「おおかみこどもの雨と雪」


アニメより実写映画の方が優れてるとか、そんなことは全然思っていないけど、スクリーンで観なくても、後でDVDでいいかなと思ってしまう。その程度の自分ですら、現在公開中の「おおかみこどもの雨と雪」はかなり期待して観に行った。
細田守監督作品は「サマーウォーズ」と「時をかける少女」はDVDで観た。両方ともすごく面白かったし、そのクオリティの高さに驚いた。
今回は「シネマハスラー」の賽の目映画に当たったので、今週のうちに観ておこうと、仕事帰りにTOHOシネマズのレイトショーに。
冒頭の風に揺れる花のアップが、とてもアニメとは思えないほどで驚いた。キャラクターは今回も貞本氏のデザインでシンプルな描かれ方をいているのに、さりげない動きのひとつひとつがリアルに表現されていて、実在感がある。
のちに〈雨〉と〈雪〉、ふたりの母となる〈花〉と〈彼〉の出会いのエピソード部分の、日常描写がいちいちせつなくて、ここだけでもじんわり心が温かくなる。
ストーリーの内容を全く知らないまま観始めたので、〈彼〉が実は〈おおかみおとこ〉で…ということが早々に明かされた時は、この設定に入り込めるかどうか少し不安にもなった。
どうも自分は想像力が貧困なのか、ファンタジー系の話に抵抗があって、だからアニメ作品に対して苦手意識を持ってしまっているところもある。
アニメに限らず実写映画でも、宇宙や未来を舞台にしたり、魔法や特殊能力がデフォルトで設定に入っているところからスタートすると、なかなか感情移入できなかったりする。自分の日常とかけ離れていないところにリアリティ・ポイントを置いているわけだ。
しかし細田守監督作品に共通して言えることだと思うが、「サマーウォーズ」も「時をかける少女」も、なにげない日常を丁寧に描いたシーンをバランスよく挿み込むことによって、アニメならではの超現実的なシーンになった時の動きが、よりダイナミックに、よりスピーディに感じられて、効果が倍増する。
今回の「おおかみこどもの雨と雪」も、山奥の古民家での素朴な生活の場面と、大自然に飛び込んでいく、おおかみの子として野生に目覚めた〈雨〉と〈雪〉が躍動する場面との対比が見事。自然の描写にすごく力が注がれていて、深い森や雄大な山の大きなスケール感に圧倒もされた。これはやはりスクリーンで観て良かったと思った。
ストーリーの展開についてはネタバレになるので触れないが、いろんな要素が寓話的に盛り込まれていると同時に、誰もが共感する「成長」の物語になっていて、素晴らしいと思った。
特に女性には強く心に迫るものがあるのだろう。エンドロールで流れる主題歌、アン・サリーの「おかあさんの唄」を聞きながら、涙を止められない人が大勢いたのも頷ける。
個人的には…号泣!とまではいかず、それぞれのキャラクターに少しずつ感情移入して、ちょっと分散してしまったせいか、素晴らしい作品だとは思いつつも、やや冷静な反応。
それはなぜかというと、この作品に対して望むことではないのかもしれないが、基本的にみんないい人で、ものわかりが良過ぎるので、葛藤が弱い気がしたからだと思う。
例えば主人公の〈花〉は、大変な苦労しておおかみの子どもを育てるのに、不平不満も言わずじっと耐える。…そこがいじらしくも切ないところではあるが、不幸のどん底にある時にもう少し容赦のない描写があれば、より感情移入できたはず。
あんなに愛情込めて育ててきた子が、ある大きな決断をする時、意外とあっさり受け入れているように見えたのは、自分の汲み取りが足りないのかな?
泣き喚き、すがり付き、逆ギレし、ついには目の前の森に火を放つ…。もしそこまで追い詰められていたら、きっと自分は号泣していただろう。
…やっぱ韓国映画の激情に当てられ過ぎちゃってるからなのだろうか(笑)。

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