「ペペ・トルメント・アスカラール@東京グローブ座」


1年以上ぶりとなる「菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール」の東京グローブ座での公演は、チケット発売後即完売だったようです。自分はぴあの先行抽選で当選して運良く二列目をゲットできました。
「粋な夜電波」放送開始以降のにわか菊地ファンとしては、ペペ・トルメント・アスカラールを初めて生で聴けることになったので、事前からかなり期待していました。普段聞いているような音楽とはジャンルも全く違うし、そもそもこのオルケスタ自体が唯一無二のユニークなものですから、どんな感じのライブになるのか始まるまでピンときていないところもありました。それでも最近、iPodで朝のティーブレイクの時によく聞くようになって、優雅でロマンティックな調べに癒されたり、複雑なリズムが生み出すグルーヴに高揚させられたりしていて、その音楽は非常に気に入っています。
東京グローブ座という会場も初めて来ましたし、そもそも新大久保駅で降りるということもほとんどないので、いろいろ新鮮でした。古いオペラハウスのような雰囲気があるグローブ座は、3階席まで満員で、開演直前に到着したので周りを見渡す余裕もあまりなかったのですが、意外にステージが広過ぎず、大所帯のオルケスタなのに密集して演奏するんだなと思いました。
ドレスアップして颯爽と登場した菊地先生はじめメンバーの方々。ひとりワイルドな大儀見さんが目立つけど、またそれがカッコいい。

ゆっくり探るように各楽器が呼吸を合わせてゆく即興から始まって、最初は観客の方にも緊張感があって、どう反応していいのか戸惑っているようでもありましたが、演奏が熱を帯びてくるにつれて、会場の空気もヒートアップ。
アルトとテナーを自由に吹き分ける菊地先生のサックスの演奏が素晴らしいのはもちろん、ハープとバンドネオンという特殊な楽器が入った編成なのに、見事に調和のとれた演奏は、すごくオリジナルで、音を聞き分けられない自分でも、知的好奇心を刺激されて、それはそれでまた違った楽しみ方もできる希有な楽団ですね。
弦楽でリズミックなフレーズを弾く時の迫力がすごくて、これは生で観るまではわからなかった体感でした。静から動へのダイナミズムもその幅が大きくて、それがまた高さのある会場の空間に広がっていく時の高揚感といったら…。電気的に増幅されたロックバンドの音圧とは異なるパワーがありました。それを前から二列目(…ただ端の方だったのでスピーカーの目の前(笑))の、パーカッションの生音の響きもダイレクトに伝わる距離で聴けたのは、ほんとに貴重な体験でした。
ゲストに迎えられたソプラノ歌手・林正子さんの歌声の迫力にも驚きました。声の響きだけであんなに圧倒されたのは初めて。
そして今回ハイライトの「嵐が丘」…なんといってもルパン効果がありますから、そのイントロが鳴り出した瞬間、「待ってました!」な客席の感じもありましたが、それがなんと林さんが舞台から去った後に演奏開始。サックスを置いてマイクの前に立つ菊地先生…。まさかの「嵐が丘」のスキャット、本人歌唱。
「ごっつ」のコントだったら「おまえが歌うんかい!」と突っ込まれそうなところですが…、これがまたカッコ良過ぎます。
菊地先生の歌というと、甘いウィスパー・ヴォイス的なものしか聴いたことがなかったので、あの複雑なメロディをビシッと、しかもパワフルな声量でガツンとかまされたのには参りました。…前半で早くもノックアウトです。
そこからダイナミックな曲を畳み掛けるように演奏し、複雑なリズムに最初はどう乗っていいのかわかりませんでしたが、次第にもうどうでもよいというか、とにかくスゲェ!みたいなハイな状態に連れて行かれました。
すごいな、ペペ…生で観るべきだわこれ…。最後に空中に向けて噴きかけたパフュームの香りが届く距離にもいて、終わった時は放心状態です。
アンコールでは菊地先生のMCに会場も爆笑し、ほっこりしたところで、前日風邪をひいて高熱が出たという先生が、薬の影響でハスキー・ヴォイスになったのでその効果もお楽しみくださいということで、「クレイジー・ヒー・コールズ・ミー」を甘く歌い上げて、また会場がうっとりするという…なんとも豪華なコンサートでした。
意外にも次の公演が早々に決まり、また9月にはすみだトリフォニーホールで演奏を聴かせてくれるとのこと。来場者限定先行予約を早速申し込みましたが、当選するといいなあ。

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