「箱入り息子の恋」


朝、職場に着いてロッカールームで着替えようという時に、「今日は仕事量が少ないので、休みにしてもらってもいいですよ。」との連絡が…。
…もっと早く言ってくれ〜。
仕方がないのでそのままUターン。
グルーミーな月曜の朝、せっかく星野源の「ワークソング」(♪働け〜)を聞きながら出勤して、勤労意欲を振り絞ってきたとこだったのに(笑)。
…ということは、これはこのまま「箱入り息子の恋」を観に行くしかないでしょ。
一番近いのはテアトル新宿で、初回が11時30分からだったのだが、しばらく間が空くなあと思って検索したら、なんと吉祥寺バウスシアターでは10時20分から上映してて、しかも月曜は男性サービスデーとのこと。

自宅から吉祥寺までわざわざ行くということはめったにないし、出勤したその足で向かう、こういう時でないとなかなか行かないから、バウスシアターで観ることにした。
朝一の回ということで、シルバー女性のグループほか、客はまばらだったが、たぶん新宿行ってたら混んでいただろうから、むしろ好都合。
星野源、もっか急速にマイブーム中とはいえ、役者としての出演作をほぼ初めて観るのだった。(「69」とか「少年メリケンサック」にも出演してたらしいのだけど、当時は気付かず。)


※以下、若干ネタバレ含みます。
星野源演じる、天雫(あまのしずく)健太郎は市役所勤めの35歳独身。実家と職場を往復するだけの人付き合いの苦手な内気で生真面目な男。当然、彼女いない歴35年の童貞。
息子の将来を心配した両親(平泉成と森山良子)が、代理で婚活を行い、なんとか社長令嬢の今井奈穂子(夏帆)とのお見合いの約束をとりつける。
しかし、奈穂子は目が不自由だった。奈穂子の父(大杉漣)からは、向上心のない健太郎に娘のサポートが出来るわけがないと猛反対されるのだが、人を見た目で判断しない奈穂子には好感を持たれ、理解ある母親(黒木瞳)の協力もあって、次第に二人は親密になっていく。
今まで自分の殻に閉じこもっていた男が、恋に落ちて途端、がむしゃらに走り出し、次第に暴走していく…というストーリー。


スケールの大きな話ではないし、派手な要素もない映画だが、役者陣の演技がみな素晴らしく、登場人物の葛藤が痛いほど伝わってくる、いいドラマだ。
今や人気急上昇中の星野源の初主演映画ということで、源さんファンの女性に向けられたアイドル的要素もあるのかという偏見もあったが、これは星野源をカッコよく見せるための作品」ではまったくない
もちろん彼の魅力はたっぷり詰まっているが、あくまでも「内気で真面目で純朴だが闇を抱えている、健太郎という男」に成りきっていて、むしろ過剰な思い込みで暴走する無様な姿には狂気すら感じて、どん引きする女性ファンもいるのではないかと心配されるほど…だが、そこに好感が持てる。
個人的にはこの主人公にすっかり感情移入してしまい、身悶えするようないたたまれない気持ちを抱いたまま、最後まで観た。
映画のルックの部分でも、全くスマートではない。ベタな部分はベタ過ぎるし、いちいちカットを切り替えるのが気になったりして、かなりぎこちない印象も受ける。だが、このちょっと不細工な作り自体が、この健太郎の無様な生き方と呼応しているようで、この作品には合っているような気さえする。
なけなしの勇気を振り絞って、お互いの思いを伝え合う健太郎と奈穂子の二人を見ているだけで、微笑ましくもあり切なくもあり。
夏帆ちゃんという人を初めて見たが、目の不自由な役という、とても難しい役ながら、不自然さを感じさせず、ひたむきさが伝わってくる好演。
二人の前に立ちはだかる父親の大杉蓮も、にっくき存在のはずなのに、娘への愛ゆえの行動というのがわかるので、実はこの話には誰一人として悪い人が出てこない…そこもまたこの作品を愛すべき要素になっている。
自分は、映画の技術的なことは全然わからないので、結局、いい役者さんがいい演技をして、ちゃんと誠実なドラマを見せてくれれば、それでオールオッケーということになるのだと、あらためて実感。


エンディングの着地の仕方に賛否両論出るかもしれず、観た人でこの作品の好き嫌いは別れるかもしれないが、ただ、この映画を観た後では吉野家の牛丼が食べたくなる人が急増するのは間違いないのではないだろうか。
自分はこの映画の吉野家のシーン…マジ泣きしました。
吉野家の牛丼で泣いたのは、劇場版「モテキ」の麻生久美子を観た時と2度目。
福田里香さんのフード理論で解明してくれないかな、牛丼で号泣の謎(笑)。


いやあ…個人的にこの映画、大好きです。

([い]5-1)箱入り息子の恋 (ポプラ文庫 日本文学)

([い]5-1)箱入り息子の恋 (ポプラ文庫 日本文学)