「『街の恋』記念上映&トークイベント」


1953年のイタリアのオムニバス映画、「街の恋(L'amore in città)」の初DVD&BD化を記念した上映&トークイベントに行ってきました。
会場は渋谷のUPLINK、 1FのFactory。
2FのミニシアターUPLINK Xでは観たことはあったが、1Fカフェの奥に入るのは初めて。
フリースペースにスツールが並べられているという、普通の映画館とは違う鑑賞環境にやや戸惑ったが、前と後ろで椅子の高さが違ったり、段差が設けられていて、スクリーンが見にくいということはなかった。
ただ、100分ぐらいの作品だったから、まだよかったけれど、長い映画を観るにはちょっとツライかも。
作品はモノクロの古い映画なので、シネフィルにはほど遠い自分にとっては、ちょっと退屈に感じられるのではないかという懸念もあったが、6篇のオムニバスということで、いろんなタイプの小品が続いて、かなり楽しめた。
フェリーニ、アントニオーニなどの名匠の未公開作品が含まれるということで、映画通の間では幻の作品として、日本公開を望む声が多かったようだ。

上映後にトークショー。進行役の吉田アミさんに呼び込まれ、菊地成孔岸野雄一、ヴィヴィアン佐藤のお三方が登場。
ヴィヴィアン佐藤さんのインパクトの強いヴィジュアルがまず目を惹く。岸野先生は「ヒゲの未亡人」の出で立ちでは…ない(笑)。菊地先生はいつものSIMI LABのキャップに黒縁メガネで、ラフな服装。
まずは、この「街の恋」という作品が、長らく「巷の恋」という邦題で紹介されていて、今回のソフト化にあたって改題されたという説明。
そしてこの作品が、「ネオレアリズモ」と呼ばれる芸術運動の中で、どのような位置付けかということについて、菊地先生がしばらくレクチャー。
「ネオレアリズモ」というのは、英語でいうとニュー・リアリズムということなので、現実主義というか、映画だとドキュメンタリー的な手法が試みられた、当時の社会情勢とも関連する中での芸術運動だそうだ。
その解説の中で、「芸術運動は理論は素晴らしいが、実践はさほど収穫がない。」とぶっちゃけて、聴衆の笑いをとる菊地先生。
さらに、「ドキュメンタリーだからリアルでしょ?というアプローチがなされている中、フェリーニが監督した「結婚相談所」のエピソードは、実は作り話だった」ということを暴露。実話を元にしているんだから、ネオレアリズモだという体で企画に参加しておきながら、まったくの作り話を撮ったフェリーニ(笑)。…このあたりの話は、シネフィルでなくても興味深い。
ここから三人で、映画におけるリアル/アンリアルについて、様々な意見が交わされる。
しかしその間、三人とも「ネオレアリズモ」が嚙み嚙みで、一回もちゃんと言えてない(笑)。
それでも、岸野先生の「当時の撮影技術では同録なんて無理だから、アフレコを当てている。この時点で、ドキュメンタリーといいつつ、どこまでリアルか疑わしい」というような指摘にハッとさせられたり、「映画のそもそもの出自が、ニュースと娯楽演劇のキメラとして生まれているので、常に虚実の間で揺れ動いている」という説明に、なるほど〜と感心させられて、勉強になった。
30分ぐらいかと思ったら90分ほど時間をとってくださっていて、とても内容の濃いトークイベントだった。
もちろん、余談もいっぱい。話もいろんな方向に飛び交って、まさか進行役の吉田アミさんも、自分の服装についてツッコまれ、菊地先生にセクハラまがいのいじり方をされるとは思ってもいなかっただろう(笑)。
話がゴダールの新作について触れられると、ゴダールが初の3D作品を撮っていることを受けて、「でもきっと退屈だと思いますよ。退屈が飛び出してくるんですよ。飛び出す退屈!という名言が飛び出し、この日一番の爆笑が起こった。
菊地成孔関連ならなんでも」ファンの自分は、ヌーヴェル・ヴァーグだとかシネマ・ノーヴォだとかに無知でも、トークイベントとあれば、ほいほい出かけていくわけなんだが、たとえ難しいテーマについて、延々と分からないことを話続けられたとしても、絶対に面白いという確信があるからできるわけで。
今回のイベントも最高に面白かったなあ。


ちなみに、会場の物販コーナーで、よくわからない小冊子を発見。
大谷能生岡村ちゃんについて語る!」というポップが目にとまったので、500円だったし、多分売っているところも限られてるだろうから、購入してみた。
「なnD」という冊子で、大谷さんのインタビューは4ページだけの短いものだったが、他の記事も面白そう。