「シュガーマン 奇跡に愛された男」


愛、アムール」を観たその足で有楽町駅の反対側に回り、ビックカメラの上にある角川シネマで「シュガーマン 奇跡に愛された男」を。立て続けに。
なんとこちらも水曜サービスデー。
都内ではここでしかやってないし、今週の「シネマハスラー」の賽の目映画にも決まったし、サービスデーだし…で、チケット売り場は長蛇の列。なんとか買えたがスクリーンを見上げる、前方のちょっとツライ席。上映時間ギリギリに入場。
こちらも町山さんの「たまむすび」での紹介を聞いて興味を持っていたが、音楽ドキュメンタリーというには、あまりにアンビリーバボーな事実を題材にしている。(実際に「アンビリーバボー」で取り上げられたそうな。)
1970年代にアメリカでアルバムを2枚出したが、全く売れずに消え去ってしまったシンガーソングライターのロドリゲス。彼の音楽はなぜかアメリカから遠く離れた南アフリカで、違法コピーとして出回り、アパルトヘイトの反対運動のアンセムとして大ヒット。本人の全く知らないところで、南アフリカではロドリゲスのことを知らない人はいないというぐらいの大スターになっていたそう。その謎の多い彼を探し出すというドキュメンタリー。
まずその数奇な人生自体が面白すぎる。しかし、この映画化に乗り出した時には、すべて過去に起こったことなので、ドキュメンタリーにするにはあまりにも素材となる映像に乏しい。
それをこの作品では、関係者の証言VTRの合間に、ロドリゲスが当時不遇の時代を過ごしていたであろうデトロイトの街の風景などを、アニメーションやイメージ映像を加えたりなどという工夫で補っている。
確かに数奇な人生は興味深いのだが、それを「こんな不思議なことがありました」と、ただ報告だけされたら、「へえ〜」で終わってしまうので、1本の映画にするには苦心したであろうと思われる。
でもその想像半分な感じが、謎の男ロドリゲスの実在に迫って行く過程と相まって、ちょっとスリリングなので興味が持続できてよかった。
そして何より、あいだあいだで流れるロドリゲスの音楽が、単純にすごいいい曲!
ボブ・ディランの二番煎じと思われて不利だったおかげで、ヒットに至らなかったというのは確かにわかる気がするが、今のこの時代に聞いても全然いい曲だと思えるというのは、音楽として力があったことの証明だと思う。
人種的な偏見とかがなければ、もっときちんと評価されていたはずのシンガーだったであろう。
この音楽の良さと、果たして本物のロドリゲスは現れるのか?という引っぱりが、ラスト前の南アフリカでの凱旋ライブで御本人登場!で、クライマックスを迎える。
謎の男登場に半信半疑ながらも大いに期待して会場に詰めかけた大観衆を前に、レコードと同じあの声で、ロドリゲスが「I Wonder…」と歌いだした瞬間、自分もドッと泣けた!
これはこの実話の内容にもだが、映画としての作りにやられた瞬間だった。
20数年の苦節の末に、南アフリカで自分の音楽が評価されていることを知ったロドリゲスは、経済的な恩恵も受けてスターな生活になり高笑い…となるかと思ったら、その後も彼はそれまでと同じ肉体労働に従事する暮らしを続けているという。
その挟持ある生き方にも感動せずにはいられない。
…これはいい映画ですよ!

シュガーマン 奇跡に愛された男 オリジナル・サウンドトラック

シュガーマン 奇跡に愛された男 オリジナル・サウンドトラック