「音楽シェフの粋な提案。」

「粋な夜電波」178回はスペシャルウィーク
音楽シェフソムリエとして、食べ物にまつわるエピソードと、それにマッチする最高の音楽を提供された1時間。
選曲のセンスが最高なのは言うまでもなく、そっとメッセージを含ませつつも、それぞれのエピソードを丁寧に紹介するマナーにも痺れました。
「1978年のフレンチトースト」に思いを馳せながら1曲紹介された部分を文字起こししてみました。

僕の妻のすべて [DVD]

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はい、東京は港区赤坂、かの力道山刺されたる街よりお送りしております、「菊地成孔の粋な夜電波」。
え〜、六本木…六本木じゃねえや(笑)…赤坂「ニューラテンクォーター」公式認定番組として、シーズン8、178回目ですね、今日ね。スペシャルウィークでございます。
「音楽シェフ菊地が提案!『この料理にはこの音楽がマッチする!』」と題しまして、私が音楽シェフソムリエとして、最高の夜食とそれに合う最高の音楽をご紹介します…という趣向でございまして。
まあ、なんてことはない…「フリースタイルの話題がメシに限られる」というだけの放送ですけどもね(笑)。特に何の力も入れてないわけですが。
とはいえですね、スゴイです、メールの集まり方が。
やっぱり食べ物の話は、ワタシのような食い意地の張った…ね、バカだけではなく、皆様もお好きなのだなあ…という気持ちから、非常に…何て言うんですかね、朗らかな感じで(笑)…番組が始まっていますけども。
えーとですね…先週の影響ですかね、大変な数のメールを頂きしめておりますけれども(笑)。
あの…すべて一通一通残らず読みしめさせていただきました。番組だけではなくですね、私個人のホームページのファンメールボックス…要するに直接ですね、ファンメールボックスの方にまで同様の内容のメールを多数頂戴しめまして。ま、嬉しいやら…嬉しい悲鳴っていうんですか?…を上げしめているわけですけれども(笑)。
ま、簡単に振り返ると、「COCO'S」に生まれて初めて行ったんだ、と。COCO'Sのハンバーグやサーロインステーキ、つまりグリル板にのせてジュージューいって食卓にのせられる料理に、ペレットっていく黒い鉄の塊(笑)…これはまあ…焼けてるわけですよね、焼き石みたいなやつなんですけど、それに自分が切ったハンバーグやステーキの肉片をのせるとジューッ!といわせるんだ、と。
そうすっと、まあ…そこだけ焼き目が付いて、肉料理としては美味しいじゃないですか。そのサービスはいいんですけど、その行為をしてですね、「焼きしめて召し上がりください。」と、メニューに書いてあり、あまつさえですね、店員さんも料理を置いていく際にですね、「こちらペレット熱くなっておりますが、ハンバーグ…しっかり焼きしめてお召し上がりください。」と言って帰って行った…という、話題ですね。
ただですね、まあ…これはせっかく頂いたお声にですね、反論あるいはディスりなどする気は毛頭ございませんが、どうしても世の中、野暮天ってことはあるわけで、一番多かったのが「『焼きしめる』という言葉はあります。それは陶器、陶磁器などの『焼き締め』、あるいはこれは日本刀などの刀造りの最終的な段階で『焼き締め』という行程を踏むので、『焼きしめる』という言葉はありますよ。」という、これは親切心ですよね?…によってきてるんですけど、そういう話じゃないんで(笑)。
陶器じゃないでしょ!(笑)…そもそも。日本刀でもないでしょ。
ハンバーグでアナタお茶飲みますか?(笑)…ハンバーグで肉切ったら、挽肉が肉切ることになるわけじゃないですか。なんか中国の故事みたいなことになっちゃいますよね。
そんなことはわかってんですよ。陶器や…要するに非常に固い物に焼きを入れることを「焼き締める」と言う事自体は分かった上でですね、「なぜ肉を焼きしめるのだろうか?」という話をしてるわけなので。
本当に大量の「『焼きしめる』という言葉はあります。」というのを頂きましたけれども、まあ…番組を聞きながらね、ササッと検索されて見つけたのでしょうけれども、そういうことではないのです!…ということですね(笑)。
本道に戻りましょう。
これなんか素敵なメールですよ。
(メールを読んで)
素晴らしいですね、この書き方。もうね、村上春樹さんもかくや!…というね。「食べ物エピソードを募集中ということで、フレンチトーストについて書きます。」
(中略)
…これは素敵な話ですね。78年当時の日本ということを考え合わせるにですね、ちょっとしたシャレた掌編って言ってもいいぐらい、いい話だと思いますけどね。
フレンチトーストをね、お父さん…食べたかったんでしょうね。
このエピソードに…ま、相当悩みました、いいエピソードですから。まあ…今回お読みさせていただくのは、すべていいエピソードですけども。
今を去ること2年前、2012年の韓国映画で…2012年というのはマーヴェルの「アヴェンジャーズ」が公開された年です。世界各国で「アヴェンジャーズ」1位になりました。この年の韓国の1位は「アヴェンジャーズ」ではなく、「アヴェンジャーズ」は2位に甘んじたんですね。この年、韓国で1位になった映画は、「僕の妻のすべて」というラブコメディです。ほんっとに素晴らしいラブコメディですね。
韓国映画の中でも、アメリカナイズされた…もうほんとに何て言ったらいいのかな…例えば日本で三谷幸喜さんがね、ビリー・ワイルダーが好きでアメリカ調のコメディをやる…トライなさる、というようなこともありますけども、あんなもの…(笑)、「あんなもの」って言っちゃいけませんね、しまった〜!(笑)…ああしたもののですね、何兆倍ぐらいいいですよ。これ是非観ていただきたい。
この映画はとにかく素晴らしいラブコメなんですが、真ん中でラブコメに絶対欠かせない挿入歌…主人公の奥様がラジオのスイッチを入れると、この曲が流れてくる、それに合わせてちょっと奥さん踊るんですよね。で、まあ…離婚の危機を迎えてる二人なんですけれども、その曲がいいんで、旦那さんもちょっと踊っちゃうっていう…ほんとね、涙が止まんないシーンがあります。
そのシーンで流れる曲を、このエピソードに当てたいと思います。
78年に日本人がフレンチトーストを作っていたというとこのインスピレーションからきてますね。映画は12年、一昨年の映画ですけども。
なんとですね、フレンチポップを韓国人がカバーしています。フランス語で。
曲名は「Embrassez-moi」。「Embrassez-moi」というのは、もう何て言うかひとつの…意訳すれば「私にキスして。」っていう、ほんとにシンプルな言葉ですが、非常に90年代的な音楽です。フレンチロリータを韓国人がそのままフランス語で歌うということですね。
パク・ソンヒで、「僕の妻のすべて」オリジナルサウンドトラックより、「Embrassez-moi」。
(曲)

はい、2年前に大ヒットした韓国のホームドラマの音楽を使って、36年前の日本のフレンチトーストに思いを馳せてみました。
パク・ソンヒで「Embrassez-moi」。


Mafia Douce

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※文字起こしの「NAVERまとめ」あります。