「ブリジット・バルドー、ヌード撮り足し事件。」

「粋な夜電波」第92回放送も思いつくままフリースタイル。
今週も当然のようにオノ・ヨーコを大プッシュし、TVやデパートの話題を取り上げたと思ったら、地元の銚子を愛のある毒舌でこき下ろし、先日のブルックリン・パーラーでのDJで評判が良かったものの番組用Mixをさくっと作ってロングプレイ。…相変わらず自由過ぎる菊地先生です。
番組最後の「ブリジット・バルドー、ヌード撮り足し事件」について語られた部分を文字起こししてみました。

え〜…そうですね…さっきのロングプレイがあったんでね、もう、あと…さらっと1曲って感じですけど、どうですか?
…じゃあ、今日のお別れに1曲。
これも軽いうんちくですけどね、映画ファンの方にはおなじみですけど…ジャン=リュック・ゴダールゴダールがですね、ま、まだ存命中ですけども、生涯で最も予算が多かった、大バジェットの映画は「軽蔑」って映画です。これはもう…なにせ主演がブリジット・バルドー。製作があのカルロ・ポンティですね。もう、大プロデューサーです、イタリアのね。ソフィア・ローレンの旦那ですよ。この大プロデューサーに大量のお金をドン!と渡されたゴダールは、「軽蔑」って映画を撮るんですけども。
まあ、とにかく…金は出すけど口は出すってのがプロデューサーですから、あの天下のゴダールにですね、出来上がったフィルム観てから、「ブリジット・バルドーの裸が少ない!」ってんで、撮り足せ!って言ったブリジット・バルドー、ヌード撮り足し事件」ってのは、まあ…映画ファンの間では有名なんですよね。
そのシーンは映画の冒頭で、もうほんとに…忸怩たる思いで、プロデューサーに裸撮り足せって言われて…山本晋也監督じゃないですからね、ジャン=リュック・ゴダール監督ですからね。扮装したら似てるかもしれませんけど(笑)。よく飲んだな、と思うんですけど、やっぱ天才ですよね。ほんとに苦渋を舐めながら撮り足したそのシーンが、いまや名シーンっていうか、一番エロい、「ブリジット・バルドーがエロいよね。」っていう中でも、「『軽蔑』の一番最初のベッドトークが一番エロいよ!」って。それはゴダールが撮り足されて、嫌々撮ったシーンなんですけど。
…でまあ、そんなこともあって、ちょっとこの時、ゴダールが軽くイラッとしてた、ってのがワタシの見立てなんですよね。それが何より証拠には、音楽がですね…これはまあ、ここも映画マニア目線になりますが、ゴダールの最初は親友、仲間、それからだんだんライバルになっていって、最後は仇敵になってシカトになっちゃった、フランソワ・トリュフォーっていう、好一対ですよね…メロドラマの監督がいて、この人の名パートナーですよ、ジョルジュ・ドルリューっていう音楽監督が、なぜかゴダールとこの映画でだけ組んでるんですよ。
ゴダール妄想で言えば、もう嫌がらせですよ…嫌がらせ、ドルリューに対する。いっぱい書かせたと思うんですよ、予算は多かったんで。映画のトラック数ってのはバジェットと比例しますから。なのに、1トラックしか使ってないの(笑)。この手は、ゴダールが1本前に、ミシェル・ルグラン相手にやったことなんですよ。山ほど書かせて8小節しか使わないっていう、映画で。
で、それがね、コミカルなシーンでも、どんなシーンでも出てくるんですよ。笑えるシーンでも…あ、音楽自体は有名な曲…今日はかけませんけど、こっちは有名っていうか正規版ですよね…正規版の「軽蔑」の音楽はジョルジュ・ドルリューのストリングスで、もう重くてすごい深刻なサウンドなのね。これがね、最初だけはすげえバッチリ合うんですけど、なにせそれしか出て来ないんで(笑)。映画の途中で、痴話喧嘩になってもそれがジャジャジャーンって流れて、ちょっと間抜けなシーンにもジャジャジャーン〜って流れて、また途切れてまたジャジャジャーン〜だから、ちょっとふざけてるみたいな感じになってるんですよ。
で、ちょっとねえ…「さすが天才監督、面白いことするね!」…カット&ペーストだとか、言えば言えるんですけど、まあなんていうか…軽いインテリの嫌がらせみたいなところもあるんですよ。…ね?…それが成功してるのがゴダールの凄いところなんですけど。
さて、そこで、怒ったのは…「何でこんなことするんだ!」っつって怒ったのは、ブリジット・バルドーでもありませんし、音楽のジョルジュ・ドルリューでもないんですよね。一番怒ったのはカルロ・ポンティだったんですよ。
で、あろうことにカルロ・ポンティは、そのことにキレたんで、なんかまるでふざけてるみたいに同じ深刻な曲が何回も何回も流れるってことにキレてですね、先行したイタリア公開版にだけ、勝手に自分で音楽をつけてしまってるんですよね。…これもすごいことで(笑)、現存するあらゆるソフトは正規版のフランス版ですから、イタリア版は観れないんですけど、イタリアの先行公開版は、ピエロ・ピッチオーニっていう…まあ、言ってみればねえ…二流ですよね、2.5流くらいの人にバイトでさっと書かせたの。ものすごい早さで。なにせほら…エキストラみたいな感じですから。「ちょっと音楽付けといて!」っていう感じで…付けたんですよ。
これがね(笑)…全然元々の「軽蔑」とは似ても似つかぬね、楽しい…お洒落なイタリアン・シネ・ジャズになってるんですよ。
まあ、ゴダールはこの事に関しては、ひと言も生涯インタビューで…まだ存命中ですけど…言ってないですよね。ワタシがもしインタビュー出来たら、まず真っ先にこの事訊きますけどね。相当嫌だと思ってると思いますけど。
このね、音だけが今、買えるんですね。で、音だけ買える、で、DVDだけ買えますから、音しぼってこれのせてみたら、「軽蔑」を長年好きで観てた人は、腹抱えて笑う…苦笑ですけどね。ま、「軽蔑」観た事ない人も「何、これ?」って思うと思うんですけど(笑)。
しかもそのピエロ・ピッチオーニ、後にですね…もう、こんなもん短期…だって世界公開になった時にはその音楽外されてる…イタリア国内でだけがその音楽なわけですから、「こんなもん、どうせ誰も知らねえや!」とばかりに、違う映画ね…「華麗なる殺人」っていう映画で、それ二次使用してるんですよ。ま、自分で二次使用するってのも、だいぶトホホな話なんですけど。ま、そういう因果のある曲です。
ピエロ・ピッチオーニによる、映画「軽蔑」のイタリア版のテーマ曲を聞いて、お別れしたいと思います。
曲自体はね、今言ったように、お洒落でちょっと間抜けな感じの曲ですね。…はい、ま、注目していただきたいのはですね、パッと聞けば分かると思うんですけど、オルガン弾いてるのがピエロ・ピッチオーニなんですけど、え〜…やけくそで弾いてます(笑)。
「ジョリュジュ・ドルリューのトラかよ!」っていう感じでですね、「しかもゴダールの映画なのに!」っていうことでですね、ほとんど怒ってるデモテープ…時間もないし、やけくそなデモテープみたいな演奏になってますんで、そこの「フテ具合」ですね。…全員フテていた…しかし傑作だったんだってことですよね、この映画はね。

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