「ミスター・ドーナツの拾得話芸」

第88回、末広がりの「粋な夜電波」はフリースタイル。
入手困難なブラジル音楽や、生徒の卒業制作音源や、放送禁止ギリギリの(?)オノ・ヨーコの刺激的なナンバーまでプレイした、まさに菊地成孔先生にしか出来ない、孤高のフリースタイル。
予告だけされて年をまたいでいた、ミスタードーナッツで獲れたWBO話の大物とは?…それについて語られた部分を文字起こししてみました。
文字では伝わりにくい話だとは思いながらも、このタイトルが付けたくてがんばって文字起こししました。
「ミスター・ドーナツのシュトックハウゼン」ならぬ「拾得話芸」の部分です。

Rising

Rising

…あとはねえ…これはミスタードーナッツなんですけど。これもねえ…大物だと思ったんですけど、いろいろ…正月も経てですね、タミフル経験も経まして、異常行動もひと通り済ませた後で思い出すと、さほどの…中物ぐらいかな?って話なんですけど。
ただ、初めて行ったんで。
新宿ご存知の方だったらね、わかると思うんですけども、区役所通りの入り口にミスタードーナッツがあります。で、まあ…ワタシ、あそこは行ったことないんですね。…たまには河岸変えようと思ってミスタードーナッツに行ってみたんですよ。
その…ちょっといやらしい…なんか番組のネタが釣れるかな?みたいな感じで行って。で、さほど釣れなかったんで(笑)、もう帰ろうと思ってたんですよね。
そしたら、後ろのテーブルに3人の男の子…高校生ですよね、きっとね。高校三年なのかな?…受験勉強っつってたから、二年か三年だと思うんですけど。
あの…姿かたちはね、なんていうのかな…、まあ、そのまま通りを真っ直ぐ行けば、ミスタードーナッツは入り口ですけど、通りを真っ直ぐ行くならば、そして風林会館のところ左に曲がるならば、クラブ愛ですから、「大人になったらそっちに就職するの?」って感じの3人組だったの。
そいであの…いろいろね、CO2とか…最新受験勉強(笑)…、ま、勉強しに来てんですよ。で、もうまったく集中力ないの。全然。まったく勉強できなさそうな三人なんですよ。あの…素敵なんですけどね、ものすごい素敵…かわいいんですけども。
「…で、だからさ、この『米(コメ)戦争』…」「米騒動だよ!」とか言ってるんですよ(笑)。「コメ戦争ねえよ!」とかいうレベルの奴らで、そいつらが全員ドラムなんですよね。全員、ドラム…なんですよ。
で、一人がビジュアル系のバンドやってんですよ。新宿はねえ…ビジュアル系バンドの聖地でもあるんですよね。ワタシそっち全然…ワタシのバンドのDCPRGのギターの大村君って子が、ちょっとそっちに関係あるぐらいで、まったく人脈ないんで。接触ないんですけど。いっぱいいます。新宿はビジュアル系バンドの人が。
で、彼らもそういうのと関係あるのかないのかわかりませんけど、一人の子が「シド」とかね、「UVERworld」とか言って…。あと他にも何個か名前言ってたんですけど、ワタシあの…ほんとすいません、ビジュアル系バンドの名前が全然諳んじられないので。この二つだけは、なんとなく知ってるって感じなんですけど、あとババババッていくつか名前言って、ビジュアル系のバンドをやってんだ、と。で、学園祭の発表があって、三年は軽音じゃなくても出れるんだけど、二年は軽音じゃないと出れないんで、軽音に入るか迷ってる…みたいな話をしてたんですね。で、なんかのバンドのコピーをやってるらしいんですよ。そのビジュアル系バンドの。
で、その子はビジュアル系。もうひとりの子はR&B、ソウルみたいなのやってて、もうひとりの子が…この話のちょっとしたオチになるんですけど、まあ…3人ともドラムなんですよね。
で、こう…お互い畑は違うけど、ドラマーを目指してる者同士で、受験勉強なんかしようと思ったって、勉強の話になんかなるわけないじゃないですか。ほいで、「なんか今日先輩が教えてくれたんだけど、今日習ったんだけど、ツースリー!」とか言って、「カンカン、カンッカンッカン!」とか言って(笑)。「…ツースリー習ったんだよ。」「え?…ツースリー?何それ、どういうの?」「カンカン、カンッカンッカン!…これがキューバとかで…これドラムのリムでやる…」とかなんか言って、先輩から習った話とかして、すごい楽しそうなんですよね。
で、3人いる中でも、ひとり最初からもう全然勉強する気まったく無しってのがいて、もうね…「8ビート、16ビート、4ビート、2ビートってのもあんだよ!」って凄い勢いで、興奮して全然笑わないんですよ。シリアスなヤツ…まったく笑わないっていう。「…ツービートってのがあんだよ。ツービートは無いと思ってた、オレは!」…(笑)。…どういうことなんだ?と思いますけど。「オレはツービートは無いと思ってたんだよね。でも、あるんだって!」っつって「へえ〜。」…あとの二人はさっき「バカ、米騒動だよ!…米戦争ねえよ」とか言ってた、結構トッポいヤツだったんで、ちょっと半笑いだったんですけど。そいつは真剣なんですよね。
で、「ツービートは無いと思ってたんだ。あるんだよ!…でも、ジャズからきてるんだって。」っていうのね。「すっげーよな〜、ジャズって。ツービートがあんだから。」「へえ〜。」とか言ってるんですよ(笑)。
…獲れてきたかな?と思って、帰ろうと思ってたんすけど、腰浮いてたんすけど、また腰沈めて、ひょっとしたらこれ獲れたかもしれないと思って。
そしたらね、女子がね、上から降りて来たんですよ、二人。多分ね、バイトをやっていて、友達なんでしょうね。ほいで、ビジュアル系やってるチャラい方のヤツが「何時までやってんの〜?」とか言って。そしたら女の子の方が「え?徹夜〜。」って。「ガチで〜?」「嘘、ここ24(トゥエンティフォー)じゃねえじゃん。」「終電で帰るよ〜。じゃーね〜。」とか、テキトーな話してんですよね。もう超適当なわけ。
なんだけど、ひとりその「ツービートはこの世にないと思ってたんだけどある」ことを発見して、ワナワナしてるヤツの体温が、もう上がってるんですよね。
で、もう帰りたいわけ、3人は。もう勉強の話もたまにするんですけど、もう薄まってきちゃって、なんだか…数学の二次方程式だなんだか言ってるんですけど、もう薄まってきちゃって。とうとう勉強ゼロになっちゃったのね。完全に勉強ゼロモードになっちゃって。
そしたらその一番シリアスな奴が、iTunesを聞かせ始めたりしたんですよ。自分のやつを人にこう…聞かせますよね、よくね。
そしたら…「え?…ひょっとしてそれ、『家族で同じiTunes』系?」って言われて、「ちっげーよ!」ってキレて。「アニキのを使ってるけどさ。」「え?親父のじゃないの?」っつって。
…これ最初意味分かんなかったんですけど、ま、後で分かるんですけど。どんどんその…親父いじりがエスカレートして、そいつがキレるっていう展開がちょっと続いてたんですよね。
で、「ほら。これ聞いて。これロックにはないでしょ。」とか言って。「ロックにないよ、このリズム。ほらほら。」「ほら、ここ。バウンスしてる。」とか言って。…今、スイングのことを「バウンスしてる」とか言うんですね。
で、「やっべー、やっべー。」とか言い出して。「やっべー、やっべー。」とか言って、自分のイヤホンを友達に挿したまま、やべーやべー言い出して。「オレ、すっげーこと分かっちゃった。すっげー、発見しちゃったよ。やっべー、分かっちゃった〜。」とか言って。「え?何何何?」っつって。「やっべー……すべての始まりはジャズだわ!って言ったんですね、そいつが(笑)。
…ヤバイな〜と思って(笑)。獲れた!と思ってね。…釣り上げた!と思ったのね。
「はあ〜、発見したんだ〜。」っつって、一人がね。「うん、発見だよ!発見した!」っつって。
「え?でもさ…」そのビジュアル系の奴が…いやいや、R&Bのほうの奴が、ちょっと半笑いで…「おまえの親父がやってるの、なんだっけ?」っつったら。
「っだ、だ、だ、ジャズだよ!」っつって(笑)。「…ジャズドラムだよ!」
ええ!?…っと思って。
そしたらビジュアル系の奴が「え?ジャズって売れてんの?」っつって。「売れてねーよ。売れてねーから、オレの親父、知らねえ奴がいるんじゃん!」って…そいつがキレてんですよね。
親父のこと尊敬してるんですよ。で、まあ…名前まで聞き出せたら、これは大物だったんですけど、残念ながら名前が聞き出せなかったんで、ネタとして中物で終わってしまったんですけどね。
…やべっ…知ってる人の御子息だったらどうしよう…って思ってドキドキして、あの方この方…と思ったんですけど、名前が出なかったんですけどね。
「だから、おまえの親父、ジャズ界ではどうなの?」とか言ったら、「いや、トップだよ!…すげえトップ!っつって(笑)。
さっきね、すべての始まりはジャズだって分かるわ、自分の親父はジャズ界のトップ・ドラマーだわで、もうえらい興奮してるんですよ。…それで、トップなんだけど(笑)、「知らねえじゃん、おまえの親父の名前、誰も。」って言われて。
「いや、そうだよ!…知らねえよ。」とか言って。「だよね。日本で売れるのアイドルだもんね。」っつって。「…でも、おまえの親父、結構有名なんでしょ?」って混ぜっ返されたりして(笑)。「…うん、だからジャズではねっ!」「だから知らねえんだよな。」「知らねえんだよな。」とか言って、めちゃめちゃにいじられて。
ま、結局、そいつはキレながら、残りの二人に頭ボンボン叩かれながら帰って。…まあ、そうですね…もし、お父様の名前が分かった場合にはですね、ワタシは緊急出動するつもりでですね…(笑)。R&Bとビジュアル系に、ポン・デ・なんとか…みたいなのを喰らわしてやろうかとね、いつでも臨戦態勢にいたんですけども。お父様の名前が分からなかったので、まあ…行けませんでしたということで。