「G-RAPはコワくない?」

「粋な夜電波」第237回放送は、久しぶりの4H(ホーリー・ヒップホップ・アワー)で、しかも生放送。
全米興行収入1位を獲得した、話題のヒップホップ映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」について、OMSBとMoeさんを交えて大いに語り合った部分を文字起こししてみました。

Straight Outta Compton

Straight Outta Compton

N/K はい、どうも。「菊地成孔の粋な夜電波」、ジャズミュージシャンの菊地成孔TBSラジオをキーステーションに全国にお送りしております。え〜、今週は久しぶりの「ホーリー・ヒップホップ・アワー=4H」ですけれども、相変わらずのメンツでSIMI LABからOMSB’Eats…よろしくお願いします。
OMSB よろしくお願いします。
N/K Moe and ghostsから、MCのMoeさん…よろしくお願いします。
Moe はい、こんばんは。よろしくお願いします。
N/K 久しぶりですね。
Moe 久しぶりです〜。
OMSB だいぶ(笑)。
Moe ね?…4H…
N/K どのぐらい…今年何回ぐらい…2回ぐらいですかね?
OMSB 3…?
N/K 3回ぐらいか。
Moe そうですかね。
OMSB …だった気が。
N/K そうね。3回ぐらいで…
Moe ほとんどやってないですよね。
N/K そうね(笑)。ま…久しぶりの感じですけど。
Moe はい。
N/K はい、今日生放送なんでね。
OMSB はい。
N/K ビャッ!とすごい早さで言いたい事言ってしまって…まあ、それっきりだっていう(笑)。
Moe (笑)。
OMSB ズバッと(笑)。
N/K ま、そうですね。今日はですね…テーマが…あ、そうですね、いつも毎回毎回…ヒップホップが好きな方もそんなにお好きじゃない方も、むしろ積極的に嫌いな方も…と言ってるんですけど。
Moe ええ。
N/K あの…アメリカでですね、これは来週の…日本の公開が来週の金曜かな?…なんかそれぐらい…とにかく来週末からになるんですけど。
OMSB はい。
N/K ストレイト・アウタ・コンプトン」という映画で…これはもうアメリカでは…ある意味何っつったらいいのかな?…佃煮にして売るほどあるヒップホップ映画の中で、最もヒットしたっていうか。
Moe おお。
N/K トム・クルーズの「MI」を抜いて…
OMSB スゴいな。
Moe へえ!
N/K 3週連続…ま、3週ですけどね、全米の累計興収を…1位に輝いた…ということで。
OMSB ほお〜。
Moe ブロックバスターですね。N/K ブロックバスターですね、完全にね。それをですね、えっと…(笑)…3人で観まして。
OMSB はい。
N/K 3人で観まして…って言うと、仲良く同時にパーティーでもしながら部屋で観た感じですけど。
OMSB (笑)。
N/K まず、ワタシが観て、それをMoeさんに貸して…
Moe はい。
N/K Moeさんがコンビニに行って(笑)…OMSBに郵便で郵送し、OMSBが観たのが今日返って来たって感じですけどね。
OMSB そうすね。バック・アゲイン。
N/K これはね…この映画がアメリカで興収1位になったっていう事の意味が、「わあ〜!」って言ってる日本人は…どのぐらいいると思いますか?…日本中で。
OMSB うーん…少なくともこれ自体がなんか…要は「日本でやらないの、おかしい!」って言って、募って…
N/K 募って。日本未公開の予定がね。
OMSB はい。…ってなったから、ま…その分…でもそれは超えない…みたいな。
N/K そうね(笑)。それって…
OMSB それって…あんま無い気がする。
N/K どのぐらいと踏んでますか。
OMSB どのぐらいなんだろう?…署名ってどのぐらいで…っていう感じなのかなって思って。そもそも。
N/K いや〜、わかんないね。もうすでにここら辺までで、何がなんだかわかんない人いると思うし、逆に「ストレイト・アウタ・コンプトン」って聞いただけで、もうわかる人はわかる…わけで。
OMSB うんうん、そうすね。はっきりと。
N/K はっきりと、わかる。
Moe でもわかんない人はカタカナで「ストレイトアウタコンプトン」って、「ハァ?」って感じですよね。
N/K そうですね。ま、どうなんだろう…今わかんない人は急いで検索してくれ…とかいうわけにいかないですけど、ま…メチャメチャ簡単に言うと…
Moe はい。
N/K メチャメチャ簡単にまとめるのもバカバカしいぐらいの感じではあるはあるんですけど…。ヒップホップっていう音楽があって(笑)。
OMSB (笑)。
N/K それにこう…世代があってね、あの…アメリカだと言わないんだけど「ミドル」って。日本の言葉でしょ、あれ「ミドルスクーラー」って。
OMSB そうですね、日本の。
N/K 日本の分類法ですよね。で、まあ…ミドルスクーラーの先駆…ミドルスクーラーの真ん中へんの人たちで、「N.W.A.」…「Niggaz Wit Attitudes」か…ちゅう人たちがおりまして。その人たちのドキュメント…ドキュメントじゃねえや、その人たちの伝記映画。
OMSB そうですね。
N/K 話題としては、アイス・キューブ役をアイス・キューブの息子が演じている。
OMSB (笑)。
N/K あとは、まあ…ドクター・ドレーがプロデュースかな?
Moe うん、プロデューサー。
N/K 製作しているわけだよね。あ、ドクター・ドレーアイス・キューブで製作してるんだ、はいはい。
Moe はい。
N/K ちゅうわけで、この人たちは…この人たちはっていうか、ヒップホップってのは、日本もまったく…その点では同じ経緯を踏んでるんですけど。
OMSB うん。
N/K 最初は、そんなに別にバッドボーイ・カルチャーじゃなかったのね。
OMSB そうですね。
N/K どっちかっつーと、エッヂな人たちの…先端の…オシャレカルチャーとして始まって…
Moe うんうん。
N/K ままま…アメリカでヒップホップが生まれた時は、オシャレもへったくれもない…もうほんとにヤバい…レコードかけながら踊ったり壁にスプレーで絵を描かなければ、もう生きていけない!っていう人たちが始めた…
OMSB (笑)。
N/K とはいえ、そんなに別に…アフリカ・バンバータがブロックパーティやってた頃は、そんなに…露骨にバッドボーイではなかったのが…
OMSB そうですね。
N/K ま、この人たちあたりから…いわゆる「G-RAP」…ギャングスタ・ラップと言われてるものになっていきました、と。で、まあ…有名な「ヒップホップ東西抗争」っつって、まあ…東海岸と西海岸のレーベルが…っていうストーリーは…こういうのもほんと難しいですよね(笑)。
OMSB はい(笑)。
N/K 二極化してるから。
OMSB うーん。
N/K 知ってる人には「もういいよ、そんな話。時間の無駄だ、早く次行け!」って話だし、知らない人は「へえ〜、そんな事があったんですか。」って。
Moe うーん。
N/K ま、ピストル撃ち合ってるわけですよね、簡単に言うと。
OMSB そうですね。
N/K それを…ま、そういうのやめようよって言った人が、この映画の実質上の主人公…ドクター・ドレー
OMSB ドクター・ドレー
N/K ドクター・ドレーね。ま、感想は…それよりも、とにかく全米興収1位ってのは大変な事…
OMSB そうですね。
Moe 信じられない。
N/K 信じらんないですよね。
Moe (笑)。
N/K あり得ないですよね。
OMSB 夢があるっすね。
N/K 全米興収1位はほんとスゴイよね。でも、それはやっぱりDreがビジネスマンっていう事が…大きいですよね。
Moe うーん。
N/K ドクター・ドレーって、ヘタしたらJAY-Zより稼いでるでしょ。
OMSB そうですね。
Moe そう、そうらしいですよ。「beats」売却してね、一番稼いでるミュージシャン。
N/K そうですよね。
OMSB で、N.W.A.も…この映画やってから、その当時のCDがランクインしたみたいなんで。
N/K ま、そりゃそうでしょう。
OMSB かなり、やっぱ…(笑)。
N/K だから…「F・U・C・K tha police」…で育った人っていう…何て言うの…90年代映画でもあるよね。
OMSB そうですね(笑)。
N/K 今、世界的に来てると言われてる90年代ブームに乗ったっていうかね。これが…凄い…好き者の…好事家のための映画っていうんだったら、今まで山ほどあったわけで。
OMSB うんうんうん。
N/K 何本ぐらい観た?…ヒップホップ映画。
OMSB えっ?…ヒップホップ映画…
N/K ドキュメントといわず…さぁ、「ハッスル&フロウ」とか、ああいう…
OMSB ああ〜。ヒップホップでいうと、どうなんだろうな。ラッパーで限ると…13〜4本ぐらいすかね。
Moe ほお〜。
N/K 楽勝でそのぐらいあるよね。
OMSB はい。あの…ライブのあれとかも含めれば。
N/K 含めればね。Moeさんって観たりしますか。
Moe アタシね、菊地さんに貰ったピーナッツ・バター・ウルフのドキュメンタリー…
N/K はいはいはい。あれ…
Moe あれ、1本。
N/K あれ1本ですか。
Moe (笑)。
N/K 観ないですか。
Moe 観ないですね(笑)。
N/K あ、ラッパーなのに?…ラッパーかつ映画ファンなのに。
Moe そう。縁が無かった。
N/K あ、縁が無かったですか。
Moe はい。
N/K なるほど。で、ま…すげー簡単に言うと、さっきの話の続きですけど、なんかまだ…ニューカルチャーで、海の物とも山の物ともつかないものが、だんだんバッドボーイ…ていうか日本で言うと不良とかヤンキーのカルチャーに、こう…だんだん変わって行く
OMSB はい。
N/K で、変節して、ま…いつもこの番組で言ってる、ヒップホップはDQNやヤンキーのシュプレヒコールだけではない…ので、そんなに毛嫌いしないでください…っていう(笑)。
OMSB (笑)。
Moe ええ、ええ。
N/K …ことを言ってるんですけど、とはいえ…もう言葉古いですけどドキュンってのも…DQNやヤンキーのシュプレヒコールである側面も残ってる…相変わらずね。
OMSB そうですね。
Moe うんうん。
N/K 残ってるわけなんで、何て言うか…2本立てみたいになってる、今ね。そういう人じゃない人とそういう人と、あと境界例に立つ人っていうか…3本立てっていうか(笑)。
OMSB せめぎ合いみたいな(笑)。
N/K せめぎ合いみたいなね。で…その中でやっぱり一番…ま、内容を言っちゃうとね、ネタバレになっちゃうから、これから観に…でも、まあ…そんなにネタバレになんないか。東西抗争で2パックやピギーが射殺されるっていう、あの事件の直前で終わってんだよね。映画が。
OMSB そうですね、はい。
N/K だから…そっから先は好き者なら知ってるでしょ?っていう…ていうか、アメリカ人ならほとんど知ってるんじゃないですかね。
OMSB そうですね。
N/K うん。で、その東西抗争によって、若くて才能があるラッパーが亡くなったっていうことで、これじゃ社会的に認められないから、ちゃんとしようよ…っていうようにドレーが止めていく…っていうのが大雑把な歴史観ですけど。
OMSB はい。
N/K ま、ドレーはさっき言ったようにビジネスマンでもあって…
Moe うん。
N/K 今年のあれ観たのね。BET…ブラック・エンターテインメントTV。そしたらね、「ドクター・ドレーの今年の年収は何億ドルです!」とかって言うの。
OMSB (笑)。
N/K そうすっと…それはなんか、その番組は完全にアフリカン・アメリカンもしくはチカーノ、ラティーノの…要するにカラードの人向けのあれだから…どんなことを言ってもそんなにさ…エモくシリアスになんないんだけど、その時だけはみんな真剣に喜ぶんだよね。
Moe へえ〜。
N/K Dreが稼いでるって事が誇りっていうか。
OMSB ああ〜。
N/K みんな立ち上がって拍手したりして(笑)。
OMSB (笑)。
N/K もっとこう…ブー!とかヒューヒュー!とか…いうものは全く無くて、Dreはほんとに偉い!っていう感じが…
OMSB うん。
N/K 尊敬してます!って感じが、会場全体から伝わってくるんですよね。で、まあ…実質上の主人公はドクター・ドレーで…っていうとこですよね。だから、実際「ドクター・ドレーが偉い映画」とも言えるんですよね。
OMSB そうですね。多分…やっぱオチまで観ると、結局存在感っていうか…その…結構引いて映ってると思うんですけど、結局存在感があるかなっていうふうには…思いますね。
N/K そうですね。
Moe うん、メンバーの中で一番カッコいいと思いました。ドクター・ドレーが。
N/K ああ、まあ…そうですね。
Moe 狙い通り。
N/K そうですよね。まあ…何ていうか…どんなジャンルでも…ロックでもジャズでも何でも、関係者存命中もしくは登場人物存命中っていう場合、有利だってのが…
OMSB (笑)。
N/K …傾向がね、全員もう死亡…モーツァルトとかならね、子孫はいるかもしれないけど、直接金出したりとか資料出したりとかできないから、口出せないんで…あれですけど。ま、今生きてるからね、相当…どうなんだろうな。とはいえ、誠実にやってるほうなのかもしんないですけどね。
Moe はい。
N/K 「Fuck tha Police」とか聞いてましたか、Moeさん。
Moe あ、これまでですか?…聞いた事無かったです。これで初めて聞きました。
N/K 無かったですか。なるほど。あの…何て言うんですかね、ヤンキーカルチャーとか(笑)…この番組でいうと、Moeさんは完全に文科系っていうことで…
Moe はい。ええ。
N/K 懐かしいですよね…アレはワタシ名言だと思うんですけど、「KOOとMariaさんのパーティラップ聞いているうちに、胃が痛くなった」っつって(笑)。
Moe はい(笑)。
OMSB (笑)。
N/K エロい事とかね、あんましね…
Moe はい。
N/K …ですよね。で、まあ…OMSBはパッと見…なんとなくイメージでG-RAPだと思われがちな…ところがあると思うんだけど。
OMSB はい。
N/K 本人曰く、オタクサイドなんだ、と。
OMSB はい。
N/K というところよね。で、オレは本なんか書いて文化人だと思われてるんだけども、高校時代そこそこ(笑)…そういうところでそうだったっていう、境界例みたいな微妙な立ち位置ですけどね。
OMSB (笑)。
N/K 3人とも世代も違うし、その立ち位置違うんですけども。
Moe うんうん。
N/K ギャングスタ・ラップは…何ていうかな…ま、でもギャングスタ・ラップは…一番作ってるよね。フロウとかを。実は。
OMSB うんうん。何ていうんだろ…態度も含め。
N/K 態度も含めね。一番クリエイトしてる…よね。極端だから。
OMSB うんうん。
N/K やっぱり。日本もやっぱヤンキーカルチャーは極端だもんね(笑)。
Moe うんうん。
N/K 「ヤンキーと私」っていうような感じで、Moeさんってまったく何にも接点ないですか。
Moe 接点…。そうですね、無い…
N/K ヤンキーに告られたとかは。
Moe ないですね(笑)。
OMSB 「好きなんだよねェ〜!…オレ!」
Moe (笑)。
N/K 「宇都宮さんサァ〜!」(笑)。
Moe あ、いちおう尊敬してくれるんですね(笑)。
OMSB 「ちょっといいかァ〜。」(笑)。
N/K 「ス、スイマセン!…スイマセン、宇都宮サン。」
Moe あ、まだ続くんですか(笑)。
N/K …まったく無いですか。
Moe 無いですね〜。だから…ギャングスタ・ラップもこれ、初めて聞いたんですけど、でもアタシね…ギャングスタ・ラップに対する偏見が取れましたよ。この映画観て。
N/K ああ〜。
Moe なんかトラックが…「あ、こんなになんか…アガるトラックなんや!」とか。
OMSB うーん。
N/K アガりますよぉ。
Moe そう。すごいアガる。
OMSB メチャクチャアガる(笑)。
Moe そう。ドクター・ドレーやっぱスゴいな〜と思って。「あ、時代の音や〜!」って思って。
N/K そうですね。
OMSB うーん。
Moe あと、声もみんななんか…そんなにコワくないですよね、声が。
N/K ああ〜。
Moe ラッパーの人たちが。言ってる事は過激なのかもしれないけど、耳馴染み良いな〜とかって、結構ノリながら聞いてました
N/K まあ、始まり…ですからね。だんだんだんだん…なんか、音楽は…何でもそうですけど、普通のロックがヘヴィメタルになったり、デスメタルになったり…と、要するにカリカチュアライズされて…
Moe はいはいはい。
N/K だんだん…ギャングスタ・ラップって、ほんとにギャングみたいなさ(笑)…メチャメチャいかつくなっていくんだけど。ま、この頃はリアルなんで。
Moe はい。
N/K 何ていうかまだそんなに…演じるようなね。
OMSB はい。
N/K ヒップホップ界でも問題になっちゃってるもんね。「なぜそんなに…握った事もないGUNのことを入れてくるわけ?」とかいう議論はずっとあるわけで。
Moe うんうん。
N/K それは…リアルっちゅう問題の中でね。うん、なんか聞いてみましょう。今日はG-RAPに関して「オレに任せてください!」ということでOMSBに選曲してもらいました(笑)。
OMSB (笑)。
N/K 新品と本流とどっちいきますかね。本流いきましょうか。
OMSB ま、今の流れだったら本流…ですね。
N/K はい、じゃあ曲紹介お願いします。
OMSB えーと…Big Prodejeで「Come on」です。

Ost: Straight Outta Compton

Ost: Straight Outta Compton