「筒井流マジックリアリズム。」

「粋な夜電波」第165回放送は、人気企画「金曜ロードクショー」第3回。
菊地先生が敬愛する作家、筒井康隆氏の短編小説「中隊長」の朗読を、音楽と共に電波にのせた1時間。
オーディオブックとして有料で配信してもよさそうなクオリティ。
粋な選曲と相まって、まさに日本版マジックリアリズムの世界が脳内に展開しました。
作品の解説を含む前口上部分を文字起こししてみました。

エロチック街道(新潮文庫)

エロチック街道(新潮文庫)

ラジオの前の国民の皆様、たった今、我々の昨日が終了いたしました。今日という日の訪れの初々しい、生まれることの哀しみを存分に味わって下さいませ。
さて、今晩お送りいたします「菊地成孔の粋な夜電波」は、シーズン7恒例となりました文学と音楽の時間。人読んで「金曜ロードクショー」の第3回となります。
番組1回分をすべて使って、短編小説を音楽と共にノーカットで朗読し、途中その小説のために選曲された楽曲を流すという1時間。
初回の、田中康夫・作「なんとなくクリスタル」、2回目のガブリエル・ガルシア=マルケス・作「大きな翼のある、ひどく年取った男」に続きまして、今夜は筒井康隆・作「中隊長」をお送りしたいと思います。
この前口上が終わり、最初のCMが始まってから、番組は前奏曲・間奏曲・1回の休憩を挿むだけで、解説なし。つまり二幕もののオペラ形式で進行いたしますので、「金曜ロードクショー」ならぬ金曜ロードショー」に倣いまして、番組冒頭に解説をば。
この作品は1978年、伝説の文芸誌「海」に掲載され、後に伝説の文庫「エロチック街道」に収録されたものの、なぜか著者最初の全集には収録されず、つまりアウトテイクとなった謎の作品です。
後に再編後の全集に収録されましたが、現在手軽に手に取って読めるというアイテムではなくなっています。
1978年、音楽の世界ではハウス、ヒップホップ、テクノポップAOR、シティポップ、パンク、ニューウェーブ、レゲエといった、現在では堂々たる主流となっている、当時産声を上げたばかりの潮流たちが、一気に世界中の音楽シーンに顕在化して濁流を形成し、20世紀後半最大のグレートヴィンテージ、偉大な年のひとつとして記憶されていますが、文学の世界でも同じように、欧米では60年代にブームを起こしていたラテンアメリカ文学の諸作品が我が国で一斉に紹介され、大きなブームを形成するか否か…その前夜祭のような状況でした。
「文字を発明しながら書いたような」と言われる、異様な程生々しく、読者の夢や記憶を沈黙のままに挑発するようなその作品群は、フランスでのシュールレアリスムとも、過去のあらゆる欧州の幻想文学とも全く違う、魔術的なリアリズムによって、数多くの映画化を含め、多くの文学者や読者に多大なるインパクトを与えましたが、日本人作家でこの潮流に果敢に飛び込んだのは筒井康隆でした。
当時40代中盤にして、既に一流のポップとして、大衆的な人気を誇り、テレビショーの司会まで務めた流行作家でありながら、筒井康隆は前述の文芸誌「海」を舞台に、伝説の名編集者、本作発表の2年後の1980年、45歳でそのキャリア全盛期に白血病で死去した塙嘉彦に牽引されるかたちで、ガルシア=マルケスを代表とするラテンアメリカ文学に、日本人としてのアンサーを送り続けました。
本作はその処方の一発であり、当時高校生だった私、菊地成孔の感受性や人生を決定付けた作品でもあります。
自己の作品の構造分析や方法論を饒舌に語り、その無理解への舌鋒も鋭かった筒井康隆は、一群の「筒井流マジックリアリズム作品」に関して、「夢を素材にするのではなく、いわゆる夢日記の類いでもなく、見た夢自体をそのまま作品化する」と言及しています。
既に入眠の兆候を自覚されている皆様は、番組中に睡眠状態に入ることを強くお薦めします。その際、どうかラジオの電源はお切りになりませんよう。睡眠時も耳は音楽を聞いています。
さて、私、菊地の音楽世界との関連性については、好事家の皆様の研究にお譲りし、多感な高校生時代へのノスタルジーはクローゼットの奥にしまうこととしまして、今宵は一流の異端日本文学をお楽しみいただきたく思います。
力道山刺されたる街・赤坂より、東京・那覇、そしてブエノスアイレスまで。
赤坂ニューラテンクォーター公式認定番組「菊地成孔の粋な夜電波」、「金曜ロードクショー」第3回。CMに続きまして、まずは音楽のラテンアメリカ文学、エルメート・パスコアールのマジックリアリズム作品から幕開けとなります。
あなたご自身が本日最初にご覧になる夢が、そのタイムラインと並走させながら、最後までごゆっくりお楽しみくださいませ。

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