代新書で出した独立国家のつくりかたは、発売一ヶ月経って三刷五万部。。これはなんだか面白い動きに思える。どんどん自分の考え方は無料で出したほうがいいのだな。』…とあったように、Twitterを執筆用のソフトとして利用して書き続けてまとまったのが本書「独立国家のつくりかた」。
坂口氏には「建てない建築家」、写真家、ドローイング・アーティスト、現代アートパフォーマーなどいろんな側面があるが、まずは一番驚いたし興味を惹かれたのが「新政府樹立、その初代総理大臣に就任」というとこなので、まずこの本から読むのがよいだろうとAmazonで購入。
新政府樹立までに至るこれまでの流れもおさらいされていて、彼の考えも要所要所で的確な言葉で説明されており、坂口氏の活動が真剣に取り組まれていることがわかる。もちろん大いなるユーモアを携えて、関わる人が楽しくなるようにというサービス精神も発揮されているので、堅苦しく押し付けがましい主張や態度表明にはなっていない。この新政府活動そのものが、ヨーロッパでは現代アートパフォーマンスとして捉えられているというのも頷ける。
子どもの妄想のようなことを自ら即実践していくその行動力が素晴らしいし、それが何よりの彼の魅力だと思うが、本書の中でいくつか提案されている概念は、新しい発想・着眼点として、もっと高く評価されていいと思う。
「レイヤーライフ」、「プライベート・パブリック」や「態度経済」といった用語の作り方もセンスあるし、それをわかりやすく説明する文章力も確かだ。これらの考え方は日本に生きる我々に後々大きく影響を及ぼしてくるような気がする。
路上生活者が建てた住居に着目した、ユニークなフィールドワーカーなだけだった坂口氏が、大震災が起こってしまったことで、幸か不幸かその存在感はどんどん大きくなり(なんといっても一国の主!)、周囲からも重宝されるようになってきた。これはやはり時代が彼を求めていたと言っても過言ではないと思う。
現代社会のあらゆる歪み、資本主義経済の行き詰まり、逃げ場のない日本社会の閉塞感など、誰もが世の中おかしいと感じ、発想の転換による新しい生き方の提唱を求めている中で、まさにそこに巨大な一石を投じる勇気ある若者が現れたと思う。
坂口氏の言うことをすべて真に受けて付いて行くつもりはないが、彼のような存在に影響を受けることで、自分の考え方もより自由になっていけるような気がする。それを希望と呼ぶのは大げさすぎるだろうか。