「オマエに話し掛けるのも、きっとこれが最後だ。」

「粋な夜電波」第270回放送は、久しぶりにソウルBAR〈菊〉開店。
愛と自由を掲げてオープンするこの店の開店前の口上も、現プレジデントに対するウィズダムはおそらくこれが最後。
その部分を文字起こししてみました。

レインボー・チルドレン

レインボー・チルドレン

ヘイ、バラク。久しぶりだな。
このスタジオからオマエに話し掛けるのも今日で最後だ。
そこそこ長かった任期の間に、オマエの頭はほぼ真っ白になり、前田あっちゃん似だったオマエの嫁は、あっちゃんのコスメティックサージェリー完了と共に別人になったが、これはまあ…高い確率で、どっちにとっても幸福なランディングだろう。
そうそう…ついでに言っておくが、ケネディの娘はオマエが思ってる程は使えない。
しかし、オレが問題にしたいのはそんな事じゃない。じゃあ、どれの事か。
オマエが推測も出来ないことを心から祈るよ、プレジデント。
フロリダでゲイがゲイを近親憎悪して、あろうことか音楽のリズムに合わせて銃撃した。
銃の乱射による大量殺人なんて、そっちじゃ当たり前だろう。ホモフォビアが痛ましい事件を起こす事も。
世界中でホームグロウイング…つまり、インターネットという駄菓子の食い過ぎという最も幼稚なテロによって、銃撃が続いている。
しかし、「クラブでキックの音に合わせて銃を撃った。」と証言した容疑者は、合衆国史上…つまり人類史上初めての事だ。
ラク…オマエの任期中にだ。
この責任はいつか必ず取ってもらう。
模倣犯や、ましてやこの方法の一般化が起こったら、オマエの名前は歴史に残る。ルーズベルトトルーマン組のように。
もう今更、オマエに贈るウィズダムは無い。
核兵器を無くすのは容易ではない。しかし必ずいつか実現する。」などと言うのはバカでも言える。しかし、先に一般市民の銃火器の使用を規制もしくは撤廃する事はバカには出来ない…とは言わない。
キューババチカンヒロシマをスリーカードにして、何が欲しかったんだろうな…なんていう、下衆の勘繰りもしない。
ただ…バラク、もう一回言ってみろ。
「YES, WE CAN.」…今こそ、もう一回言ってみろ。
「YES, WE CAN…CHANGE !」
もしオマエが結果として…だが、トランプにバトンを渡す事になったら、あの時、全米のカラードとイミグランツ達が涙を流しながら何度も叫んだ、あのシュプレヒコールは…そっちの意味だったのか。…なんて程度の低い嫌味は、言わない。
ただ、もう一回、オマエの好きなマイクの前で言ってみろ。「YES, WE CAN.」
ナガサキの人々の前で言ってみろ。「YES, WE CAN.」
韓国の人々の前で言ってみろ。「YES, WE CAN.」
合衆国初の黒人大統領、バラク・オバマフセイン・2世…。
言わねえなら、トランプに耳打ちするぞ。「今度はオマエが同じことを言え。」と。


我々は変わらない。
変わらなくていい。
変わるつもりは毛頭無い。
「私たちにはできる!」などと叫ぶ必要もまったくない。
音楽を今まで通り、愛している事に対して。
愛を信じる事が恥ずべき事ではない、という真理に対して。
それはまるでベッドインのように、ダンスフロアのように、自然な事だからだ。
もちろん…寒々しいベッドインだってある。ガラガラのダンスフロアも。
しかし、そこに愛があり音楽が流れていることは間違いない。


妻を殺害されたフランス人が、「自分は復讐心は持たない。だから、テロリストよ。君達の負けだ。」と言った。
これを素晴らしい平和哲学だとか、薄っぺらい美談だとか言うのは野暮の二文字だ。
これはフランス人が「フランスの粋」というものを見せただけのことだ。
だいたい…テロリストに対して、勝ち負けを設定している段階で、フランス人の本来の肉食的な残虐さが透けて見えている。
人類は、自然・天然・動植物に対して、予告無しに死角から…つまり自分は安全圏内にいながらにして、効果的に相手を虐殺する事を繰り返して、ここまでのし上がってきた。
古代の弓矢から、ネットでの中傷まで含め、武士道のような哲学や市民的なダンディズムを維持できなくなっている人類は今、総テロリスト化に向かっていると言えるだろう。
「我々はテロリストと戦う。」という、もっともらしい顔をしたトートロジーには、毎度の事ながら歯が浮くぜ。
インターネットの法規制ひとつも出来やしないくせしやがって。
何が「テロと戦う」だ。何が「YES, WE CAN.」だ。


我々人類はもはや、敵と共に絶滅するか、敵と共に高次元へ上がる以外、もう手詰まりだ。
賢人は詩を残した。
「僕たちはオールを握り、懸命に流れに抗った。でも、いつも流されるだけだった。あの過去へと。」
その通り。しかし、だから何だ?
何度だって過去に戻ってやる。
そこには傷があり、呪いすらあるかもしれない。
しかしそこには、必ず最高にグルーヴィーな音楽もセットされている。
この店のレコード棚のように。


別の賢人は詩を残した。
ジーザスはいる。だけど、何もしない。」
別の賢人も詩を残した。
「起きろ。起きて続けるんだ。セックス・マシーンのように。」
別の賢人もまた、詩を残した。
「僕が必要なのは、セクシャルなヒーリングなんだ。」と。


我々の敵に告ぐ。
音楽を舐めるな。
音楽は、何やらいい気分にさせるちょっとしたBGMであると同時に、コード進行が、ベイスラインが、そいつの人生を変える。
耳障りで気持ちの悪い雑音であると同時に、神を降ろす…神事そのものでもある。


寝付きが悪いままこの夏を過ごしている人々へ。
最小から最大までの、あらゆる怒りや恐怖を抱えている、多くの人々へ。
「誰でも構わないから人が殺したい。それから自分も死ぬのだ。」と思っている、すべての人々へ。
今からでも遅くはない。この店に集まってくれ。
そしてもしオマエが敵の一人であっても、オレには識別できない。
我々は敵と共に生きるダーティーさを取り戻さないといけない。
そのために今から、天国にいる殿下を、CDJのスタートボタンひとつで、呼び戻すことにした。


ラク…久しぶりだな。このマイクに乗せて、オマエに話し掛けるのも、きっとこれが最後だ。
お疲れさん。楽しかったよ。
これからはせいぜいテロリストと戦うがいい。
そして、この曲のキックの音に合わせて、銃を乱射する二人目の奴が出るかどうか…我々の本当の戦いはそれからだ。


菊地成孔の粋な夜電波 ソウルBAR〈菊〉」…今夜のスターティングチューンは、プリンスで「The Everlasting Now」。
無限の愛、無限の自由、そして…無限のダンスとセックスを!

(曲)

ベーアー:  YO-YO-YO、YO-YO-YO、YO-YO-YO-YO-YO-YO-YO。YO-YO-YO、YO-YO-YO、YO-YO-YO-YO…ポケモンGO…あーもう…殿下のありがたい御言葉を頂戴してるというのに、店長がまたいないぞ〜。店長のインスタグラムを見てみようかな。…あっ!…『事務所の近くで大変な人だかりが。警察も出ています。事件が起こっているようなので行ってみました。三三七拍子、ドユコト〜!?』…って、ボクのネタ盗んでるし!
店長: おい、大変だベーアー。うちの事務所近くで車が通れないぐらいの人だかりなんだよ。新宿御苑の大木戸門のところに若い人がたくさん集まってさあ。全員携帯電話でなんかやってんだよ。とうとうエジプトみたいに革命が起こるかな、この国にも。
ベーアー: 店長…それはゲームですよぉ。
店長:  えっ、ゲーム?…ゲームって部屋でやるんじゃなかったの?…引き籠もりの皆さんが。
ベーアー: 店長みたいな、音楽ばっかり聴いて、ネットから脱落している中途半端な大人がいるから、麻生さんがクソ寒いこと言うんですよぅ。
店長: なんだオマエ、今…てめえ、どさくさに紛れて「中途半端な大人」言うたろ。万年バーテンダー修行中のくせしやがって。
ベーアー: それよりも店長。このアルバム「The Rainbow Children」は、殿下のマニアの中でもベストに挙げる人がいるぐらい、ジャジーでファンキーな傑作なのに、なんと現在廃盤。最もお値段が高騰している、謎のアルバムです。
店長: 海外ではCDが100ドル超え、ヴァイナルに至っては900ドル超えだからな。発売時にCDで買っといてよかったな〜。
ベーアー: 嘘ばっかり!…ブックオフで300円で見付けて、泣きながらキャンディみたいにペロペロ舐めて喜んでたくせに!
店長: うるせぇ、てめえ!…ほんとに食らわすぞ!
ベーアー: 菊地成孔の粋な夜電波」、本日は久しぶりの「ソウルBAR〈菊〉」の開店です。
店長: え〜、私…店長の菊地、そして万年バーテン見習いのベーアーと二人でお送りいたします。1時間ノンストップのソウルミュージックをお楽しみください。本日は最初に、いつもの締めの言葉を。「みなさん、愛し合いましょう。愛し合いましょう。愛し合いましょう。…音楽の力を、好きなだけ使って。
ベーアー: ウイスキーミルクとブランデーの7UP割、どちらかをご注文ください。ボクがいくらでも作っちゃいます。YO-YO-YO〜!