「疲れた身体にジャズが効く。」

「粋な夜電波」第121回は、レコーディング疲れの菊地先生が癒しを求めて選曲したら、結果的になかなかいいジャズ特集になったという回。
特集やスペシャルも最高に面白いですが、この番組でしか聞けない選曲と面白い話、やはり基本はジャズだな〜と再確認した回でもありました。
久しぶりに蘊蓄もたくさん聞けた曲紹介部分を文字起こししてみました。

Live Today

Live Today

はい、「菊地成孔の粋な夜電波」。ジャズミュージシャンの菊地成孔TBSラジオをキーステーションに全国にお送りしております。
まあ…何か…お話…したいんですけれども(笑)。「お話したいんですけど…」って何だそれ!と思いますけど。
いろんなお話したいんですけどね、最近何にもやってないんで。アルバムの制作しかしてないんですよね。
まあ、先週お伝えした通りで、ジャズドミュニスターズっていうバンドのアルバムをずっと作ってて、朝からスタジオに入って朝までスタジオに居るっていうような毎日なので、特に話題が…無い…ですね。困っちゃいました、今日。
で、しかもですね、番組でもチラッチラッとお話してまいりましたけど、山口行ったりね。返す刀でこの番組の収録をやって、そのまま寝ずに車で名古屋行ったりね。で、また帰って来てCD作ったりしてる間にねえ…さすがに鉄人・衣笠とはいえですね…鉄人・衣笠さん、ソウルミュージックのマニアなんですけどもね(笑)。
鉄人・衣笠さんがね…あ、この話しましたよね?…なんかある日ラジオ付けてたら、鉄人・衣笠さんがですね、「ヒップホップってのはね、ジャズなんだよ!」っつってて(笑)。完全に解ってるよ、この人!と思ったことがありましたけどね。
まあ、いかに鉄人・衣笠とはいえですね、ちょっと疲れましてね。…ちょっと疲れました!
で、今日はもう喋らずにずっと曲だけいこうかな(笑)っていう。
先週、もう大騒ぎだったんでね。笑い過ぎて腹痛くなっちゃったんで。
(中略)
これはね…反応がね…さすがこの国はね。国是ですね、やっぱね。アニメ、アイドル、ゲーム…はこの国の国是ですね。さわると反応がやっぱすごいですね。
(「江藤ラブ子のコント」を絶賛するメールを読んで)
ワタシはね、「ルパン三世 峰不二子という女」というアニメの音楽をやった時に、「もう、アニメやったら大変だよ。街歩けなくなるよ。」みたいなことを言われて、「おお!街歩けなくなるのか。どうしよう。」って思って、やったんですけど、全然ほいさかほいさか歩いてますからね(笑)。全然大丈夫だなと思ったんですけど。
アイドルはヤバイですね、やっぱりね。
京都の芸者さん…京都だけじゃないですけどね、赤坂にもいらっしゃいますけど…と同じですよ。芸能の原点ですからね。女性がいっぱい集まって、こう…歌舞音曲、歌ったり踊ったり、いろんなことやったりして楽しませるってのはね。
カウンターカルチャーっていうか、サブカルチャーっていうか、ロック・ポップスなんとかっていうのが、芸術家だっつって、アーティストだって言い出してから…ま、20世紀の話ですけど…ちょいとおかしなことになりましたけども。元々、芸事ですからね。
今、この国が疲れてたり、いろんな状況で、芸事がそれほど求められてるってことですよね。
あの…お化粧を落としたら元の顔わかんないっていうのも、芸者さん…京都の舞妓さんに誰も言わないでしょ?…「素っぴんどんなだよ?」とかね。もうああいう顔なんで、素っぴんは問題じゃないじゃないですか。お仕事になったら、あの顔に変身するわけで、ああいうのも一緒ですよね。芸事ですよ、ほんとね。
…なんでしょう、この真面目な感じがね。疲れてるんでしょうね、やっぱりね(笑)。


もうちょっとメールでも読もうかな。やめとこうかな。一曲かけちゃったりしてね、早々と。
ミルト・ジャクソンがね。…これもうジャズファン対応ですよね。
今日、なにげにジャズ特集ですよ。ジャズバーですよ。…どの曲にするかも決めてないですけどね。
ミルト・ジャクソン…我らが「バグス」ですけどね。MJQのメンバー…まあ、ジャズ史のいまだにナンバーワンでしょうね、バイブラフォン奏者・ミルト・ジャクソンが、ワタシが生まれて一年目、64年。東京オリンピックの年に、イタリアに行ってですね、現地のミュージシャンと一緒に録音したアルバムがあるんです。
モダン・ジャズメンがイタリアに行って…イタリアってのはね、結構モダン・ジャズやばかったんで…「イタリアまで行って、ちょっと吹き込むよ。」ってのがね。まあ、パスタなんかも美味かったんでしょうね(笑)。ちょっと旅行がてら行って、ピサの斜塔とか見ちゃったりなんかして、ついでに録音もしてくるよっていうジャズミュージシャンは枚挙にいとまがないんですけども。
ミルト・ジャクソンも行ってまして。で、ただこれがですね、なんとビックリ、ボーカル・アルバムでですね(笑)。ミルト・ジャクソン、一曲もバイブラフォン叩いてませんで、歌ばっかりっていうね。
これはジャズファンの間でも珍盤ということでですね、まあ相当な珍盤ですね。ミルト・ジャクソンが歌しか歌ってないっていうアルバムです。これはおそらく契約関係でしょうね。「バイブラフォン叩かなきゃ、いいよ。」っていうことだったと思うんですよ(笑)。
ほいで、ちょちょいとイタリア行って、歌のアルバム録って来て。で、しかもね、歌がそこそこ達者っていうところがね。
調子に乗って作曲もしてますんで、その曲聞いてみましょうかね。
曲名もね、調子いいですよ、これ。「ハートストリングス」っていう(笑)…どういうことだ?っていうね。
ま、いっぱい大サービスで、スタンダードからイタリア民謡みたいなもんまで歌っちゃって、アルバムの最後を「枯葉」で締めてるっていう、なんとも言えない珍盤ですけどね。その中からミルト・ジャクソンがわざわざ自分で作曲した曲、「Heartstrings」聞いてみましょう。
(曲)

Sings

Sings

…ま、ほとんどの方がですね、歌の出始めでね、「こんな高い声!?」って思ったと思うんですよね(笑)。そして、ミルト・ジャクソン…まあ…「バグス」は、顔がサミー・デイヴィスJr.にそっくりですから、大変なおそらくエンターテイナーだったでしょうね。歌も歌えたっていうことなんですけど。
まあ、ぬけぬけとね、アルバムタイトル「Milt Jackson Sings」。で、ジャズファンなら誰もが思ったと思うんですけど、これ…どう考えても、チェット・ベイカーの「Angel Eyes」のパクリの曲なんですよね。そっくりですね、コード進行ね。
まあ…ミルト・ジャクソンともあろう方が、チェット・ベイカーを意識してたっていうね。歌がだんだんチェット・ベイカーじゃなくなるんですけど、歌い出しだけチェット・ベイカーの物真似ぐらい似てるんですよね。
こういうとこ…癒されます、すごい(笑)。癒され珍盤ですよね。
…今日、いいっすね、なんかね。「ジャズバー」全然やってなかったんでね。よかったですよ、これね。疲れた身体にピッタリですよ。
もう、このアルバムだけにしようかな、今日。…ダメですか、それは。…ダメですか、やっぱり。
Milt Jackson Sings」より、「Heartstrings」ですね。
…こう、最後にチーンチーンって鐘の音みたいなの入るでしょ?…これは実はMJQ名物っていうか、MJQブランディングなんですよね。
まあまあ…すごい…ジャズ喫茶みたいになりましたね、今ね、会話がね(笑)。このまま「ジャズ喫茶の回」は続きますけどね(笑)。


そんなに言うんだったら、もう…これかけるしかないですよ。
「最近こんな楽しみも無くなったな。」っていう楽しみを、ジャズファンの間にもたらしてくれる、ロバート・グラスパーですよね。
それはどんな楽しみかっていうと、「おまえはマーク・コーレンバーグが好きなのか。ドラムはどっちが好きなんだ?」っていう話ですよね。
あ、今から聞く盤は、デリック・ホッジ…ロバート・グラスパー・エクスペリメントのベーシストですよね。ロバート・グラスパー〜のボトムを支えてる男なんですけど。
ま、ロバート・グラスパーっつーと、ドラムがやっぱし、今をときめく…そうそう!名前を今、ど忘れしちゃったんで、中村君が教えてくれましたけど(笑)…クリス・デイヴね。もう誰もがクリス・デイヴ、クリス・デイヴ!っつって。
で、もう一人、マーク・コーレンバーグってのがいて、「おまえはどっち派?」っていう。もう、ジャズファン、こんな喜びずいぶん…「Return to forever」あたりから忘れてるんじゃないかな?っていう喜びなんですけど。これが久しぶりに蘇ってきたっていうのが、ジャズマニアの嬉しいとこだと思うんですよね。
で、まあ…玄人好みの人はマーク・コーレンバーグ、一般的なリスナーのファンはクリス・デイヴっていう…ま、大スターですからね。…て言われて、「おまえ、どっち好き?」みたいなアルバムになってるんですよ。
で、このアルバムも、どっちも入ってるんですよね。
ワタシなんか、こう…一応いっぱい聞いてますし、一応ジャズミュージシャンですから、「玄人好みでコーレンバーグだろう?」って言われがちなんですけど、いやあ…クリス・デイヴですよ、やっぱり(笑)。
あの…すげえ…今日、ジャズ番組みたいだな、やばいな(笑)。どっかで戻しますね。何に戻すっていうんだ?って話ですけどね。


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