「週末零時の開始を告げる。」 - djapon の『FEEDBACK DIALY』

TBSラジオ「菊地成孔の粋な夜電波」は、シーズン７より金曜深夜0時からの放送に時間帯を変更。
より深い時間帯での放送となる番組での、所信表明のような前口上を文字起こししてみました。

ラジオの前の国民の皆様、たった今、前日が終了しました。ご機嫌はいかがでしょうか。
心地よい抑鬱も、狂おしい統合失調も、愉しき哉ヒステリーも、あらゆる喪失も、収まらぬ怒りも、名こそまだ付けられていない…しかし、激烈に辛い新症状…巷では「恋愛」と呼ばれることの多い…総合的な病理、そして、そういったものが全く無いと自覚するという…最も重い病も、そして、あらゆる罪、あらゆる穢れ…例えばスーツに付いたルージュ、下着に付いた傷み、唇に付いた苦しみ…そうしたすべてを包み込む、黒い深夜がやって参りました。
ナイト・ミント…954kHzの電波によって、本日の開始に際し、皆様のなさる最初の行為が極上の音楽療法でありますよう、力道山刺されたる街・港区赤坂から、ソムリエとして処方させていただいております。
病あっての人生、偽りあっての恋愛、「欺かれる者は彷徨い、欺く者は眠れぬ」とは、おフランスの思想家の言葉。
そしてお相手は、夜行性と混血性でアジアNo.1のパーソナリティー…私、ジャズミュージシャンの菊地成孔が務めさせていただきます。
私めが非力だとご判断された御仁は、どうか助手として、皆様お気に入りのリカー…度数14度以上の物を120cc未満…御用意下さいませ。生産国もヴィンテージも問いません。
当番組、３年間続けてまいりまして、うち２年半は日曜の夕刻という住所で営業させていただいておりましたが、今シーズンより、こちら激戦区に移動となりまして、本日が新装開店にして、深夜営業の初回となります。
只今お聞きのテーマ曲、「巨大な蟻に人類が全員食い殺されてしまう」というSF映画で、地球上に生き残った最後のDJが流すタイタニック・ソングにふさわしい官能のサウンドは、「BUtterfield 8」。作曲者であるブラニラウ・ケイパーのオーケストラによる1960年の演奏であります。
あっという間に眠ってしまうか、いつまでも眠れなくなってしまうか、いずれにせよ睡眠に対する薬効は想定外。
TBSラジオは当番組を、この甘美な危険地帯に派遣したことを悔やむことになるでしょう。
それでは日本人の娯楽の殿堂、たった今始まる週末の零時にようこそ。ジャズ、そして夜に忠誠を誓う、赤坂「ニューラテンクォーター」公式認定番組、「菊地成孔の粋な夜電波」シーズン７、４月は４年目の開始。
あらゆることが否応無しに変わっていくであろう、この国の四月。しかし、誰にも、神にさえ夜はやってきます。星を数えながら、リズムを数えながら、過去の甘き、そして苦き傷を数えながら、早速参りましょう。