「『今ジャズ』のリズムを解説。」

「粋な夜電波」第167回放送は「ジャズ・アティテュード Vol.3」。
グラスパー以降のいわゆる「今ジャズ」の、「リズムが訛る」というトレンドについて、オールド・ジャズファンにも分かりやすく解説。
最新のジャズ入門としても最適な、充実した内容の回となりました。
番組後半の一部を文字起こししてみました。

リヴ・トゥデイ

リヴ・トゥデイ

はい、「菊地成孔の粋な夜電波」。ジャズミュージシャンの菊地成孔TBSラジオをキーステーションに全国にお送りしております。
今週は「粋な夜電波 ジャズ・アティテュード」と題しまして、「今ジャズ」と俗称されているものに関して、ワタシなりの解説でお楽しみいただいております。
え〜…とにかくロバート・グラスパーは、そういう形で…逆に言うとね、ロバート・グラスパーですら、ちょっとギャラクシー…ギャラクティカなのよ。ストリートっていうよりかは、だいぶギャラクティカなんですよね。
それはピアノで複雑なコード弾きゃあ、どんどんどんどん…。
一発でね、「ブーッ・ツッ・ドド・ブッブーッ」つってる、サウスのヒップホップとかに比べれば、ストリート感なくなりますから(笑)。キラキラすれば、ちょっと行くんだけど。ラグジュアリーなのかギャラクシーなのかってのは、ほんとに分かれるところで。
ただ、ロバート・グラスパーが…リンカーン・センターのライブかな? ちょっと細かい資料忘れましたけど…ブルーノート何十周年記念ってライブだったような気がするんですが、その時トピックになったのね、ルックが。見た目が。
それはどうしてかっていうと、リンカーン・センターに初めてスニーカーで上がったっていうね。ヒップホップなんで(笑)。
上半身…スニーカー以外は全部タキシードで、比較的そのモーニンな、きちっとしたライブだったんで。
で、全部タキシードでキメてんだけど、で…各誌いろんなところが写真抜いたんですけど、アップになったのが足元だっていう。そしたらNIKEで、しかもロバート・グラスパーモデルだったっていうことで、「これぞジャズとヒップホップの融合!」っていうような、もうマンガみたいなところも押さえてる人ではあるんですけどね。
で、そういった動きを中心に、UK…ワタシの好きなリチャード・スベイヴンなんかは、こう…完全に現実逃避・宇宙・エコロジーといったような、今日最初に聞いたデリック・ホッジ…これはロバート・グラスパー・エクスペリメントのベースですけども、…もちょっとヒッピー経由で、ちょっと宇宙ってところがあったりなんかして。
ま、ジャズはストリート感覚なのか、宇宙感覚なのかってのも、ひとつの軸ですよね。
え〜…話ちょっと変えてですね、ま…話変える時間があるのか?って言われる時間ですけれども(笑)。
リズムマシンがどう発達してきたおかげでこうなったのか?」っていう話なんですけどね。
あの…リズムマシンって、クォンタイズっていって、一拍を何分割するか?っていう…それはつまり、手打ちして入れた時に、手で入れると上手くいかないじゃないですか、それをパチンと修正する力を持ってんの。
それを修正するクォンタイズの能力が、まあ…それは音楽ソフトによるんですけれども、だいぶ発達したとはいえですね、一拍ってのを五等分したりする力ってのはまだないんですよ。
あとレイヤーみたいに、ある…例えばハイハット、スネア、キック…バスドラですね、タムとか…いろんなチャンネル毎に分かれてるわけですけれども、これらは大体一律クォンタイズしちゃうわけで。
1トラックずつ別々にクォンタイズかけるっていう手間とかテクニックとかが、そんなに発達しなかったんですね。
これがね、ここ数年で急激に発達したのね。で、いきなりマシンビートがめちゃめちゃ訛るようになったんですよね。
「Flako」っていう、今一番ヤバいんじゃないか?って言われてるDJが、ドイツの名門のテクノのレーベルから出しました。「Moonchild」ってレーベルから出てます。ま、音聞くのが一番早いですからね。
例えば機械がやっちゃってる、人間にしてみれば右手・左手・右足・左足が、みんな違うクォンタイズ…違う分割数で動いてるってのは、例えばこんな感じさってのはこれですね。
(曲・F.O.)

(中略)
…これもヤバいですよね。
最初はまあ…こんなもん機械だから出来るんで、人間に出来るわけないよ!…とか、なるんですね、思うんですよね。
ところが(笑)…まあ、ところがどっこいで、ま…これは音楽に限ったことではなくて、多分おそらく全てなんですけど、テクノロジーと人間の身体性ってのは、とにかくバックの取り合いでね。もう、すごい優秀なアマレスの試合みたいになって、後ろ取って後ろ取って後ろ取って…って、必ずこう…やり返すんですよね。
あの…ワタシ今でこそ、そんなによう行きませんけど、90年代末…中盤…末期からかな?一番激化したの…2000年代の頭ぐらいまで、すごい長期間ヨーロッパに演奏しに行くとかいう時期があったんですよね。
それこそ「あまちゃん」の大友良英さんのバンドとか、ワタシの師匠筋である山下洋輔のバンドってのは世界ツアーしますから。で、長く行くんですけど、その時、ほとんどのフェスティバルで、とんでもないド田舎のフェスティバル…ヨーロッパのね、聞いたことのない町のフェスティバルとかでも、必ずいました。ドラムンベースとそっくりに叩く、ディレイとかも自分で「タンタンタンタン…」…自分でディレイの真似をする(笑)、聞いてるとほんとにドラムンベースのリズムボックスにしか聞こえないドラマーってのは絶対一人いたし、もっと言うと、それを全部口でやる、いわゆるヒューマンビートボックスの奴も絶対どのフェスにもいて、全然聞いたことのない大道芸みたいな人たちなんですよ。
だから人間の能力ってのは、とてもじゃないけど人間離れしてるって思ってることを、口で真似ることが出来るって力がありますよね。いっこく堂さんじゃないですけど。
で、それを身体に拡張していけば、ドラムのプレイになるわけで。だからどんなに無理だと思うことも、どんどん人間がやってっちゃうし。
機械の方には絶対上限がありますから、デジタルですから。で、機械は機械でジーッと待った後に、バンッ!って発達すんですよね(笑)。機能がガクンッて上がって。
でまあ、そういう追い掛け合いで、人間が二次曲線的にグーッと追い付くと機械がドカンッて上がり、機械がしばらく黙ってる間に追い付かれ…っていうようなことが繰り返されてて、ま…その問題は多分ドラムマシンが明確にあらゆる音楽の中に入り込んだ、70年代末から80年代にかけて、文化的には始まった…というか、地球的にはこう…音楽史を揺るがしたことだと思うんですけど。
ま、その追い掛け合いのゲームが今白熱してるのが、「今ジャズ」の世界だ…というような言い方も出来ますよね。
え〜…もっとたくさん紹介したいドラマーもいたんですが、時間が終わりに近づいてきましたので、「今ジャズ」解説に関しては、別のイベントを設けるか、次の「ジャズ・アティテュード」に回すとしまして、ま…今日申し上げたことは大体そんなような感じですよね。
ドラムが中心で動いてんだ、と。
今日、お父様方に覚えていただきたいのは(笑)、ロバート・グラスパーという名前と、クリス・デイヴって名前と、あとまあ…余裕があったらリチャード・スペイヴンまで。
今日音は聞きませんでしたけど、マーク・ジュリアナとかね。…マーク・ジュリアナ聞いてみましょうか、一瞬でも滑り込むっていうね。
レッチェン・パーラト…この人も聞いたよね、確か。グレッチェン、番組で。これも歌盤ですけども、ヴォーカルのバックで叩いてるドラムのリズム感がだいぶ違います。
ま、歌普通に…だいぶいい歌ですけどもね。

(曲・F.O.)
…始まったら切るなよ!って話なんですけどね(笑)。
もう大体イントロに…すいません、ほんとに(笑)…押しまくっちゃった。イントロにエッセンスが出てたんで、もういいやと思ったんですけど。
要するに、ちょっとヨレてるんですよ。ただ、ヨレるってのが感覚でヨレるっていうところもあるんですけど、さっき言ったようにリズムマシンの発達に追従してるようなヨレ方もありますし、あと民族音楽みたいなものから、リズムマシンに出来ないヨレ方をしてくっていう、ほんとに機械対人間の闘いですよね。
「機械対人間の闘い」っていう問題、それから…最初は病理的に聞こえる…つまり、訛りだとか、なんかちょっと不自然に聞こえるものが、だんだんマヒして、今度は魅力に変わって行くっていう…これもう、人間文化の普遍的なもの…(笑)。
そんな普遍的な…エッセンシャルな話したくてやったんじゃないんですけど、ただ「今ジャズ」の話がしたかっただけなんですけど。
ある意味普遍的な動きなんですよね。
昔だったらギクシャクして「なんかこれ…グルーヴ悪いよ。」って言われたものが、今もう「最高にいいよね、これ。」っていう。
昔、「これ最高グルーヴしてるでしょ!」って聞いたら、もう今聞くと「古臭くて聞いてらんねえよ。」って、もうそういうやっぱり…ファッションが変わるんですよね、やっぱね。
それが音楽の最大の残酷な点でもあり美点でもあるんですけどね。
今、グレッチェンの後ろでいい感じで軽くヨレながらドラム叩いてた子も、自分のバンドっていうかね…自分のバンドじゃないんだけど、「Now vs Now」っていう、これ一部のハードコアの人にはファンが多いんですけど。
こんなんなっちゃうんですね。これイントロがちょっと長いんで、実際のCDよりもイントロをカットして、バンドが走り出すところあたりから聞きます。
「Now vs Now」で「Future Favela」かな。
(曲・F.O.)

(中略)
…今日聞いたアルバムは全部12年以降ですから、11年のものっつったらないからね。だから全部ここ数年のものばっかりなんですけど。
ここ数年、突然同時多発的にですね、こういうその…「興味はリズムにしかないよ。」っていうような音楽が量産されているという状況で。
で、まあそのほか、ジャズの歴史を観測定点に追ってっても、いろんなことが起こりますし、クラブミュージックを観測定点に置いてもいろんなことが起こるんだけども、なかなかこれをビシッとまとめてくれる…発言してくれる方がいらっしゃらないんで。
だからまあ、ちょっとワタシなりに言ってみましたけれども。解説してみましたが。まあ、まだまだ足りないので、折にふれ…。
ま、「ジャズ特集」っていうと、必ずあの…なんか「人生がメチャメチャだった人の、泣ける演奏」…ま、それは前回のスタン・ゲッツの話ですけど(笑)。そういうのを聞いて感動するってことに終始してしまうこともありがちですけど。それもそれでジャズのね、大きな魅力ではありますが。
一方でジャズってのは、こう…最先端…ラボで研究してって、どんどん新しいリズム、新しい人たちってのが、周辺の音楽を吸収して発達してくってのもジャズの醍醐味ですので。
今夜はまあ、そういったことを中心としてやってみましたが、いかがでしたでしょうか。

ブラック・レディオ

ブラック・レディオ

※文字起こしの「NAVERまとめ」あります。